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始まり(チュートリアル)の終わり



 それは古きおとぎ話――

 かつて、親が夢に現実を見失う若者に説いて聞かせた、寝物語の戒めの悪魔。

 若さにおぼれる誰の元にも訪れる、憧憬の苦難と危険を説いた存在。

 彼の根源は情熱。彼の意味は偏執(へんしつ)


 ――無茶なことばっかり考えていると、拷問(トルトゥーラ)の悪魔に囚われるよ……



『へっ! 身の丈に合わねぇことを考える、悪い()はどこだァッ!?』



 黒く太い腕が、オーガの巨腕を受け止めた。

 獣のような体毛に覆われた体。甲殻にも似た巨大な手足の爪。俺の見知るどの獣にも似ていない、けれども獣面とも言える容貌の漆黒の悪魔が、俺の前に立っていた。


『時間がねぇ! 一気にやらせてもらうぜぇ!』


 その爪が、オーガの太い腕を引きちぎる。

 一撃。たった一撃で、筋肉の塊であるオーガの腕が、右胸の付け根から吹き飛んだ。オーガの悲鳴が森の中に響き渡る。


「オァアアアアアァァァ!」


 つ、強ぇ! 何だ、このカード!?

 ステータスを開き、【カード一覧】を確認する。



『狂気の悪魔、トルトゥーラ』


1:4/4

 『名称(めいしょう)』・同じ名称を持つアバターは、一体しか召喚できない。

 ・このアバターを召喚している限り、あなたの最大HPは3になる。

 ・あなたのHPは、時間経過(三十秒)とともに1ずつ失われる。



 やっぱり、デルムッドと同じ『名称』持ちか!

 しかも、何かとんでもねぇデメリットがついてる!?

 低コスト高能力(パフォーマンス)の代償か!


 急いで自分のステータスに表示を切り替える。


名前:コタロー・ナギハラ

HP:2/3(最大HP低下中)


 オーガの一撃を受けたせいで、減ってるのか。

 そうこうしているうちに、HPの表示が2から1に切り替わった。

 カードの表記が正しいなら、残された時間はあと三十秒!


「決めろ、トルトゥーラ!」


『おうよ! オゥラァァァァ!』


 振り下ろされた巨爪の一撃が、オーガの頭部を粉砕する。

 魔物を食う魔物、巨大な捕食者が、悪魔の一撃に沈んだ。


 俺たちを追い立て、手持ちのアバター全てを打ち倒した強敵の、それはあっけない最期だった。


 飛び散ったオーガの血肉にまみれながら、狂気の悪魔は俺を振り返り、にたりと笑った。


『じゃあな。次は、俺よりもっとマシな奴を呼べるようになりな。――お前には、期待してるぜ』


 そう言って、トルトゥーラは消えた。カードに戻ったのだ。

 三十秒を経過しても、トルトゥーラが消えたことで、俺のHPは1残ったままだ。


 後に残されたのは、オーガの死体と、生き延びた俺とアシュリーだけ。


「……ありがとな、トルトゥーラ」 


 静けさの中でぽつりとつぶやくと、ウィンドウが開いてメッセージが表示された。


『階位が上がりました。状態確認を行ってください』

『新規カードを入手しました。新規カード一覧で確認してください』


 とりあえず、【状態確認】を表示する。



名前:コタロー・ナギハラ

職業:召喚術士

階位:2

HP:1/7

魔力:1/2

攻撃:0


スキル

『アバター召喚』『スペル使用』『装備品召喚』

『魔力高速回復』『カード化』『異世界言語』



 やっぱり攻撃力はゼロのままか。でも、HPと魔力が上がってる。

 これで、コスト2のカードを使えるようになったな。


 手の中に現れたのは、最初と同じ白いブースターパック。

 開封すると、五枚のカードが現れ、消えた。


 そしてオーガの死体から現れたカード。



『ブラッドオーガ』

4:3/5

 『高速再生1』・このアバターは、時間経過とともにHPが1ずつ回復する。



 どうりで。デルムッドたちと何度も連戦してるのに、しぶといはずだよ。

 オークを一撃で葬り去る腕力と、トルトゥーラの一撃でも倒れない体力。

 しかも自己再生能力か。たぶん、デルムッドたちのつけた傷は俺たちを追いかけてる間に回復されてたな。


 カード確認を終えて胸をなでおろすと、地面にうずくまったままのアシュリーの姿が目に入った。

 彼女は、こちらを見上げ、涙を両目にたたえていた。


 まずい、トルトゥーラに怯えたか?


「あ、アシュリー。今のは、その……」


「ばか……」


 ぼろぼろと、涙が彼女の頬を伝う。

 彼女はがばりと立ち上がると、そのまま俺に抱きついてきた。


「何で逃げなかったのよ! 人間がオーガなんかに殴られたら、死んじゃうわよ! なんで、かばったりしたのよ! なんで! なんで……っ! ばかぁ……ッ!」


 俺の胸に頭をこすりつけ、心音を確かめるように、彼女はずっと泣きじゃくった。

 俺は呆気に取られ、そしてゆっくりと、その柔らかい髪に手を伸ばす。


「ごめんな、心配かけて。二人で生き残りたかったんだ。必死でさ。でも……心配するよな。ごめんな」


「いいわよ! 生きてたんだから……あた、あたし、あんたが死んじゃったかと……」


 彼女が落ち着くまで、数分かかった。

 もう二度と、あんな無茶はよせと念を押された。

 まぁ、アシュリーからすればひ弱な一般人が盾になるなんて無謀もいいとこだもんな。

 でも、二人とも生き残れてよかった。


 その後、落ち着いたアシュリーがオーガの素材を回収している間に俺は自分に回復呪文をかけ、HPを全快にした。さすがにHPは自動回復しないらしく、いつまでも1のままでいるのはキツかった。

 脳から汁出てる間は夢中だったけど、実質瀕死だもんな。


 デルムッドを呼びなおし、俺の魔力が回復して万全の状態になったところで、俺たち一行はようやく森を抜け、アシュリーの案内で人里を目指した。


 長いようで短かった森のサバイバルよ、さらば!

 いよいよ、異世界の人の街に到着だ!






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