エルフのドローフェイズ
四日が経ち、エルフ戦士の男性陣が屋敷にやってきた。
これで我が家の警備も万全……
とはすぐにはいかず、ドライクルさんの警備兵から仕事の要点を教授してもらうことになる。
装備や、王都外出用の衣類も注文しなきゃいけないしね。
皆さんの寸法が測れてから注文できたので、ちょうど良かった。
その後やってきたドライクルさんから、警備兵強化計画に対して陛下の許可が下りたというので、エルフ戦士の皆さんを『鑑定』していくことにする。
名前:バルナテル
種族:エルフ
3/3
魔力:3/3
・『敏捷』
名前:フラムテル
種族:エルフ
4/2
魔力:2/2
・『探知』
名前:トリスケア
種族:エルフ
1/5
魔力:4/4
2:『ゲイルスラッシュ』
……などなど。
嬉しいことに、ステータスが平均的に上級騎士寄りの高さなのに加えて、さすがエルフというか、十七人来てくれた中の八人もが魔力を持っていた。
前評判通り、本当に強いなエルフの戦士。
世代間で、それぞれの名前が少し似てるのは、エルフ独特の名付け方でもあるのかな?
魔術士のトリスケアさんだけ攻撃力が1なので、『ラッシングジャガー』のカードでも持ってもらおう。
『奇襲』持ちの前衛になる相方がいると、屋敷内の警備でも大丈夫だろう。
となると、必然的にあの人を頼るしかないわけでして。
******
「……そういうわけで、わたしが呼ばれたんだねー」
ずらりと並んだエルフ陣を前に、屋敷に来てくれたエルキュール所長が苦笑する。
いつもお世話になっております。
エルフの戦士たちも、横一列に並んで一斉に挨拶する。
むくつけき男たちが整列して挨拶する光景は、実に汗臭い。
「いや、良いんだけどね? 陛下の許可は下りてるそうだし。……ただ、結構な人数だなぁ、と思ってさ。この人数がみんな『カード』を使うとなると――この屋敷、ドラゴンでも攻めてくるの?」
「暗殺者に襲撃される可能性はあるそうなので。できることはしておきたいな、と」
俺とナトレイアも含めれば、カード使いが十人も詰める館になる。
万が一、もし王国軍に裏切られて囲まれても、真正面から戦えんこともないよ?
まぁ、そんな予兆があるなら、真っ先に身分を捨てて国外に逃げるだろうけどね。
「陛下からは、『カード』装備部隊のテストケースとして許可されているよ。使い切りの魔術や召喚を、多数の術士が連携して運用することでどのように戦局が変わるか、それを調べて欲しいそうだ。だから、頼めるかな、ロムレス伯爵?」
「はぁ。それは構いませんが……デズモント侯は、運用試験の責任者ということになるんでしょうか? なのになぜ、エルフの戦士たちと一緒に並ばれているのです?」
所長の疑問に、ぎくり、と表情を強ばらせる、デズモント候ことドライクルさん。
隣には、エルフの里の族長のグリザリアさんも並んでいる。
「わたしたちも魔力があるので。一緒に、その……『かーど』? を、使えるようになれたらなぁ、と思いまして……」
口元に手を当てて楽しそうに微笑むグリザリアさん。
観念したように、ドライクルさんも白状した。
「私も同じだ、ロムレス伯爵。『英雄』オーゼンの息子として、デズモント侯爵家当主として、年甲斐も無くナギハラ伯爵の能力には興味を持っている。責任者として、他の貴族より先んじて手に入れることを、陛下から特別に許可された」
「……ドライクルさん。ところで、オーゼンさんは?」
「父上は隠居の身なので後回しだ。安全性が確認されたら許可しても良い、と」
横からの俺の質問に、ドライクルさんがしれっと答える。
低コストカードの安全性なんて、とっくに報告されてるだろうに。
員数外のカード使いを増やしたくなかったんだな。陛下が頭を抱えながら決めた姿が目に浮かぶ。
所長も所長で、上位貴族からの頼みなので、否応も無くうなずいていた。
ちなみに、ドライクルさんとグリザリアさんの『鑑定』結果はこちら。
名前:ドライクル
種族:普通人
2/3
魔力:4/4
2:『金剛身』・三十秒間、自身のステータスに+1/+1の修正を与える。
名前:グリザリア
種族:エルフ
1/2
魔力:6/6
3:『スタンランペイジ』
2:『アクアスライサー』・対象に2点の水の射撃を行う。魔力を1回復する。
ドライクルさん、何気に強いんだけど。
戦場に立つ機会が少なかったから自覚してなかったらしいけど、『金剛身』のスキルはオーゼンさん譲りだな。血筋かな?
二回発動できるんで、ピンポイントの接近戦ならそう負けなさそうだ。
グリザリアさんは、俺の知らない水魔法も持っていた。
族長だから自衛力はあるらしい。今度コピーさせてもらおう。
「はいはい。じゃあエルフたちから順に同調させていくよ。コタロー殿の持ってる『カード』が見えたら教えておくれよ。それからは、その感覚に慣れるだけだから」
そう言って、所長は並んだ順に魔力の波長を同調させていく。
エルフの戦士たちから次々に「見えた!」「俺もだ!」と声が上がり、順調に見えているようだ。
所長の話によると、この操作の感覚を自分で再現できるようになると、所長と同じ『魔力同調』のスキルも覚えるだろう、ということらしい。
あくまで魔力を使った『技術』なのね、あのスキル。
使用人の女性陣にも持って欲しいので、エルフ戦士たちがスキルに目覚めなかったら、もう一度所長に頼むことになるだろう。
「皆さん、裏庭に訓練場がありますんで、そっちに移動して試し打ちしてみましょうか」
俺の提案に、興奮した全員が「おう!」と声を上げた。
ドライクルさん、何の違和感も無くエルフ戦士に混じってますね。本当に現役侯爵?
******
「――ゆけ、『ラッシングジャガー』ッ!」
『ラッシングジャガー』
4:3/4
『奇襲』・このアバターは、敵に攻撃した状態で召喚される。
『敏捷』・関連する負傷を負っていない場合、高確率で攻撃を回避する。
訓練用の木人形に向けて、突如空中に現れたジャガーが飛びかかる。
魔術士型のエルフ、トリスケアさんが頼もしそうにこれからの自分の相方を見ていた。
「我々はどのような『カード』を持てば良いですか?」
「エルキュール殿、ご教授を!」
「あー、うん。魔力2と3だと、攻撃呪文なら『フレイムボルト』と『ファイヤーボール』が使えるよ。その他には、接近戦用に、コスト2だと『光輝の大盾』、コスト3だと『飛行』を得られる『束の間の翼』とかがお薦めかな……」
それぞれの名前と魔力量を書いた一覧表を手に、エルフ戦士たちが所長に詰め寄っている。
所長は、美形とは言えいかつい男たち複数に真剣に詰め寄られて、もうタジタジだ。
下心がまるで無くて、本当に仕事熱心だな、エルフ族。
最初は俺が割り振ろうかと思っていたんだけど、こういった魔力値ごとの割り当てに関しては、先にエルキュール所長が研究していたらしいので、丸投げしてしまっている。
魔力値が高くても低くても、取れる選択肢が多いと、『どの選択肢を選ぶか』――つまり、カードの使い方を考える判断力が重要になるからな。
俺も経験から一応、助言はできるんだけど。
この世界の集団戦になると、自前の伯爵領軍を持ってる所長の方が詳しい。
「おお……こ、これが、私のグリフォン……ッ!」
ドライクルさんは魔力が4あるので、ラージグリフォンとブラッドオーガを複数渡してある。どちらも俺たちがよく使っていた、実戦証明済みの戦力だ。
自分の分身であるグリフォンの胸のもふもふに埋もれて、ドライクルさんは幸せそうだ。
完全に言うこと聞く飛行戦力だからな。最大魔力量までの召喚制限があるから一体までしか喚べないけど、移動に戦闘に、役立つことは請け合いだ。
こっち見んな、ナトレイア。魔力足りないんだから、お前が喚べないのは仕方ないだろ。
「――コスト制限いっぱいまで召喚しても、誰も体調は悪くなって無さそうですね、所長」
「そうだね。やっぱり、わたしがドラゴンを喚んだときは、管理者のコタロー殿の力量を超えた召喚だったから無理があった、ということなんだろうな」
「……えーと。わたしも、これでフレアドラゴンやアースドラゴンを喚べるの?」
グリザリアさんが、手に持ったドラゴン二種のカードを手にして、不思議そうに首をかしげている。
「できるが、覚悟はして使った方が良いな。体験談だけど、かなりキツいよ。……コタロー殿が成長すれば、その限りでは無いと思うんだけど」
「あらあら、まぁまぁ。そうなの。……早く成長してね、伯爵?」
「……がんばります」
グリザリアさんに母性溢れる笑顔で催促されて、俺としてはそう答えるしかない。
もし経験値をカウントしてるならアースドラゴンで足りてると思うから、あとはきっかけだけなんだよね。
俺も上がるなら早く上げたいよ、自分の階位。
……でも、それにはまた、死にかけそうな危険がついてくるわけで。
楽じゃないなぁ、異世界。
「……コタロー殿が故郷に帰る頃には、大陸を更地にできる実力になってるんじゃないだろうか」
「あり得ますね。物理法則の違う、違う世界に渡るとか、もう人間のできることとは思えないですし」
アバターのコストも、3と4と5と6で、それぞれ別次元みたいな強さだからな。
コスト7以上のアバターとか、どんな能力を持ってるのか考えただけでも恐ろしい。
だって、『あの』フレアドラゴンやアースドラゴンでさえコスト6だよ?
「いや、コタロー殿なら、話に聞くエルダードラゴンも喚べるようになるかもしれないね!」
「あらあら。エルダードラゴンは、通常の獣のドラゴンと違って、知性のある上位存在なのだけど……そうね。伯爵なら、もしかしたら……」
やめてください。何ですかそのフラグ。
ドラゴンの上位種とか、そんな規格外なのもいるの?
生態系どうなってんだよ、この世界。
「知性があるなら、カード化は難しいかもしれないですね。試したことはないですけど、人間とかエルフとかはたぶん、命を奪ってもカードにならないので」
「あら、そうなの、伯爵?」
どこか少しほっとした様子のグリザリアさん。
そうだね、俺に殺されたらカード化されて操られると勘違いしてたのかもね。
俺はゾンビ使いか。
ともあれ、たぶんだけど、ある程度以上の知性があると討伐して種族カードを手に入れるんじゃなくて、『名称』組みたいに、自分の意志でカード化を自己選択してもらうことになるんだと思う。
じゃないと、アバターは俺の分身だから、中身が俺になっちゃうからな。
ぞっとしないと言うか、想像できないと言うか。
「まぁ、エルダードラゴンは、西の大霊峰の『竜の谷』から出てこないという話だから。接する機会は無いんじゃないかな」
「そう願いますよ、所長。本当に」
大霊峰か。たしかコメが栽培されてるかもって、アシュリーがいつか話してたな。
いつか行くこともあるのかな。
俺は、いつまでこの世界にいるんだろう?
日本の仲間たちの姿が脳裏に浮かび――
ふと、アシュリーたちの姿がそれに重なった。
……俺は、いつまでこの世界にいるんだろう?
いつまでこの世界に、いられるんだろう……?




