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カード使いの会食



 国王陛下が、帝国を追及する方針を貴族内に公表した。


「まぁ、まだ帝国内の『手段』の管理の是非を問う、という内容に過ぎぬがの。――陛下は王都襲撃の封印解放の手段の在処として、帝国の名を出された。これは間違いない」


 オーゼンさんの説明により、会食の食卓中に張り詰めた空気が満ちる。

 それに続くように、ドライクルさんが宮中の貴族内の動きを話してくれた。


「この発表は、数日中には帝国に伝わるだろう。公式なルートでは無いけれど、帝国と好意的な関係にある貴族は多数いる。――と、同時に、ナギハラ伯爵。陛下のきみの扱いについて疑問を持つ貴族もね。それらが合流して動くだろう、というのが陛下の予想だ」


「……貴族間の、俺の評判はどうなっているんです?」


 俺の質問に、ドライクルさんは一瞬、居住まいを正した。

 ……うん。良いものじゃないってのは、わかってますよ。


 ドライクルさんの返答は、ある程度、俺の予想通りのものだった。


「救国の英雄、として『畏れられている』。……まぁ、当然だろうね。伝説に語られる災厄を実力で討伐したという王宮の発表に留まらず、グリフォンやオーガを個人で多数召喚できることが知られている。一体だけだが、ドラゴンでさえ喚び出せるともね」


「――所長の演説が、正確ではないにせよ伝わっておるからな。貴族街区からも見えたフレアドラゴンは、お主が所長と喚び出したことになっておる。その魔術を研究所が研究した結果、国王陛下でさえ御しきれぬ実力を持つ存在である、という噂じゃな」


 割と尾ひれもついてるな。

 国王陛下とは臣従しないまでも協力関係で、上手く制御されてるとは思うけど。


 と、思っていると、オーゼンさんが呆れたように付け加えた。


「まぁ、真実が半分、誇張が半分、じゃな。国王陛下とて、お主に何かを無理強いはできぬ、と理解しておられる。故に、叙勲式では『忠誠』を求められなかった」


「忠誠は誓わなくても、並以上の敬意は持ってますよ。頼まれごとも、カードの研究なんかは俺にとって命綱だけど、国に対する協力は拒否してないじゃないですか」


「それは、国王陛下の理念とナギハラ伯爵の思想が一致しているからだね。国の仕組みとしての階級、つまり立場としての忠誠ではなく、お互いに『ウマが合う』から協力関係が成立していると言って良い。片方が考えることが、相手の無理になってないということだ」


 ああ、なるほどね。

 確かに、権力構造上の強制力は無いな。

 その点では、陛下の認識は貴族を配下に置いていると言うより、冒険者の助力を得ているという構造に近いのかも知れない。


 ……自分の認識的に、俺は今でも冒険者だから、間違いでは無いんだけど。

 本来は、貴族籍に身を置いている以上、こういう自由な認識ではいられないんだろうな。


「誇張が半分、と言うのは、そうした印象を陛下が意図的に演出しておられるということじゃ。……伯爵の能力は、強力で、かつ便利すぎる。王家が配慮して保護に回っているという印象を強めて、他の大貴族の接近を牽制しておるのじゃな」


「……まぁ、それでも、近寄ろうとしてくる貴族はいると思うけどね」


「他の大貴族が俺の能力を利用すると、王家の威信を脅かし、ひいては王国の屋台骨が揺らぐ。あくまで俺の能力は王家の管理下にあると示したい、ってわけですね」


 俺の理解に、そうだ、と二人が同時にうなずく。

 俺としても、国のトップである王家の協力があるのは無用な混乱を招かずに済むので、そこに無駄に反発する理由が無い。


 俺と国王陛下は、お互い利害が一致している、というわけだ。


「……と、いうことは、ですよ」


 俺の存在や能力の一端は、正確性はともあれ、帝国にも知られるだろう。

 そうなると、攻め滅ぼそうとしていたマークフェル王家の手に俺の存在があるのは多少なりとも邪魔に受け取られるだろう。


 その考えを肯定するように、オーゼンさんがうなずいた。


「そうじゃの。伯爵は、政治的にも武力的にも、ある程度帝国に狙われることになると思うぞ。何と言っても、帝国の計画を潰した張本人じゃからの。王家から手放させるか、孤立はさせたいじゃろうて」


「――政治的には、その出自の曖昧さからナギハラ伯爵の信用を問う噂が、王国の貴族間に出回るだろうね。武力的には……暗殺の可能性もある。周辺に気をつけた方が良い」


「警備兵を借りたり、そこら辺の襲撃の可能性は気をつけてるんですけどね……政治的な問題って、俺の信用に関しては、別に帝国が関係しなくても、どのみち噂が出回るんじゃないですか? 怪しいでしょ。他国人なのに、いきなり騎士爵から伯爵って」


 俺だったら真っ先に疑いますね、と言う俺に、二人は笑い声を上げた。

 それはもっともだ、と。


 出自上、どうしてもそうなるから、爵位はあまり受ける気が無かったんだよ。

 無理矢理に勧められたから受けたけど、こんな身元不明の英雄、どう考えても内憂の原因になるだろ。


 というか、『畏れられてる』って話から、もう噂は出回ってるでしょ。それ。


「まぁ、俺の評判は覚悟してたんで、どうでも良いんですよ。『それ以外』の噂が出回るか出回らないか、俺の興味はそこだけです」


 アシュリーのことが噂になるかならないか、それが問題だ。


 元々、アシュリーの正体は、国王陛下でさえ確信を持てずに、本人が言い出すまで直接尋ねられなかったくらいの変わり様だ。

 帝国の公爵家自体が指摘でもしないと、王国内での露見は難しい。


 けれども、離れた帝国の公爵家が、どうしてその存在を嗅ぎつけられるのか、という話になる。


 王国に介入していなければ、俺はともかく、アシュリーの存在まではわからない。

 一従者の正体を風聞に乗せられるほど、この王国内の事情に精通しているのなら、それはあらかじめ事情を調べるだけの準備が必要だった、と言うことになる。


 ……王国転覆の算段を手助けしていた、とかな。

 そのときこそ、俺たちが帝国に乗り込むときだ。


「……それなら、準備はもうしていた方が良いね」


「出回りそうですか?」


 忠告してくれるドライクルさんに尋ねてみると、うーん、と悩まれる。


「それは、どう転ぶかわからないね。物証が無く、その成否で帝国の真偽が問われるほどの事柄だから。……ただ、正体が掴まれている場合は、ナギハラ伯爵の存在が邪魔になる。彼女に罪を着せようとすると、必然的にその主人であるきみを首謀者にする必要がある」


「その場合、俺の、功績に基づいた弁明が邪魔ってわけですね。……死人に口なし、であらかじめ俺が始末される可能性を考えていた方が良いのか」


「そういうことじゃの」


 物騒な話になったな。でもまぁ、ある程度は覚悟してたことだ。

 何しろ、向こうの侵略計画を潰しちゃったわけだからな。


 ドライクルさんとオーゼンさんはこういう話に慣れているのか、動じることも無い。

 やっぱり高位貴族だから、日常的に暗殺の危険性なんかは付きものなんだろうな。

 修羅場くぐってんなぁ。


「……本当であれば、今頃この国は貴族法反対派たちのものになり、ひいては、手引きした帝国の属国化の道を進むばかりじゃったじゃろう。そうならなかったのは、伯爵のおかげじゃ。本当に感謝しておる」


「私もだよ。自覚していない者が多数だが、何しろ我々高位貴族は、ナギハラ伯爵たちに命を救われたわけだからね。後押しは任せてくれ。派閥内外に、ナギハラ伯爵たちの動きの根回しをしよう」


 請け負ってくれる二人の言葉に、頼もしさを感じる。

 従者として同席しているアシュリーの方を見ると、彼女もしっかりとうなずいていた。


「あらぁ……伯爵は、やっぱり王国の重要人物だったのねぇ……」


 そんな声が聞こえた。

 同席していたグリザリアさんだ。


 大変なことが起こる、と理解してくれてはいるんだろうけど。

 俺が狙われるようになると、少しまずいかな。

 せっかく雇ったエルフさんたちにも、危険が迫るかも知れない。


「すみません、グリザリアさん。ちょっと厄介なことになりそうです。雇用の件に関しては、その辺も含めて考え直していただいた方が……」


「あら、大丈夫よ? うちの里の戦士たちは強いわ。――それに、暗殺ならほぼ夜襲でしょ? 夜の森にも慣れた、エルフの方が屋敷の警備には適任じゃないかしら」


 あっさりと飲み込んでくれるグリザリア族長。

 確かに、森で戦うエルフ族の戦士は、環境的にゲリラ戦士の素質はあると思うけど。


「どのみち、警備は必要なのでしょう? ……それなら、うちの戦士たちをお薦めするわ。うちの戦士たちに無理なら、その辺りの普通人種にはもっと無理だもの。――仕事と聞いているのよ? 人里に、ただ遊びに来るつもりで安穏と来る戦士なんて、元からいないわ」


 イスカイアさんなんかは遊びに来たがってたみたいだけど。

 俺も、もう少し気楽に、街中で絡んでくる貴族とかから使用人さんたちを守れたらいいなぁ、とかその程度の考えだったんだけど。


 ……この世界を甘く見ていたのは、俺の方だったみたいだ。


「森の主の脅威を打ち払い、我が里に豊穣をもたらしてくれた、優しき普通人種の英雄よ。あなたたちの身を守るために命を懸けること、エルフの里の族長、このグリザリアが請け負いましょう。――我らエルフ族は、信用には信用を、信頼には信頼を返すのです」


 そう言ってグリザリアさんは、黙って横に座っていた娘のナトレイアに視線を向ける。

 母の、族長の言葉に応えるに、ナトレイアもまた決然とうなずいた。


 ナトレイアだけじゃなく、エルフの警備兵たちにも、魔力がありそうなら『カード』を使ってもらうか。


「伯爵……おぬし、使用人たちに能力を使わせようと考えておらぬか……?」


 オーゼンさんに心を読まれた。良いじゃないですか、自前の能力なんだし。


「国王陛下が、使用者の選抜に苦心されておると言うのに……だから、陛下ですらおぬしを御せておらぬと言うのじゃ」


「私も使ってみたいんだけどねぇ。所長のような魔力があれば、私も『英雄の息子』という呼び名にふさわしい活躍ができるのかもしれないな」


 うなだれるオーゼンさんとは逆に、目を輝かせるドライクルさん。

 あなたも『カード』に興味をお持ちでしたか。


 陛下の許可さえ下りれば、いつでもカードショップ・コタローを開店しますよ?


「伯爵の魔術は、誰でも使えるのかしら? ……しばらく、わたしも伯爵に仕えてみるのも面白いかもしれないわね……どうせ、エルフの一生は長いのだし、少しくらい……」


 おお、雇われてくれたお礼に、エルフの里の防衛力強化というのも良いかもだな。

 近いうちに、所長に相談してみないと。


「ええい、おぬしらだけで楽しそうなことを話し合うでない! わしだって使ってみたいわ、そんなもんッ!」


 たまりかねたオーゼンさんまで叫び出す。

 使ってみたかったのね。陛下が選抜してたから遠慮してたのね。


 オーゼンさんは魔力があるし、グリザリアさんも魔術を使うから大丈夫だな。

 ドライクルさんも後で『鑑定』してみよう。


 ということを伝えると、ドライクルさんに喜ばれた。

 陛下の派閥なんだから、たぶん使用許可は下りると思うけどな。

 所長に検証役に駆り出される気がしないでも無いけど。人手も増えて、所長も喜ぶだろう。


「母上……魔力を伸ばす方法をご存じないか? 私も、自前でグリタローを召喚できるようになりたいのだ」


 便乗して相談し始めるナトレイア。

 お前の魔力3だもんな。コスト4のラージグリフォンは自前じゃ喚べない。


 でもダメだよ、お前の魔力が4に増えちゃうと、消費2の『精霊の一撃』が二回続けて発動できて、四倍攻撃が可能になっちゃうだろ。

 過剰戦力だよ。


「あー……魔術に未練は無いけど、コタローの能力が使えないのは痛いわ……面白そうなのに、なんで、あたしには魔力が無いのかしらねー?」


 拗ねたようにぼやくアシュリー。

 ごめんよ。でも、アシュリーとはだいたい一緒にいるから、俺が喚んだり使ったりするから問題無い気もする。


 そんなこんなで、深刻な話題はいつの間にか、わいわいとカードの使い方の雑談に変わっていった。




 うん。やっぱり、カードゲームは楽しいよね。








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