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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第七章 ○○○ENDルート

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第三十二話 分断 ④真紅と白銀

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。格上たる真獣人(ハイテリオントロープ)リュカを相手に、アイリスは強い気持ちで食い下がる!

 二つ。対照的に、真翼人(ハイプテラントロープ)コルウスと戦うイクティナは力を発揮できず誹りを受ける!

 三つ。コルウスに仲間の命を奪うと脅迫され、イクティナは焦燥と共に敵に挑みかかる!

    ***


「さすがは六大英雄、だね」


 手にした武器。薙刀と呼ばれる長得物を通して痛いぐらいに伝わってきた衝撃。

 それを腕に感じて、フォーティアは素直に称賛の言葉を口にしてしまった。


「憎らしいぐらいに、強い」


 それから、そんな自分を戒めるように奥歯を噛み締めながら続ける。

 眼前の敵、六大英雄の一人たる真龍人(ハイドラクトロープ)ラケルトゥスは、かつてフォーティアの祖国である龍星(ドラカステリ)王国の霊峰オロステュモスに封じ込められていた。

 その封印が解かれた時、霊峰は噴火を起こし、多くの王国の民が犠牲になった。

 国から飛び出して七星(ヘプタステリ)王国で暮らしていた不良王族が言えた義理ではないかもしれないが、心の内には彼に対する怒りの気持ちもある。

 噴火自体は彼が引き起こしたことではないが、多くの同胞が命を落としたにもかかわらず、その切っかけを作った張本人と行動を共にしていることが許せない。

 フォーティア達現代の龍人(ドラクトロープ)の命など何の価値もないと考えている証拠だ。


(なのに……)


「随分と楽しそうだな」


 ラケルトゥスに指摘された通り、憎き敵との戦いに高揚を覚えている自分がいた。

 強大な相手に己の力の全てをぶつけられることに血が滾ってしまう。


「……うるさい」


 フォーティアは自分の中のそうした感情を否定するように返すと共に、薙刀の刃をラケルトゥスへと叩きつけようとした。

 しかし、感情を乱した粗い攻撃が六大英雄に届くはずもない。


「若いな」


 呆れ気味の言葉に続き、ラケルトゥスの持つ巨大な斧に受け止められて防がれてしまう。


(まずっ――)


 完全な悪手になってしまった。

 そう焦燥を抱き、カウンターを危惧して形振り構わず距離を取ろうとする。

 だが、間合いが完全に開くまでの間、敵の攻撃はなかった。

 完全に手心を加えられた形だ。


「何の、つもりだい?」


 だからフォーティアは、屈辱と未熟な自分自身への怒りを抱きながら敵に問いかけた。


「我が踏み台としての役割を果たさない内に殺すつもりはない」

「……馬鹿にして。結局、遊びだってことじゃないか」


 ラケルトゥスの返答を前に、別種の憤怒を胸の奥に渦巻かせながら吐き捨てる。

 あくまでも、フォーティア達を蔑ろにする考えを変えるつもりはないようだ。

 その上、闘争(ゲーム)は終わりだなどと言っておきながら、やっていることは変わらない。


「いいや、違うな」


 そんなフォーティアの言葉と考えを、ラケルトゥスは即座に否定した。


闘争(ゲーム)ならば勝利条件とその術が必ずある。だが、もはやそんなものは存在せず、お前達に生き残る目はない。死という未来は確定している。言わば屠殺だ」

「屠殺……ねえ」


 中々珍しい単語を聞き、その意味するところに眉をひそめる。

 家畜を丸々と太らせて、食べ頃になったら命を奪う。

 比較してみると、確かに彼らの意図に近いものがあるかもしれない。とは言え――。


「アタシ達は牛や豚と同じだとでも?」


 そういう風に告げられたも同然で、だからフォーティアは更に敵意を強めて尋ねた。

 前々から六大英雄の上から目線が気に入らなかったが、今回は格別だ。

 一対一で対峙しているが故に、そうした不快さも何もかも全て一人で処理しなければならないためだろう。

 仲間と離れ離れになっている焦りもあるかもしれない。


(……今は落ち着け。アタシ)


 しかし、そんなことでは駄目だと、冷静さを保たんと心の内で自分自身に言い聞かせる。

 つい先程、感情に任せて攻撃を仕かけて屈辱を味わったばかりだ。

 これ以上、失敗を重ねる訳にはいかない。

 乱れた感情ごと、肺の中の空気を全て入れ替えるように深く鋭く息を吐く。


「冷静になったところで、貴様に勝ち目があると思うか?」


 そんなフォーティアの姿を前に、挑発するようにラケルトゥスが問う。


「成程、実力を十全と発揮するには冷静さが必要だろう。だが、十全の力が相手より劣っている時にそれは、何の意味もないことだ」


 言い方に反感を抱くが、その内容自体はもっともではある。

 百の力の内、百の力を出せたところで二百の力に敵うことはない。

 そこまで圧倒的な差はないと信じたいが、今の自分の全力では届かないことは事実だ。

 だが、だからと言って、そうですかと納得してしまったら、ただ敗北するだけ。

 歯を食い縛って耐え、この戦いの中で今の自分よりも強くなるしか術はない。


「怒りや憎悪を殺すな。それらは実力以上の力を生み出す糧でもある」


 と、ラケルトゥスは何を思ってか助言のようなものを口にした。

 確かにそれはそうかもしれないが、同時に空回りして実力を発揮できない理由にもなるのが感情というものだ。リスクが高い。

 とは言え、冷静に戦おうとしてこの様であることを考えると、どちらを選ぶべきかは自明だ。

 そうしなければならない事実に、自分もまだまだ未熟者だと改めて思う。


「それと同じだけ、戦いを楽しむ気持ちも解放してやることだ」

「敵を相手にそんな真似、できない」


 それでも未だ残る幼さの発露だろう。

 フォーティアは即座には受け入れることはできず、そう反論した。


「本当にできないのか?」


 するとラケルトゥスは訝しげに問い返してくる。


「六大英雄は互いに憎み合う敵ではあるが、その戦いには心躍るものがあったぞ? 少なくとも俺やパラエナ、リュカ、スケレトスはそうだった」


 更に彼は過去を懐かしむようにしながら言うと、真っ直ぐこちらを見据えて「貴様は同類だと思ったのだがな」と続けた。

 フォーティアはそれを否定することはできなかった。

 自分自身、割と(一般と比べて)好戦的な人間である自覚はある。

 実際、今正にその感情を抑え込もうとしていたところだ。

 敵との戦いでそんなことを感じてはいけない、として。

 だが、それで何も変えられずに敗北しては意味がない。

 ユウヤ達に申し訳が立たない。


「敵に見透かされるのは心底気に食わないけどね」


 だからフォーティアは、余計なことは考えず目の前の戦いに没入することに決めた。


「助言したことを後悔させてやるよ」

「ふん。させてみせろ。それぐらいでなければ、踏み台にもならん」


 そうして互いに構えを取り、ほぼ同時に地面を蹴る。

 数合の打ち合いで、すぐに高揚感が胸の中に生まれる。緊張感以上に。

 やはり全力で困難な試練に挑むこと程、生の実感が得られるものもない。

 思えば、ユウヤと出会う前はそれこそ死んだようだった。

 進化の因子を持たない者にとって、越えられない壁は何億年かかろうと越えられないまま。昨日の自分より強くなると己に言い聞かせても、閉塞感に囚われていたのは確かだ。

 今、目の前にある壁は、恐らく以前よりも遥かに高い。

 だが、乗り越えられる可能性は零ではない。

 たとえ極小の数値だとしても。

 だから、フォーティアは気持ちの高ぶりを抑え込まず、それを解放させるように感情に身を任せた。ただひたすら勝利を目指して。


    ***


 白銀に染まった広大な部屋の中、ラディアは一人周囲を探っていた。

 入口の扉は勝手に閉まり、内からは開かない。

 完全に閉じ込められた形だ。魔法で攻撃をしても傷一つつかない。


(皆は大丈夫なのか?)


 それ以上の状況が全く分からず、不安と心配ばかりが募る。

 さすがに密室に一人きりという状態は初めてのことで、気を張り続けるのも難しい。

 そんな中、唐突に何者かが転移してくる魔力の気配が発生した。


「っ! 〈テレポート〉!」


 転移に対する妨害が消えたのか、と咄嗟にラディアも転移魔法を使おうとする。

 が、それは当然のように無効化されてしまった。


(駄目か)


 そして、そうこうしている内に、広間の中央に人影が現れる。

 白銀の光が人の形を取ったかのような存在。真妖精人(ハイテオトロープ)

 この場でその正体は一つの可能性しかない。


「貴様が、ビブロスか?」


 最後に封印を解かれた六大英雄。

 伝説の中では人格者として謳われていたが、最後の最後で女神を裏切った男。


「私は悲しい」


 彼はラディアの問いかけに答えず、呟くようにそう告げた。


「これでは余りにも貴方が憐れです」

「何を、言っている?」


 その声色が余りにも硬く、本気であることが分かったから。

 そんな反応を見せる理由が分からず、当惑してしまう。

 散々踏み台だの何だのと言ってきたのは何だったのか、と。

 しかし、思えば、そういう扱いをしてきたのはドクター・ワイルドをはじめとした他の六大英雄であり、ビブロスと顔を合わせたのは今が初めてのこと。

 あるいは、仲間内でも考えを異にしているのかもしれない。

 そう僅かに期待するが――。


「しかし、これもより多き人民を解放する大義のため。申し訳ありませんが、貴方にはここで死んで頂きます」


 続いた言葉に都合のいい考えは霧散する。

 同情めいた内容を口にしても、結局はドクター・ワイルドの一味に過ぎない。

 そうラディアは理解した。

 いや、あるいは他の面々よりも、たちが悪いかもしれない。


「できれば、抵抗などなさらないように」


 善人ぶった台詞に、何と言うか不快感を抱く。

 ただ単に悪人であるよりも酷い。


「私達を踏み台にするのではなかったのか?」


 光の巫女には中々強く出ることができなかったが、そういう部分もあってビブロスに対しては、やや無遠慮に問いをぶつける。

 同族ではあるが、この男は間違いなく敵だ。

 へりくだる必要性など欠片もない。


「私達が本当に必要なのは、貴方の中の魔力吸石だけです。他の六大英雄のような戦闘狂と一緒にしないで下さい」


 対して彼は、どこか不愉快そうに告げた。


「魔力吸石だけ?」


 自分一人はまともだと主張するような言い方に引っかかりつつも、優先して問い質すべき文言を抜き出して疑問の意を示す。


「そう。育ち切った魔力吸石を抜き取り、吸収する。それによって魔力を高めるのです」


 それに対しての答えに、ラディアは己の腕にはまっているMPリングを意識した。

 そうしながら、以前これを完全に機能させるため、多量の魔力吸石を要求されていたことを思い出す。

 魔力吸石とは、大きさに応じて魔力を蓄えたり、放出したりすることのできる物体。

 一定以上の魔力を有する存在ならば、誰もが体内に持っているものだ。

 それを吸収するということは、対象の魔力の貯蔵量と放出量を己のそれに上乗せするということに他ならない。


(今となっては、Sクラスの魔物から得た魔力吸石を吸収しても微々たるものだが……)


 ラディア達レベルの魔力吸石となれば、六大英雄の魔力の底上げすることは十分可能だ。


「成程、そういうことか」


 ビブロスの言葉を耳にして、ようやく合点がいった。

 これまでの闘争(ゲーム)は全てそのためにあった訳だ。

 その単語とドクター・ワイルドの言動とが相まって単なる愉快犯的な印象があり、彼らの行動に非合理的に感じる部分が多々あったが。

 最初から踏み台、いや、彼らの餌としてラディア達は飼われていたのだ。


「理解できたようですね。ならば、無駄な戦いは避けましょう」

「何?」

「貴方の命は私が未来のために役立てます。同族のため、命を捧げて下さい」

「なっ!?」


 大義を謳って随分と身勝手なことを言うものだ。


(……どことなく光の巫女を想起させるのが、尚のこと腹が立つ)


 改めてラディアは、この男が間違いなく妖精人(テオトロープ)そのものであることを、その気質からも否応なく認識させられた。

 全体主義の亜種とでも言うべき思考。ラディアには合わなかったあの種族性とでも言うべきものは、千年前には既に形成されていた訳だ。


《Evolve High-Theothrope》


 だから、ラディアは返答代わりに白銀の装甲を纏って戦意を示した。


「……愚かなことを。せめて苦痛なく逝かせてやろうという慈悲を蔑ろにするとは」

「ふざけるな。何が慈悲だ。私はお前の道具ではない!」


 以前ユウヤが口にしていたことを思い出す。

 他者の人格を道具として使うことを、人の自由を侵害することを許さない。

 心の底から同意する。それは悪の中の悪だ。

 大義を掲げることは好きにすればいい。

 だが、自分は大義の奴隷になることは容認できない。

 そのために使い捨てられるなど以ての外だ。


「もし本当に貴様の目的に大義があるのなら、お前達全員を倒した後に私達がそれをなそう。誰かを道具として扱うような方法なしにな」

「敵の強大さを知らぬからそのようなことが言えるのです。しかし……いいでしょう。私を倒すことができたなら好きにするといい。そんなことは不可能ですが」


 そしてビブロスは、そう告げると静かに「アサルトオン」と呟いた。


《Evolve High-Theothrope》


 それと共に低く鳴り響いた音を合図に、彼もまた白銀の鎧を身に着ける。


「やってみなければ分からん」

《Multiple-Wired-Artillery Assault》


 対してラディアは武装を展開し――。


「やらずとも分かりますよ」

《Multiple-Satellite Mirror Shield Assault》


 己の周囲に鏡面の板を複数衛星のように浮遊させたビブロスへと、妖星(テアステリ)王国に残る古き慣習に挑むように有線操作の砲台を襲いかからせたのだった。


    ***

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