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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第六章 心と体繋がれば

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第二十八話 約束 ③魔力淀み

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。逃走不可かつ傷一つ負わせられない一方的な戦いの中、必死にリュカに食い下がる!

 二つ。時間を稼ぐことで、仲間に異変を知らせることができるかもしれないと気づく!

 三つ。もはや耐久戦以外の選択肢はないと割り切って我慢の戦いを開始する!

「〈ハイデンシティミスト〉!」


 迫る殴打を〈エアリアルライド〉を利用した重力無視の軌道で回避し、それと同時に追撃を防ぐため、魔法の濃霧を敵の周囲のみに限定して発生させる。


「それはもう通用しない」


 しかし、眼前の敵、六大英雄の一人たる獣人(テリオントロープ)リュカはその場で鋭く回し蹴りを放ち、その風圧によって一瞬にして霧を払ってしまった。

 確かにこれは、既に一度使用したパターンではある。

 それでも大分間を置いて、相手の頭の中から薄れた頃を見計らったつもりだった。

 にもかかわらず、即座に最適解を実行され、ほとんど隙が生まれることなく攻め込まれる。そして幾度目か繰り出された拳に対し――。


「ちっ」 

《Sword Assault》


 雄也は舌打ちしつつ、作り出した片手剣を交差するようにぶつけた。

 当然ながらダメージにはならない。

 それでも敵の攻撃を一瞬押し留めることはでき、武装を躊躇いなく捨て去りながら飛び退って一旦間合いを取る。


「もっと奇抜な戦い方を見せるがいい。いつかワタシが奴と戦う時の糧となるように」


(奴……ドクター・ワイルドのことか)


 雄也と同じ基人(アントロープ)

 六大英雄側の立場でも、最後に倒すべき相手は彼らしい。

 リュカ達も、各々他の五人よりも厄介な存在だと考えているようだ。

 実際、雄也と同じく六属性を有し、雄也より遥かに恐ろしい強さを秘めた男だ。

 雄也から見ても、たとえ六大英雄と謳われていようともあくまで単一属性に過ぎない彼女らとは脅威度の格が違う。その狂気に満ちた性格的な部分でも。


「いずれにせよ、少しでも死を遠ざけたいと言うのであれば、もっとワタシの想定を超えた特異な戦い方をすることだ」


 リュカはそう告げると戦闘を再開せんと構え直す。

 そんな彼女に応じて雄也もまた攻撃に備えながらも――。


(…………おかしい)


 心の内に強い違和感を抱いていた。

 既にこうやって戦いを繰り返し、主観的には何時間と経過しているような気がする。

 勿論、一瞬一瞬気を抜くことのできない激しい攻防故に神経が張り詰め、そう錯覚してしまっているだけなのかもしれないが……。


(太陽の位置も余り変わってない)


 視覚的な情報は時間の経過を支持しない。


(いや……変わらなさ過ぎる)


 たとえ自分自身の感覚がどうしようもない程のポンコツだったとしても、いくら何でも体感時間とのズレが余りにも大き過ぎる。


(……腹時計の方は俺の感覚が正しいと言ってるけど)


 外界の情報に対する反論を頭の中で呟きながら、再びリュカ攻撃を仕かけてくる前に周辺を盗み見る。と、そこに変化はあった。

 光属性の魔力が少しずつ集まり始めているのだ。

 勿論、まだまだ魔物が発生するには全く至らない。

 しかし、明らかに数分、数十分で蓄積する量ではなかった。

 まるでこの周辺だけ時間の流れが早くなっているかのように。


(いや、まさか、そんなこと本当にあるはずが……)


「足掻くのはやめたのか?」


 思考を遮るようにリュカの言葉が耳に届き、雄也はハッとして眼前まで迫っていた拳をギリギリのところで回避した。


「むっ!?」


 その動きにリュカは僅かに驚愕の気配を見せる。

 どうやら彼女の想定を超えた動きだったようだ。

 だが、それは雄也も同じだった。

 己の置かれた状況を考察して導き出した予測が余りにもあり得なさ過ぎて、動揺の余り完全に意識を逸らしてしまっていた状態で受けた攻撃だ。

 元々の実力差からすると、確実に急所に直撃を貰っていたはず。

 にもかかわらず、間一髪とは言え回避できたことは自分のことながら異常だった。


(何で……っ!?)


 そのことに疑問を抱いている間もなく、リュカの追撃が迫る。

 戸惑いが大きく、これもまた危うくまともに食らいそうになる。

 が、雄也は装甲に掠らせながらも何とか避け、間合いを開いた。


《Wired-Artillery Assault》


 それと同時に、前回の戦いでのラディアを真似て有線の砲台を周囲に展開する。


「〈マルチグランレーザー〉!」


 そしてリュカを囲うように光線を放ち、しかし、そうしながらも密度を意図的に偏らせて彼女の回避方向を誘導せんとする。

 本命を叩き込むために。

 が、さすがにその見え見えな思惑に乗ってくれるはずもなく、リュカは敢えて光線が密集した側へと突っ込んできた。

 たとえ光属性は魔力無効化の対象外だとしても、実力差からして直撃を受けても大した影響はない。そこを踏まえれば正しい判断だ。

 もっとも、彼女は全ての攻撃を回避しながら接近してきているが。

 いずれにせよ、正しいだけにその可能性を想定しておくことは容易い。


(狙いを修正すれば……)


 一度動き出してしまった以上、そう簡単には方向転換できないし、よしんば急制動をかけて進路を変えようとしても光の速さを超えることは不可能だ。

 特に、わざわざ攻撃の合間を縫って来ているため、尚のこと軌道を読み易い。

 次の一撃を命中させることだけは十分可能だろう。効果の程はともかく。


「〈コンバージェントグランレーザー〉!!」


 そして、極限まで収束した一本の光線を解き放つ。

 狙うのは当然ながら目だ。

 戦闘中は不可避的に感覚の強弱を操作しにくい部分。

 肉体の損傷を望めない以上は、外に開いた感覚の一つであるそれを執拗に攻め立てるべきだ。長く目が眩めば尚いいし、蓄積すれば戦闘の継続が不可能になるかもしれない。

 しかし、敵は易々と思い通りにはなってくれない。

 一筋の線を描く強烈な輝きを前にして、リュカは完全な回避は不可能と見るや琥珀色の装甲を纏った左手を眼前にかざして頭部への直撃を防いだ。

 となれば、敵は歴戦の六大英雄。

 即座に攻撃を振り払って接近してくると予測し、身構える。


「ぐ、くっ」


 そんな予測とは裏腹に、苦痛に耐えるようなリュカの声が僅かに聞こえ、雄也は耳を疑いながら彼女を見た。が、次の瞬間、全て演技だったかのようにリュカは再び間合いを詰めて攻撃を仕かけてくる。

 一瞬冷やりとするものの、彼女の左手は動きが僅かに鈍い。

 まるで本当にダメージを負ってしまったかのように。

 微々たるものに過ぎなかっただろうが、この領域では無視できるレベルではない。

 万全な状態の攻撃ではないが故に、雄也は多少なり気持ちに余裕を持って身を躱し、距離を開くことができた。

 できたものの、しかし、驚きと困惑が脳裏を埋め尽くす。


(攻撃が効いたのか!?)


 太陽の位置と矛盾する体感時間。

 自分自身の、リュカの攻撃に対処できる程の身体能力の向上。

 それらに続いて新たに起きた想定外の事態に、半ば混乱してしまう。

 後半二つに関しては、一応状況が好転していると言えるものだから問題ないようにも見えるが、理屈が分からなければ正直気味が悪いだけだ。

 そんな風に唐突な変化に情報の処理が追いつかない雄也とは対照的に、リュカは何ごともなかったかのように戦闘を継続しようとする。

 先程のダメージはやはり軽微だったようで、その動きは元の鋭さを取り戻していた。

 こうした部分に、経験の差が如実に表れているのを強く実感する。


「〈マルチトルネード〉」


 だからと称賛ばかりをしてもいられない。

 現状を正確に把握するためにも。

 偶然ではないことを確認するためにも。


「〈マリオネットクレイドール〉」


 雄也は複数の旋風で己の姿を隠すと、周囲に土属性の魔法で作り出した人形を配置した。

 やがて風の魔法が巻き起こした砂塵が収まると、魔力無効化によって視覚的な情報に頼る割合の多いリュカは、周りの人型に一瞬気を取られて隙を見せる。


「〈コンバージェントグランレーザー〉!!」


 そこを突き、心臓付近を狙って放たれた鮮やかな一本線を描く光線は、しかし、彼女が寸前で体を反らしたことで脇腹を掠めるに留まった。


「く……」


 それに対し、やはり僅かなりとも苦しみや痛みがあるのか、リュカは小さく呻いた。

 明らかに先程よりも更に威力が増している。

 それこそ光属性が他の属性と同等のレベルに至ったかのように。


「……どうなってるんだ。魔力吸石を得た訳でもないのに」


 戸惑いが限界を超えて、思わず疑問が口に出る。

 光属性の完成は、そうするために苦労して、それでもなし得なかったことなのだから尚のことだ。自身の成長よりも、変調や暴走のようなネガティブな考えが先に浮かぶ。


「ワタシ達からすれば当然の結果なのだがな。これもまた千年の時が流れ、真っ当な人間がいなくなった証左ということか」

「当然、だと?」

「魔力淀みは魔力を鍛える格好の修行場。ワタシ達の時代では常識だ」


 初めて聞く情報に訝しむが、事実でもなければ今の状態はあり得ない。

 ラディア達から知らされていないことを考えると、恐らく彼女達も知らないのだろう。

 何故、現在にその知識が伝わっていないのか疑問だが……。


「だが……魔力酔い、だったか。今ある人形共は軟弱に過ぎる」


 どうやら、吐き捨てるように告げたリュカの言葉が答えのようだ。

 生命力や魔力の低い人間が長時間魔力淀みにいると酩酊状態に陥り、下手をすれば命を失うと言う。そうした魔力酔いについては確かに聞いたことがある。

 千年前の戦争期に比べ、生命力や魔力の平均値が下がったがために魔力酔いの危険性の方が先立ち、いつしか修行場としての立ち位置を失ってしまったのだろう。


「……最初からこれが目的だったのか」

「いくら不適合に片足を突っ込んだような状態であっても、ここまできて廃棄するのは非効率的だ。可能性があれば試す。その意図には気づいていたのではないか?」


 有無を言わせず、雄也が気づきもしない内に殺すことなどドクター・ワイルドならば不可能ではない。

 不自然な戦いの場を用意した時点で、確かにある程度察してはいた。


「だったら、こんな回りくどいことする必要はないじゃないか」

「自ら得た力でなければ発展性は乏しい。だが、貴様の力は奴から与えられたものが起点となっている。ならば尚のこと厳しく鍛えなければ腐り落ちるだけだ。何より――」


 リュカは淡々と告げると最後に「ワタシは敵だぞ」とつけ加えた。

 至極もっともな話に口を噤まされてしまう。

 ドクター・ワイルドよりは話が通じそうだから、と馬鹿なことを言ってしまった。

 六大英雄もまた人の自由を脅かす敵。

 本来ならば、駒としての立場を利用して期を待つのも恥だ。

 その間の犠牲に手が届かないということなのだから。


「成ればよし。成らねば殺す。それだけのことだ」


 更にリュカは冷たい声色でそう続ける。


「ここで貴様に課せられた行動は、戦い続けることだった」


 それから彼女は演劇の一場面のように正答を示し始めた。


「この引き伸ばされた時に気づき、援軍も望めない絶望を抱くことも一つの障害として加える筋書きだったが、貴様の成長速度が奴の想定を上回ったようだな」


 さらりと言及されたが、ドクター・ワイルドは時間の流れにまで干渉できる力を持つようだ。敵の強さを上方修正しなければならない。


「いや、予想外に光属性の魔力を使っていなかったと言うべきか」

「どういうことだ」


 称賛されたかと思えば貶され、やや苛立ちながら問う。


「知れたこと。力は鍛えなければ強くならない。それは魔力であってもそうだ」


 返ってきた答えは、余りにも当たり前のこと。

 しかし、十分なレベルの魔力でなければ効果がない相手ばかりが敵だったため、MPドライバーが求める量の魔力吸石を集めることしか考えていなかった。

 今までやってきたことは、RPGで言えば初期ステータスを底上げし続けるようなもので、レベル自体は一のままだったというところか。


「とは言え、それすらも考えず、魔力淀みについても知らず、挙句ワタシを傷つける術すらもない状況で、よく逃げ出さなかったものだ。そこだけは褒めてやろう」

「馬鹿なことを。逃げたらアイリスを殺すと言われて、逃げられる訳がないだろうが!」


 アイリスの苦しみもまた、今日この瞬間のために用意されていたものということだ。

 他者の苦痛を利用することをよしとする性根は許しがたい。


「……そうか。どうやらあの娘は貴様に強く想われているようだ」


 そうした反感を乗せた雄也の叫びに対し、感情を乱す演技はやめたとばかりに淡々としていたリュカの口調が僅かに柔らかくなる。

 が、敵たる者のそんな様は正直癪に障り、尚のこと頭に血が上る。


「それがお前に何の関係がある?」

「恋や愛を経験できないままワタシの糧となるよりは余程マシな人生だろうからな」

「ふざけるな!」


 結局は同族だろうと大義のためであれば切り捨てる存在が何を言ったところで、どこまで行っても自己満足にしかならない。


「アイリスを、皆を、お前達の踏み台にはさせない!」

「駒として翻弄されるだけの貴様が言っても説得力などないぞ」


 怒りを滲ませて言葉をぶつけても、彼女にはやはり届かない。

 ドクター・ワイルドと六大英雄の覚悟は、今更誰かの言葉で揺らぐものではないのだ。

 あるとすれば、力を以って敗北を認めさせた時ぐらいのものか。


「さて、そろそろこの茶番を終えよう。駒としての価値が確かに残っているのか、新たに得た力を見せてみるがいい」


 その上から目線には正直腹立たしいが、攻撃のチャンスをくれるというのであれば否やはない。思う存分全力でやらせて貰う。

 倒せずとも負傷させて後遺症を残すことができれば、今後の戦いに優位に働くのだから。


「……アサルトオン」

《Change Theothrope》《Heavysolleret Assault》《Convergence》


 そして雄也にとっては己を鼓舞するための言葉を口にすると共に、MPドライバーから電子音が立て続けに鳴り響いた。

 この魔力淀みの地で、回復、身体強化、攻撃、攪乱と光属性の魔法を使い続けたことによって、本当に魔力が急激に成長したらしい。

 直後、雄也の求めに応じて白色だった装甲は輝きを帯びて美しい白銀となり、同色の魔力光が足に作り出した鉄靴(ソルレット)に収束し始める。

 十秒後、《Convergence》が完了すると同時に雄也は深く腰を落として構えた。


「来い」


 そして、待ち受けるように言いながら微動だにせずに立つリュカへと一気に駆け出す。


《Final Heavysolleret Assault》

「アージェントアサルトノヴァ!」


 そのまま電子音と自身の叫びと共に地面を蹴り、その勢いで中空で一回転して威力を保ちながら鉄靴(ソルレット)に集めた魔力を叩き込まんとする。

 対するリュカは雄也が完全に攻撃の体勢を作っても尚動かず――。


「はあっ!!」


 しかし、彼女は直撃の直前に左手をかざしてそれを一瞬受け止めると、すぐさま右の拳で雄也の足を真下へと叩き落とした。

 更に鳩尾に膝を入れ、掌底で顎を狙ってくる。

 鮮やかに攻撃をさばかれ、完全に崩された状態でそれを避けられるはずもない。

 アッパー気味に迫る掌に、雄也は顎を綺麗に打ち抜かれてしまった。

 その衝撃に脳を揺らされ、一瞬意識が飛び、なす術もなく地面に倒れ伏してしまう。


「大技は来ると分かっていれば対処は容易い。技の後の隙が大き過ぎるが故に、返されれば致命傷を負いかねない。タイミングを見極めて放つことだ。必殺となるようにな」


 そんな雄也を見下ろし、直前の攻防などなかったかのようにリュカは淡々と告げる。

 とは言え、曲がりなりにも変身状態の決め技たる攻撃。

 しかも魔力無効化の対象外である光属性の魔力を収束した一撃だ。

 それを左手一本で受けては、如何に六大英雄と言っても無事で済むはずがない。


「まあ、威力は申し分なかったが」


 事実、リュカの左腕の装甲は完膚なきまでに破壊され、露出した肌は血が滴り、その腕はだらりと力なく垂れていた。

 痛々しい姿だが、意思の差を見せつけるように彼女は苦痛を表には出さない。

 もし本来の彼女と戦っていれば、攻撃の直撃を受けても反応がなく、光属性が完成したことにも気づけなかっただろう。

 箱庭の中のモルモットを導くように、いいように踊らされている自分に腹が立つ。


「次で闘争(ゲーム)も終わる。ようやく本番だ。駒として、ワタシ達の糧として終わりたくないと言うのなら、精々腕を磨いておくことだ」


 挑発染みたリュカの言葉に発奮し、鍛えようとすることも彼女らの思惑通りなのだろう。

 それでも勝負の時が間近に迫っているというのであれば、自分達にできることは全てやっておかなければならない。

 何度目かの敗北感に打ちのめされながらも固く拳を握って思い――。


「あの娘にも、他の連中にも伝えておけ」


 そう残して去っていくリュカを、雄也は地面に伏したまま睨みつけ続けた。

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