152、黒い手
始姐には色んな能力が有る。
大量のマスケット銃を瞬時に展開する能力もそのうちの1つだが、黒剣と同様に光すら吸収する大人の身体を握り潰す程の大きい黒い手。
何故そんな話をしたかと言うと、お風呂から出て来て、始姐が昼寝をしている処で僕の代わりに黒い手が掛け布団を始姐に掛けているのだ。
僕の仕事を…
それどころか無数にわき出るからびっくりするんだ。
壁、床、天井、家具。
物理を完全に無視した黒い手。
何処で手に入れたか分からない。
始姐に聞いたら、「こーゆーの合ったらいいな」って思っていたら「あら、出来ちゃった」って感じの軽いのり。
は?それで何で出来るんですか?
「分からん」の一言。
まぁ、始姐ですからね…諦めましたよ。
まぁ、黒い手は、あれから何もしないのです。昼寝をしている始姐のほっぺにツンツンとしているぐらいで、数も少なく、でも確実にそこにいる。
「ジェラルド…」
寝言でしょうか?
「今日は、ハンバーグが…」
「…」
「食べたい…」
寝言ですね。でも今日のご飯は決まってます。すき焼きです。寒い冬には身も心も暖まる料理です。
「歳三…それは…ハンバーグじゃ…無い」
何の夢を見ているのでしょう?
「それは…糞…食べちゃ…ダメ…」
本当に何の夢を見ているのですか?
こら、斎藤、沖田、丞肩を震わせて笑わない。
歳三、食べないからって言わなくても食べない事を知っているからそんなに怒らなくても大丈夫です。
夢だから始姐も何か言って下さい
…あぁ、寝ていたんだ。
起こすのも忍びない。
「むにゃ…もう…食べれない…よ…ホット…ケーキ…」
ホットケーキの夢を見ていたのですか?
何処から糞が出て来たのでしょうか?
謎です。
◇◇◇
「シロエ、俺は糞を食わないからな」
歳三が腕組みをして始姐に淡々的に話をする
「えっ?知ってるけど、食べられない事ぐらい知ってるよ?どーしたの?」
何故そんな話をするか訳が分からない顔をしながら始姐は答えるので僕が始姐に耳打ちする。
「ですからかくかくしかじかでして」
「何の夢を見ていたか忘れちゃったから覚えててないけど、たいした夢でもないよ。それに歳三は糞を食べないだろう?」
「当たり前だ!」
キッパリ断言する歳三を見て始姐はクスクス無邪気笑っていた。
「今日は、すき焼きです。〆にうどんを入れます。」
「「「「おおっ!」」」」
「すき焼き!」
一度すき焼きを始姐が作った事が有る。ただ、すき焼きのたれを入れて野菜をドバドバ切って入れるだけなのに、何故か洗剤でも入れた様に泡が立っていたのです。味ですか?怖くて食べれませんでした。その時思いましたね。始姐は、料理能力が皆無たのだと。その割りには、お粥だけ美味しく作れるのってなんだろう?
白菜を切る。長ネギも切る。糸こんに椎茸、焼き豆腐を切る。肉は一口大に切る。
肉を焼いたら切った野菜を入れて、すき焼きのたれを入れて煮込む。煮込む。煮込む。
「やっぱり寒い日には暖かい鍋料理ですね。お待ちどう様」
ぐつぐつ煮えているすき焼きの香りに始姐、歳三、斎藤、沖田、丞は美味しそうに口を開いて涎を垂れていた。
「では、頂きましょう」
「頂きます」
始姐が言うとジェラルド、歳三、斎藤、沖田、丞が、
「頂きます」
と言って食事が始まる。
「あー食べた。食べた。〆のうどん美味しかった」
お腹をさすり満足感でいっぱいの沖田が言う。
「お粗末様です。」
ジェラルドは、笑顔で言った。




