151、子鹿の様に
道場に着いた始姐とジェラルド。
道場には、もう先に歳三、斎藤、丞、沖田がいた。
「「「「お願いします。」」」」
「「お願いします。」」
始姐とジェラルドも言う。
「黒剣。」
意識を集中して影から一振の剣を出す。
「さて、始めよう」
そう言って打ち込みに来る始姐。
(重い!)
木刀で受け止める歳三。
体重を乗せて来た見たいに一撃に重さが加わる。
床に足が着地すると着かさず始姐の蹴りが、歳三の腕に入る。
始姐の影から次々と出てくる黒剣。
「「「「ゴクリ…」」」」
生唾を飲み込む歳三、斎藤、丞、沖田。
墨汁で染めた様な光も反射しない真っ黒な黒剣が、歳三が受けた重さが加わり斎藤、丞、沖田に襲いかかる。
「姐さん!」
「シロエさん!」
「シロエ姐さん!」
「ん?なんだい?」
「「「手当たり次第に襲ってくるんですからちょっとは手加減して下さい!!」」」
「捌けなきゃ駄目だろ?」
“何言ってんの?”のと顔をする始姐。
「ジェラルド!!」
道場の壁にいるジェラルドに声をかける歳三。
「上手です。」
聞こえて来る言葉とパチパチと手を叩くジェラルド。
黒剣と同様に光すら吸収する真っ黒の手が白の毛糸であやとりをして、それを見てジェラルドが拍手を送っている。
「あんた、何やってんの?!」
「え?あやとりですが?」
“何言ってんの?”とこれまた始姐と同じ顔をするジェラルド。
「取り敢えず、この黒剣を捌けなければ、刃を潰して有るが、当たると地味に痛い!」
沖田が木刀で受け流す。
短刀で斬りかかる丞に左から来た黒剣に脇腹を打ち込まれ生まれたての子牛の様に脚をプルプル震わせている丞。
「ハ~イ。1人~脱落~。ジェラルド~」
間延びしながら始姐は言う。
「ハ~イ」
と返事をしながら丞を壁に移動させて座らせる。
それから斎藤、歳三、沖田が生まれたての子鹿の様に脚がプルプル震わせていた。
「地味に痛い!」
「湿布貼っとく?」
始姐のアイテムボックスからつい最近作り出した湿布を取り出す。
「お風呂で汗を流したらジェラルドに貼ってもらいん」
「そうします」
丞が言って歳三、沖田、斎藤が道場から出て行く。
完全に2人きりになってジェラルドは木剣を握ると頭を下げて一言、言った。
「僕が相手でも手加減無しでお願いします。」
にっこり笑うジェラルド。
うん。可愛い。ご飯が2杯入ってしまう。
「構えないならこのままで行きますよ?」
踏み込み木剣を振り下ろす。
カーン!!
打ち込み、始姐とジェラルドの一歩も引かない打ち合いが始まった。
打ち合う度に木剣がカタカタ言い空気が震わせる。
「黒剣は使わないのですか?」
「使わないよ」
「それは僕が弱いって事ですか?」
「違う。違う。そうじゃないよ」
カラカラ笑う始姐。
真剣な顔のジェラルド。
一歩も引かない攻防戦が道場に繰り広げていた。
「す…すごい」
「湿布を貰いに来たら稽古しているんだもの」
「姐さん剣術すごい」
「ジェラルドさん良く食らい付いていくな」
始姐とジェラルドの剣が絡み合い天井に吹き飛ぶと床から黒い手がにょきと出て来てジェラルドの腹に拳が入った。
「ガハッ!?」
“く”の字に曲がるジェラルド。
「何も黒剣が全てじゃないよ。」
黒い手が吹っ飛んだ木剣をつかまえて始姐に渡す。
「これで終わりじゃ無いんだろ?」
コテンと頭を傾けて言う始姐に立ち上がり木剣を掴んで口元を拭うと
「お願いします。」
とジェラルドは言った。
また始まるジェラルドと始姐の剣術に黒剣や黒い手を使い追い詰める始姐。
始姐もジェラルドも笑っているが目は真剣そのものだった。
「終わったか?」
歳三が聞いてくる。
床に寝転ぶ始姐とジェラルドは顔だけ歳三に向ける。
「どうした?風呂に入りに行ったんじゃなかったか?」
「そうなんだけどさ、湿布をもらってなかった事に気付いて戻ったらシロエとジェラルドが稽古しているんだもん。久々に食い入るように見たよ」
「見せる程のセンスは有りませんよ」
「何を言う。黒い手の攻撃でも所見では駄目だったが、次からは威力を分散していたではないか」
「初めから見ていたんですね」
ジェラルドが苦虫を潰した顔をする。
彼がそんな顔をするのはやはり始姐がいる時だけだ。
「皆、お風呂に入りに行こう」
始姐がそう言ってジェラルド、歳三、斎藤、山崎、沖田を連れて道場を後にした。
風呂で汗を流す。
もちっとした泡で身体を洗い流し始姐、ジェラルド、歳三、斎藤、山崎、沖田がまったりと湯船に浸かり、広い湯船に足を投げ出して全員がリラックスする。稽古の気迫は今は無く、皆オン、オフを切り替える為に風呂に入りに来た。
「いい湯だな~皆」
ほぅと息をつきながら歳三が言う。
「はい。打った処も良くなります。土方さん」
沖田が言う。
「打ち身に効く成分が入ってるからね」
「入浴剤じゃないのですか?始姐」
「違うよ。近くで温泉が出たからお湯を引っ張った。」
「そんな事していいのですか?姐さん」
「いいも悪いもないよ。うち以外誰も住んでいないし誰も迷惑かけて無いから」
「いいのかジェラルド?」
「始姐がいいと言えば全ていいのです」
ぶれないジェラルドの言葉に歳三、斎藤、山崎、沖田は、「そうなんだ」と納得している。
排水はスライムのイムちゃんが浄化してくれているので川に流しても安心だ。
ちなみにスライムは色んな処にいる。全てのスライムはイムちゃんと名前を着けたので何処のイムちゃんと分かれば話は通じるのだ。
「でも凄いですね。源泉かけ流しって贅沢ですよね。ボクは、湯船にイムちゃんを入れて浄化していると思っていました。」
「それは違うよ、沖田。お湯は蛇口を閉めるとお湯の供給が止まる様に作っているからお湯を止めて、湯船の栓を抜いて洗ってからまたお湯を貯めるんだよ。何処かの○○別荘の様に風呂の水は年に2回しか替えないなんて事、うちでは遣らないから、健康に悪い。病人が出てしまう。」
「そんな大丸○荘のトップは、どうなりました?」
「自害した」
湯船の中で伸びをする始姐は、斎藤と沖田に身体の調子はどうだと聞いた。男の身体から女の身体になったからだ。
「俺は、慣れました。今副長と剣術の稽古で対戦しています。胸も程々の大きさで邪魔になる事も有りません。」
と斎藤は言う。
「ボクは、違うよ。1週間の間で4日しか動けない。吐血は無くなったけど、身体の弱さが目に見える。胸の大きさも嫌だ。邪魔だし揺れてもげる様に痛い。」
頬を膨らませて文句を言う沖田。
「それは仕方がないな」と顔をする始姐に「文句が有るならまた立てない身体や吐血する身体に戻りますか?」と言ってくるジェラルド。沖田もまた寝る生活に戻りたく無いので黙る事しか出来ない。
「黙る位なら言わないで下さい。」
「土方さん、斎藤、山崎…」
「総司が悪い。」
「沖田が悪い」
「沖田さんが悪い」
誰も助けなかった。
「胸が揺れてもげるなら動かない様にすればいいよね?」
「胸が揺れてもげるならサラシを巻けばいいのでは?」
「そのサラシがないの!」
「「あら?」」
始姐の家には、サラシが無い。始姐は使わなくてもいい程に胸が無い。斎藤も始姐程ではないが、サラシを巻かなくても何とかなる。沖田は、動く度に揺れてもげる程大きい。巨乳程ではないが、それなりの大きさだ。だからか沖田の胸は湯船に浮く。大きいから。
「ボクは、土方さんや山崎見たいに男の身体が良かったのに」
「「それは無理な話だろう」」
始姐とジェラルドの声が重なった。
始姐は“男の身体は使い物にならないから”と言う意味で、ジェラルドは、“始姐が作った身体に何の不満が有るんだ?”と言う意味だった。
風呂から出てタオルで身体をふき、服を着替えて、アイテムボックスから6本の飲み物を出し腰に手を当ててグイッとコーヒー牛乳を飲む。
「かぁ~風呂上がりには、コーヒー牛乳だな」
「火照った身体に冷たいコーヒー牛乳が合います。」
「「「「うまーい」」」」
久々のコーヒー牛乳は美味しかった。




