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第五話「まあひどい、もしかして私をもう一度追放するんですの?」








 十八日目。

 早速だが、クロエには魂の器(レベル)を吸魂してもらうことにした。

 気分的には、あの祭壇に再挑戦するため才能の欠片(スキルポイント)をごっそりと貯めて臨みたいところである。



 ミロク

 Lv:14.72→4.72 Sp:0.11

 クロエ

 Lv:6.81(9)→7.81(18) Sp:0.24→1.14



「……何だか息巻いてますわね。どうかなさいまして?」



 彼女には端的に、造血スキルという血が増える(?)スキルをもらったことを説明した。そして、俺自身は造血スキルは不要だということも併せて伝える。

 もしかしたら彼女の方が貧血で困っているかもしれない。もしそうならば彼女に付与してしまおうと思ったのだが。



「……意外と便利なスキルかも知れませんわね、それ」



 と想像の斜め上の言葉が帰ってきたのだった。

 便利だろうか? あるに越したことはないだろうが、わざわざ才能の欠片(スキルポイント)を注ぎ込もうとは思えないスキル名である。

 万が一大怪我をしたときの失血死を防ぐような効果は……期待薄だろう。そんなに常識外れな造血速度はありえないので、どちらかというと、大きな手術をしたあとに減った血が戻ってくる日数が早い、ぐらいが関の山であろう。



 だが、クロエは思った以上にこの造血スキルに可能性を感じているらしい。そこまで言うなら彼女に付与しようと思ったが、彼女の強い勧めで、とりあえずこのスキルは俺が保有したままということになった。



(まあ、どんな外れスキルでも使い道はあるかもしれないしな)



 別にあって困るスキルってわけでもないし。うん。そう考えると、造血スキルも悪くないかもしれない。

 貴重な才能の欠片(スキルポイント)をつぎ込んだ割にはしょっぱい……なんてことを考えてはキリがない。前より強くなった、と前向きに考えるべきであった。





















 十九日目〜二十四日目。

 彼女の顔もそろそろ、固いかさぶたが張ってきたころである。これはこれで何かの病気のように見えなくもないが、大きな傷を負っただけのようにも見える。

 最初のどす黒い疱瘡とは比べ物にならない。五十歩百歩と言われたらそれまでだが、こちらのほうはかさぶたが取れたら化粧で誤魔化せそうな範疇だろう。



 もちろん誤魔化せると言っても、大きさが大きさだけに、違和感まで含めて完璧に隠すのは無理だと思われた。



(いや、よそう。前進したことは事実なんだ。彼女自身の治癒スキルを底上げして、毎朝毎晩、一日二回治癒魔術をかけ続けているのだから、きっと、何か起きてもいいはずだ)



 それに、もし治ったあとの皮膚の器質化がひどくても、若いうちは新陳代謝がある。古い皮膚の下からどんどんと新しい皮膚が生まれるのだ。小さなあばたはそのうち目立たなくなっていく可能性がある。



 それでも治らない頑固なあばたについては、ちょっと荒治療になるが、小さな針で突いては治癒する、を繰り返すことで治せる可能性がある。皮膚の回復を刺激する効果と、あばたの凹み状態を完治した状態だと勘違いして落ち着いてる皮膚をもう一度リセットする効果がある。



 長い目で見れば、打つ手はまだまだ残っているのだ。



「……明日からは一緒に出かけますわ。私もそろそろ、身体を動かしておきたいと思っていたところでしてよ」



 一人ぼっちは寂しかったですわ、と軽口を叩く彼女は、どこか以前より前向きになったような気配があった。





















 二十五日目。

 ついにクロエを受け入れてもらえる街を見つけられた。

 開拓都市アンスィクル。有体に言えば、迷宮開拓を優先している行政都市であり、多少治安が悪い。特にブロアヒル区にあるポンテの塔は、治安が悪すぎて迷宮化している(意味:入ったら冒険者でも命が危ない)というジョークまでつくられたほどだ。

 都市の入り口の憲兵に金貨を握らせて、これで目を瞑ってくれと丸め込むことで、何とか都市に入ることに成功したのである。



(安くない出費だが、クロエを冒険者ギルドに登録できることを考えたら十分だ)



 冒険者ギルド(別名:探索者組合)への登録手続きは、登録料の支払いと誓約書への署名で終わる。支払いは貨幣でも魔石でもどちらでも可能である。

 先ほど憲兵に渡した心付けで懐がさみしくなったので、ここは魔石で支払った。

 この長い期間の隠し迷宮の探索のおかげで、魔石に関してはそれなりに備蓄がある。



「……E級冒険者、ですわね」



「だな。俺のようにA級冒険者になるともう簡単な依頼は受注できなくなるんだぜ、覚えとけよ」



 首から下げる金属製のタグには、プレート部分に冒険者である身分証明の彫金がされており、さらにギルド特製の契約魔術が込められた魔石が嵌められている。

 これらをもって、クロエはE級冒険者である、と証明しているのだ。



 ちなみに、C級冒険者以下はタグを失くしたら身分は消滅する。

 本人の魔力模様――魔力の指紋のようなもの――を登録してある魔石を輝かせることができなくても同様にアウト。



 国にとっても貴重な戦力であると認定されるB級冒険者以上になってから、ようやくタグを失くしても救済措置がある。



 勇者一行に所属していた俺は、当然のようにA級冒険者である。――余談だが、実は俺はちょっとした裏技を使ってタグを複数持っており、たまに身分をごまかすこともやっている。褒められたことではない。



(さて。ここからだよな……方針をきちんと話し合わないといけないのは)



 馬車の御者に逃げられてから、もう一月近く経つ。

 魔物や盗賊の現れる危険な道中から彼女を守り、安全な街まで送った。

 顔面のあざ黒い疱瘡を削いで、できる範囲で治療を施した。

 冒険者ギルドへの登録を肩代わりし、これから第二の人生を歩む上での手助けを行った。



 もしかしたら、もう十分かもしれない。

 これ以上つきまとうのは、彼女は望んでいない可能性があった。



 ――だが。



「なあ、もしよかったら」「あの、もしよろしければ」



 声が重なる。

 思わずためらう。

 二人がお互いに、相手の出方を窺う奇妙な時間が流れた。



 何となく予感はあった。もしかすると、同じようなことを考えているのかもしれないと。

 目が合う。

 互いに何を考えているのか、少しだけ分かり合う。



「……まあひどい、もしかして私をもう一度追放するんですの?」



「おいおい、まさか俺をもう一回追放するんじゃないだろうな?」



 にやりと笑ったのはどちらが先だったか。



 よく考えたら、別に無理して別れる必要もなかったのである。

 お互いどちらも、これからの目的もやるべきことも定まっていないのだ。

 かたや、才能の欠片(スキルポイント)を稼ぐため、魂の器(レベル)を誰かに付与して押し付けたい。

 かたや、飢餓を癒やしつつ虚弱な肉体を強くするため、魂の器(レベル)を誰かから吸い取りたい。

 そのまま手を組まないほうがおかしいと思った。



「ねえ、もう少し一緒に旅を続けていただけまして?」



「もちろん、こちらこそよろしく頼むよ」











 かくして、長い長いプロローグはようやく終わって。



 改めて、この物語は、俺、付与術士ミロクが世界を変えるような冒険を行う物語である。

 それに至るにはいろんな紆余曲折があったのだが、最初のきっかけは、レイスの血を引く貴族令嬢――悪徳令嬢のクロエとの出会いだった。



 魂の器(レベル)だけ無駄に獲得してしまった俺と。

 魂を喰らって命を繋ぐ、身体の虚弱なクロエと。

 二人の見つけてしまった、外れスキルばかり手に入る隠しダンジョン【喜捨する廉施者】と。



 勇者一行から追放されてしまった(ミロク)と、王都から追放されてしまった彼女(クロエ)の冒険譚は、まさにここから始まるのだった。




ここまでが物語のプロローグです。

(元々は古き良きテンプレよろしく、馬車で運ばれている途中の奴隷の婚約破棄令嬢を助け出して、奴隷契約するところからスタートだったのですが、ちょっと変えました)


目指すは「なろう」の二郎系、対戦よろしくお願いします。


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