四十話 カエルの親子
簡単なあらすじ『クボタさんやっとお家に帰れて良かったね』
帰宅してすぐにジェリアと一緒に料理を作り、(結局コルリスと……あと魔物達も皆手伝ってくれた)完成したスープをメインディッシュとした我が家の夕食は恙無く終了した。
俺達と半居候のアートード親子、ジェリア、それと彼女の連れて来た魔物達はまあいつも通りであったが、新顔であるアルワヒネもいつの間にかそこに馴染んで普通に夕食を堪能していた。少女のコミュニケーション能力の高さにはいつも驚かされる。
そんな少女は今……ルーやスライム達と一緒に厩舎へと入り込む所だった。何の指示もしていないにも関わらずだ。
もうこの家にも慣れてしまったらしい。
それと……夕食前の事は既に忘れているようだ。
いや、もしかすると、ただ単におねむで戦いどころではないのかもしれないが……
まあ、それならゆっくり休めるから別に良いか。
〝あれ〟だけ終わればな……
そう思った俺は魔物達が厩舎に入るのを見届けた後、我が家の別室にて多分まだ起きているはずであろうアートード親子の部屋に向かった。
扉を開けて中に入ると、予想通り親子は起きていた。
親子は訪問者の存在に気付くと、ほぼ同時にこちらへと顔を向け、口周りの肉を震わせながら俺を凝視していた。うーん、やっぱり親子なんだなぁ。
まあそんな感想はさておき、俺は二匹に話を切り出した。
「やあ……あの、ちょっと話があるんだけど、良いかな?」
とは言ってみたものの、アートード親子は顔色一つ変えず、その場でじっとしている。
まあ聞いてはいるんだろうが……表情が変化しない相手に話しかけると言うのはこんなにも無駄に緊張するのか。
まあ、そんな事ばかり言っていても何も進まない。
そう思った俺は二匹の変わらない顔色を窺いながら、話を続けた。
「あのさ……君の、子供なんだけど。
もし君も、君の子も賛成してくれたらで良いんだけどさ。
コルリスの魔物に、仲間になってやってくれないかな、って思ってるんだ……どう、かな?
勿論、嫌なら良いんだ。
それは君達の決める事だからね」
何故か無意識に言葉を選び、途切れ途切れになりつつも、俺は自身の思っている事、全てを二匹に打ち明けた。
……が、それを聞き終えたアートード(親)はすぐにぷいっ、とこちらに背を向けた。
多分、ダメだと言う事なのだろう。
なら仕方がない。
まあ、『息子(娘?そういえばどっちなんだろうな?)をくれ!』と言っているのだ。
嫌がるのも当然、むしろ激昂して攻撃されたりしなかっただけマシな反応だったと言えるだろう。
そう考えた俺は彼等に「そっか……分かったよ。じゃあ、おやすみ」とだけ告げて、その場を後にした。
翌日。
昨日は色々と大変な1日であったにも関わらず、我が家では俺が太陽の次に早起きだった。
昨日の夜の事が気になっていたからだろうか……?
いや、あの話はもう終わったのだし関係ないか。
むしろ『森の中で気絶していたのが結構な時間であり、睡眠欲がある程度解消されていた』の方が納得出来るな。
俺は自身の早起きの理由を探しながら、顔を洗うため寝床から起き上がった。
すると、窓の外に一つの影を発見した。
アートード(親)だ。
俺より起床の早い者がいたのか。
しかし、様子がおかしい。
親は今ぺたぺたと歩き、家から離れようとしているのだ。
こんな朝早くから、一体どこに行くつもりなのだろう?それも、たった一匹で……
それを見た俺はすぐに外へと飛び出した。
家主の存在に気付いた親は昨夜と同じように、こちらへと顔を向けたまま押し黙っている。
「あの……どうかしたのかい?」
と、一応は問いかけてみるが、やっぱり返事はない。
……かと思いきや、アートード(親)は突然、その場でくるくると回転を始めた。
その動きは実に滑らかである。まあ、あの時に受けた傷はすっかり治っているのだから当然だ。これならばもう、普段通りに生活する事が出来るだろう。
というか、よくよく考えてみたら親が家から出て、更にそこから離れようとするのは珍しい事であった。リハビリがてら、散歩でもしたいのだろうか?
いや、これは……まさか。
「……行くのかい?」
俺がそう言うと、親は動きを止めた後に口元の肉を何度か震わせ、再び俺に背を向けて歩き出した。
やはり、コイツは野生に帰ろうとしているのだ。
しかも一匹で。
「ちょ!ちょっと待ってよ!子供はどうするんだ……」
そこまで言って、俺はアートード(親)の思いに気付く。
あの時のコイツの行動を俺は理解できなかったが……こうしている今なら分かる。
あれは『OK』という意味だったのだ。
多分、いや絶対そうだ。
そうか……コイツは、俺に子を託してくれたのか。
「……ありがとう」
俺はアートード(親)の背中にそう、声をかけた。
それが聞こえたのか、親はもう一度だけ俺の方を振り返り、口元をぶるり、と震わせて去って行った。
見た目よりも随分と賢く、強い親であったアイツの事だ。もしかすると『こちらこそ、傷を治してくれてありがとう』とでも言っていたのかもしれない……
俺は感謝の気持ちを込め、頭を下げて親を見送った。
どうしても、そうせずにはいられなかったのだ。
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