三十四話 スライム狂いは救世主
簡単なあらすじ『クボタさんは夢を見ていました』
「ちょっと!いい加減起きなさいよ!」
誰かの声が聞こえる。
だが『いい加減起きなさいヨ!』ではないとすると、一体誰だろう。
「クボタさんったら!もう!」
『もう!』って……多分、俺だって好きで寝ていたワケではなかったと思うんだが。
だが、それにしてもやかましいな。
仕方がない。
ならばお望み通り、いい加減起きるとしよう。
……目を開けると、そこにはジェリアがいた。
先程までの声は彼女のものだったらしい。
「ああ、ジェリアちゃんか……俺は一体……?」
「呑気に寝てたわよ。
よりにもよってこんな所でスヤスヤとね……」
俺、それとスライム二匹はドロップ地方最果ての地にてすやすやと眠っていたようだ。
死んだかのような格好で目を瞑る人間……つまり俺と、そいつとは少し離れた場所で互いに寄り添い合ってぷるぷる……してはいない彼等をジェリアが発見したらしい。
……そうなった経緯は勿論覚えている、覚えてはいるのだが。
その場所には既にトロール達はおらず、〝彼女〟のいたはずの台座には似たような姿をした像のようなものが置かれているばかりであり、俺は狐につままれたような気分だった。
「ねえジェリアちゃん。変な事聞くけどさ、さっきまでここに、トロールが沢山いたりとか、あの像が動いてたりとか……しなかった?」
目覚めてから少し経った後、俺はジェリアにそう聞いてみた。
彼女がそれを知っている可能性は低いであろうが、先程まで置かれていた状況……〝アレ〟がどうなってしまったのか、気になるからだ。
「クボタさん、何言ってるの?そんな事あるワケないでしょ、フフッ」
すると、ジェリアはそう言って……
最後ちょっと笑ったな?
それも、小馬鹿にした感じで。
「え、ちょっと。何で今笑ったの?別にふざけてるんじゃなくてさ……」
俺は少し腹立たしい気分になり、彼女にも目の前の男が何故そう言ったのかという理由を納得出来るよう、順を追って事の顛末を話してみた。
すると彼女は、「フフフッ、クボタさん、それはきっと夢よ」とか言ってまた笑いやがり、今度は優しく説き伏せるような口調である話を始めた。
何でも、俺のすぐ側にあるこの『女神像』と呼ばれているものは、存在理由こそはっきりとしていないらしい。
……が、そんなワケの分からないモノとはいえ神聖視されている部分もあるためか。
そのような噂も、そうでない噂も全く立たず。
そもそも女神像のある場所が場所であり、トロール達がこんな所にまでやって来る事は絶対にないのだそう……
つまり、彼女は『そんな話聞いた事もねーよ、だからどうせ夢だろ?』と言いたいワケだな。
とまあ、そのような事をジェリアが笑いを堪えながら話してくれた。そして、それを聞かされた俺は彼女に対して更にイライラした。
この子、完全に俺の話を信じちゃいない。
さっきも言ったが、声が凄く優しいもん。そうであろう事などすぐに分かる。
例えるならばそう、「本当に本当にオバケがいたの!!」と言っている子供を説得しているくらいのレベルだ。
くそう、俺が眠ってさえいなければ、まだこの話にも説得力があっただろうに。
「それはまあ、分かったけど……でも、本当なんだって!!」
俺はそう声を上げ、彼女に抵抗を試みる。
「そう力説されてもね……聞いた事もない話だから。そうだ、貴方はどうかしら?」
ジェリアはそう言い、背後へと質問を投げ掛けた。
ん?誰かいるのだろうか?
「ふむ……私も存じませんな」
その男は彼女寄りの意見を持ち、まるで登山家のような装いと紳士的な口調をしていた。
そして尚且つ、俺の知る人物でもあった。
「あ、キングさん!」
「クボタさん、お久し振りですね。
とにかく、ご無事で何よりです」
その人物は、なんとキングさんだった。
聞けば彼はスライムウォッチングの最中だったようで、ジェリア、ミドルスライムと出会ったのは偶然だったそうだ。
そこで彼女が事の次第を説明すると、彼は魔物避けの聖水なるものを所持していたため、自分がいれば彼女の危険が少ないと考えた上でジェリアに同行し、ここまで来てくれたのだと言う。
だから彼女はドロップ地方の奥地までやって来る事が出来たのだ。
逆に言えば、彼がいなければ俺は『自力で帰還する』しかなかったのである。
そう思うとゾッとし、俺はキングさんに感謝の言葉を告げ、頭を下げた。
「キングさん、本当にありがとうございます!お陰で助かりました!」
「貴方がいなければクボタさんを見つけられなかったもの、私からもお礼を言わせて。キングさん、本当にありがとう。」
俺に続いて、ジェリアも深く頭を下げた。
礼儀正しい部分もあるんだな。俺をバカにしていた時とはエラい違いだ。
「いえいえ、クボタさんが無事ならそれで良いんですよ」
キングさんは微笑みながらそう言う。この人はスライム狂いではあるが、やはり紳士的で良い人だ。
「もし良ければ、何かお礼をさせて下さい」
「……でしたら、一つ頼みを聞いてはもらえませんか?」
俺が礼をしたいとキングさんに告げた瞬間、彼の目はギラギラと輝き始めた。
やはり紳士的で良い人……あれ?
まさかこれは……あっ
俺が彼の願いに気付くと同時に、キングさんは凄まじい速さでチビちゃんへと接近した。
「このスライムをもっとよく見せて頂きたいのですが……」
キングさんは珍しくビビっているチビちゃんに顔を寄せ、そう言う。もう見てるじゃないですか。
「ああっ!チビちゃん!」
ジェリアが叫んだ。
いや、まあ気持ちはわかるけど叫ばなくても大丈夫だと思う。死にはしないからな。
「……だったらここではなくて、街で食事でもしながら見るのはどうですか?お代はこちらが持ちますんで」
「それは良い!そうと決まればさあお二人共!行きましょうぞ!」
俺がキングさんにそう提案すると、彼はすぐさまそれを承諾し、先頭に立ってずんずんと街に向け歩き始めた。
多分この人、奢るとかはどうでも良いんだろうな。
「クボタさん、チビちゃんを売ったのね……!」
ジェリアが文句を言っている。
が、あの人に置いていかれると洒落にならないので、とりあえず俺はそれを「はいはい、ごめんごめん」とテキトーな事を言ってあしらい、前に進むよう彼女を促した。
…………あれ?
そう言えば、キングさんのスライム欲が強過ぎて何か忘れているような……
ああ、アレだ。夢の話だ。
いや、夢じゃなかった現実の話だ。
でもジェリアには散々バカにされたし、あのキングさんも知らないと言うのなら。
やはりあれは、夢だったのかもしれないな……
「それにしても、本当魔物避けの聖水って凄いわね……さっきから魔物の気配すらしないわ。
でも、どこに売ってるのかしら?
全く聞いた事ないのよね」
移動している最中、後ろでジェリアが何か呟いた。
しかし、誰かに向けていないのなら聞き返す必要はないと思い、俺はプチ男を肩に乗せたまま淡々と歩き続けていた。
そして、それよりも遥か後方で小さな影が一つ、とことこと俺達に続いてもいたのだが。
ジェリアの独り言を聞き逃すような俺には勿論、現時点でその存在を察知する事は出来なかった。
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