一話 新たな出発!!……その前に
簡単なあらすじ『Eランクになったクボタさん。でも、いつもどおり練習は頑張りましょうね』
昇格。それはゴールではなく、スタートなのだ。
それだけで満足なんてしていては、近い未来に俺達の前に立つであろう者達を退ける事など出来はしない。
そこで俺達がとった行動とは……
いつもどおり練習を続ける事だった。
まあ、そりゃそうなんだけどな。
むしろ、俺達に出来るのなんてそれくらいだし。
でも良いじゃないか。
積み重ねた努力と経験こそが、俺達が次に進むべき場所への足掛かりとなるのだから。
というワケで、今日も練習…………
はしない。
今日はお休みにさせてもらう。
ちょっと行きたい場所があるのだ。
誤解しないで欲しい。
別に口だけでやる気が無いとかそう言うワケでは無いぞ。
先程も言ったが、ちょっと行っておきたい場所があるのだ。いやちょっとではないな、『どうしても』と言えるくらいにはだ。
そんな俺は今、街にてエリマと共にザキ地方行きの電車……じゃなくて、ザキ地方行きのヴルヴル(クボタさんの魔物図鑑 その17参照)を待っていた。その他には誰も連れて来てはいない。
あのような荒れた土地にはあまり用事が無いのか、相変わらずこの定期便には乗客が少ない……どころか、今日並んでいるのは俺達だけであった。
まあそれならそれで良い。
あまり客が多過ぎると、体重のあるエリマは乗車拒否されそうだしな……
〝いきなりついて来いなんて言うから何だと思ったら……そう言う事か。
クボタ、おザキ様に会いに行くんでしょ?〟
待っている定期便がザキ地方行きである事を知るとエリマはそう言った。
「うん、そうだよ。というかよく分かったな」
〝いや……そりゃあ分かるよ。
だって、クボタが僕について来て欲しい場所なんて一つしか無いじゃん〟
そう言い終えた後、エリマは今映像として流されているのであれば、(何言ってんだコイツ……な表情)という字幕が付きそうなくらいの視線で俺を見ていた。
まあそうだけど、でもそんな目しなくても……
……それはともかく。
そう。俺達がザキ地方へと行く目的は魔王城、そしてそこにいるおザキ様に、あの時出来なかった話をしてもらうためだ。
確かに、それは今でなくても良いのかもしれないが……だがしかし、今を逃せばまた依頼やら大会やらで忙しくなりそうだし、むしろ今日がベストタイミングだと俺は思っている。
ちなみに、エリマ一匹だけしか連れて来ていないのもそれが理由だ。
『……アルワヒネをもっと色々な場所に連れて行くと宣言した矢先に、もう約束を破るのか?お前は……?』
とは俺も勿論思い、悩みもした。
でも場所が場所……彼女ですら危険であろう城へと赴くのだ。遠足気分で連れて行けるはずも無いだろう?
それにコイツ以外は皆置いて来たのだし、それで許して欲しいものである……あと前にも言ったが、重量オーバーになる可能性もあるし……
とにかくだ。
置いて来てしまったものは仕方がないのだ。
俺は誰に言うでも無くそう胸中で言い訳し、その後まだ例の視線をこちらに送り続けているエリマを八つ当たり気味に睨み付けた。
ドラゴンと喧嘩(と言う程でもないが)している人間とは、それ以上に珍しい生き物だったのかもしれない。
先程から通行人がチラチラとこちらを……特に、俺の方を見ている。それが何よりの証拠だ。
……何見てるんだコノヤロウ!
人を珍獣扱いするな!珍獣は俺の隣にいる奴だ!
これまた八つ当たり気味に、俺はそのような想いを乗せた視線を過ぎ去る人々に向け発射しようとしていた。
だが、怪光線の発射はこちらに向けて歩いて来る者がいたので急遽取りやめとなった。
別にビビったからではないぞ。
もしもあの人が俺の視線を浴び、その後に同じザキ地方への定期便に乗り込んで来たりしたら……そう。
車内がとんでもなく居心地の悪い空間となってしまう恐れがあるからだ。
それに、俺の勝手なる鬱憤晴らしを何の罪も無い人様でするワケにはいかないからな。さっきの発射発言は冗談だ……当たり前だけど。
「……やっぱり君達か!
やあクボタ君!それにドラゴン君も!」
するとその人物が突然、俺達に話しかけてきたではないか。
俺とエリマは驚き、啀み合っていたのも忘れて声の主へとほぼ同時に視線を移す。
誰かと思えば、それは…………
ナブスターさんだった。
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