三章の序章
先日、下級魔物使いこと俺はキングさんとの昇格試合に無事合格し、見事Eランクの『一般魔物使い』となった。
ここまでの道のりは大変だったような……
いや、意外とそうでも無かったような……
だがまあ、色々とあったのだけは間違いない。
ザキ地方、ロシバ地方、二つの地方へと初めて足を運んだり、そこでサチエと出会ったり、チビちゃんと遭遇(?)したり……
コルリスの魔物探しなんかもしたり。
そう言えば、その時にアルワヒネと出会ったんだったな……
あとは、ザキ地方で※ドラゴンゾンビと戦ったりもしたっけ。
まあ正確に言えば、戦ったのは俺では無かったんだけど……それはともかく。おザキ様、エリマと出会ったのもあの時だった。
それと、皆に心配を掛けてしまったのもあの時だったな……今度からは非常時にも行き先だけは伝えておかなければなるまい。
いやでも、それができたら非常時とは言えないような……?
まあ良いや。とにかく色々とあった。
そして、最近では……
ロシバ地方漁業組合感謝杯へと出場したが、第三試合にて敗北。
しかし、その後すぐに昇格試合の案内が届き、試合には負けたものの無事合格を手にした……
と……ここで話は最初に戻り、俺は今Eランクの戦闘職となってここにいるというワケだな。
それは、確かにめでたい事ではある……
が、下級を抜け出した所でまだ先は長く険しい。
だから昇格した今こそ、気を引き締めて次の戦いに挑むとしよう。勝って兜の緒を締めるのだ。
とは言っても昇格試合には負けたし、この世界には兜なんて無いのだけれど……まあ言葉の綾と言う奴だ。
と、そんな事を考えていた元下級魔物使いへと向け、火球が飛んで来るのが見えた。
「わぁあああ!!」
俺はすぐに頭を下げて躱す。
幸い火の玉は家の何処にも、身体の何処にも当たらずに中空で消滅した。
「おいエリマ!危ないじゃないか!」
俺は文句を言う。
だが片翼のドラゴンには罪悪感が全く無いようだ。
〝仕方ないじゃん。
今は練習中なんだから。
そもそも、クボタがそんな所で突っ立ってるのが悪いんだよ。
というか、昨日からよくポケーっとしてるけどさ。
もう合格祝いはしたんだから良い加減昇格の余韻に浸るのはやめて、他の皆の調子でも見てあげたら?〟
しかも奴は謝るどころか、そんな事を俺に言うのであった。
ただ、図星ではあったため俺は舌打ちだけしてその場を離れる。
まあ、真面目に練習しているようだから先程の失言は聞かなかった事にするか……ったく、ただでさえデカいのに、しかもそれを更に大目に見てやると言うんだから感謝しろよ?
という事で俺は練習中である他の魔物達の様子を窺う。
プチ男はエリマと練習試合をしているようだ。
キングさんに教わった技や俺が教え、そしてそれを応用した動きなんかを駆使して戦う奴は……
いつの間にかドラゴンとも互角に渡り合えるまでになっていた。それには少々驚きを隠せずにいるも、アイツの努力を知っているだけに素直に嬉しいとも思える自分がいる。
そしてこちらも練習試合……
戦っているのはルーとケロ太だ。
ルーはやはり主戦力であるためか、相変わらず良い動きをしている。それにカワイイ。
だかしかし、ケロ太も負けてはいない。
アイツもプチ男と似たような動きでルーに食らいついている。
その横ではケロ太郎をアルワヒネが指導していた。
見た目だけでなく性格までのんびりとしている肉厚なカエルの先生を務める植物少女はやや大変そうであった。
だがその顔にはもう涙の跡は見当たらない。
そのお陰(?)で安心して彼女が指導する所を見ていられると言うものである。
少し前、彼女は元の居場所に帰ろうとしていたが……
思い直してくれて本当に良かった。やはりと言うべきか、まだ俺達には彼女が必要なのだから。
……なるほど。
これ程までに魔物達が頑張っているのだ。
エリマの言うとおり余韻に浸っている暇など無かったのだな。
何が勝って兜の緒を締めるだ……
そんなもん締めている暇があるなら、彼等を見てやった方が何倍もタメになると言うのに。
口先だけであった俺はそう反省し、魔物達の練習に加わる事とした。
まだまだ先は長く険しい……
それを彼等と共に乗り越え、前に進み続けるために。
注釈
※ ドラゴンゾンビ(第二章五十六話 ドラゴンだったもの参照)
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