百四十一話 新たなスタートは別れと共に……?
簡単なあらすじ『昇格試合も無事に終わり、クボタさん達は……』
キングさんとの昇格試合を終えた翌日の早朝。
試合後、スタッフ的な人達から受け取った盾を俺は自室にて手に取り眺めていた。
前の盾は木製でちょっとショボ……小さめで可愛らしいものであったが、今回のものは何やらよく分からない鉱石か何かで出来ているようで、こちらは重厚感ある立派な盾であった。
(……あ、いや勿論、前の奴も立派ではあるのだが)
それはまるで下級魔物使いから脱却し、より強く、より勇気ある戦士となった者の落ち着いた佇まいを表しているような……
それを受け取った張本人である俺がこんな事を言うのは何だか妙というか、変な気分になるな。ではこのくらいにしておくとするか。
しかし……
コレを手にして眺めていると、改めて実感させられるな。
俺達はとうとうEランクになったのだと。
……すまない嘘をついた。
本当は実感なんてそんなもの、全然湧いてこない。
夢でも見ているかのようだ。
今はむしろ、何故だか湧いてこない実感を不思議に思い、その源泉を探している最中のような状態だと言えよう。
……あ!
もしかするとFランクに昇格した時、サンディさんとそして大勢の観客から祝福された事で、『昇格するというのはそう言うものだ』という考えが俺自身の中に根付いてしまい、それが今回のような形での昇格に疑問というか、不満というか……
とにかく、そんなようなものを持たせてしまっているのではないだろうか……
イベント好きもほどほどにしなければ、また俺のような犠牲者(?)が誕生してしまうだろう。もしまたサンディさんに会う機会があったら、遠回しに忠告でもしておくべき、なのかもしれないな。
まあ良いや。
事実俺は昇格したのだし、実感が無くとも盾はここにある。
だからそう、そんなものがなくたって前に進んで行けば良いのだ。
どの道そうする事しか出来ない……
いや、そうするつもりであるのだから。
俺は藍色の盾を自室に飾り、その後部屋を出……
部屋を出ようとした直前、自室の扉がノックされる音を聞いた。
それは下部の方から聞こえてくる。
これは間違いなく魔物達の、それも『ちっこい奴』のうち誰かだろうな。
だが何と言うか、妙な感じがする。
魔物達は皆、昨日昇格祝いとして晩飯をめちゃくちゃ沢山食べ、その後厩舎ではなくコルリスの部屋で夜更かししていたから早起き出来る奴はいないとばかり思っていたのだが。
そこにいるのは一体誰なのだろう?
ケロ太か、プチ男か、はたまたケロ太郎か?
俺は扉をゆっくりと開けた。
そこにいたのはアルワヒネだった。
……よくよく考えれば分かる事だったな。
だってコイツ以外の奴等はノックしない、もしくは出来ないのだから。
「何だ、アルワヒネか。どうかしたのか?」
俺はアルワヒネに声を掛ける。
「……だりん」
それを聞いた植物少女は何処か不安げにも見えるような、それとも悲しんでいるような……とにかく、そんなようなあまり元気のない表情をしたまま俺の部屋に入ってきた。
かと思えばアルワヒネは俺の前までやって来、ぎゅっと俺の脛にしがみついたのだった。
それは普段のこの子ならばあまり、いや絶対にしない行動だと言える。何か心配事でもあるのだろうか?そう思って俺は再び少女に声を掛けた。
「本当にどうしたんだよ?
何か悩みでもあるのか?……ん?」
言い終える前にアルワヒネは俺から少し離れると、頭にある葉をひらひらとさせてからじぃ、っと目を合わせてきた。
……そこに何かあると言うのだろうか。
俺は葉を手に取り確認してみる。
そういえば確か、ここには〝彼女〟からのメッセージが書いてあったんだったよな……うん。今もそれは変わらない。というかあの時から何も変わってはいない。
当然ながらそのメッセージも変わってはおらず、簡単に言えば『しばらく帰って来るな!』とか『帰って来る時は俺と一緒に!』とか、『オマエが鍛えてあげてくれ』とかそのような事しか書かれてはいなかった。
それで思い出したが、アルワヒネは俺が強くならないと帰る事が出来ないんだったな……そう思うと少し申し訳ない。
……もしかして、この子はその事で相談に来たのだろうか。そう考えた俺は彼女に尋ねてみた。
「なあアルワヒネ。
お前もしかして、元の場所に戻りたいのか?」
だがアルワヒネは首を左右にふりふりする。
どうやら違うようだ。
「…………」
その時、少女が声を発した。
が、よく聞き取れなかった。
だが、今のは「だーりん」以外の言葉だったような……俺は床に膝をつき、彼女の顔に耳を寄せて言った。
「アルワヒネ、もう一回言ってもらえる?」
すると、彼女は。
彼女は……
「……………………
…………………………クボタ」
彼女は俺の名を呼んだ。
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