百四十話 戦いを終えて その2
簡単なあらすじ『クボタさん敗北!!……ですが、合格です!!』
「……でもキングさん、良いんですか?」
確かに、キングさんは合格だと言った。
つまり、これで俺達はEランクになれたと言う事になる。
しかし……どうしても訳が分からず、俺は彼に問いをぶつけてみた。
それを理解出来ずにいるその理由を。
「確かに、昇格試合は例え相手に勝利出来なくても、充分な実力だと判断されれば昇格出来るものだというのは知っています。
ですが……僕達は勝利どころか、僕の指示が遅かったせいでその充分な実力さえも貴方に見せられませんでした。
だから、その……
そんな僕らが昇格だなんて、まだ信じられなくて……本当にそれで良いんでしょうか?」
すると、キングさんは笑い、その後でこう言った。
「ハハハ……何だ、そんな事ですか!
ええ、勿論ですとも。今の貴方達は充分、Eランク昇格に値する実力です。断言出来ます。
これは身内贔屓でも何でもありません。
厳正に判断した上での結果、合格なのです。だからクボタさん、もっと自信を持って下さい」
「でも……」
「それにですね、 自分で言うのも何ですが……
私程の魔物を前にして、冷静に対処出来る者などそうそういませんよ。ですがそれでも尚、貴方の魔物達は私に立ち向かって来た、それも皆が皆……
それだけでも合格に値します。
貴方達の実力、そしてその勇気……篤と見せて頂きましたよ、クボタさん。
もう一度言いましょう。
クボタさん、合格です!!おめでとうございます!!」
信じられず、問いをぶつけた。
そんな俺に対して、キングさんは納得出来るだけの理由と拍手を与えてくれたのだった。
そうして全てが終わり、キングさんとも別れる時が来た。
俺達は彼のおかげでまた一つ成長出来た事に、共に戦えた事に礼を言い立ち去る……の前に、疑問が浮かんできたので最後に質問してみた。
「そう言えばキングさん。
どうしてプチ男とケロ太にあの技を教えてくれたんですか?それも試合中なんかに……」
「ん?ああ、それは……実はですね。
私と同じような技を使った彼等がどうしても他人とは思えずに、つい興奮してしまいまして……いやはやお恥ずかしい。
ま、まあ要するに、特に理由などは無いのですよ。
さあ、クボタさん。気を付けてお帰り下さい。闘技場の入り口でコルリスさんが暇そうにしているそうですよ」
キングさんは照れ笑いを浮かべながらそう言った。
まあ、そんな所だろうとは思っていたが……これで突然講座の始まった理由が分かった。
では疑問も晴れた事だしさっさと帰るとしよう。
彼も言ったように、コルリスが退屈しているだろうからな。
「ああ、それもそうですね。
……ではキングさん!またお会いしましょう、それでは!」
「ええ、私もまたお会い出来るのを楽しみにしておりますよ!
……そうだ、クボタさん!
私が魔物だと言うのは他言無用でお願いしますよ!
だから最後にしたんですからね!
コルリスさんにも言ってはダメですよ〜!!」
俺はそのように叫ぶ彼の言葉を背に受け、会場を後にした。
疲れた顔でいるルーとエリマ、そして柔軟なる老紳士の方を向いて(多分)また動かなくなったプチスライム達を引き摺りながら。
……この後に思い出したので聞く事は出来なかったのだが。
俺はキングさんに、前の世界……異世界にいた事を話していたんだっけ?
確かあの人、〝貴方達のいた世界〟とか言ってたような気がするのだが……どうだったろうか?
いやでも、流石にそんな事自分から言わないだろうし……あれは聞き間違いだったのかもしれないな。
「…………大丈夫。
クボタさんは、あの人の魔物達は、とても強くなっていましたよ。何も問題ありません。
これで約束は守りましたからね……
……ハァ。全く。
いらぬお節介だったのですよ。
人は成長するものだと言うのに……
何が『お前もアイツの様子を見てあげて欲しイ』ですか……
本当に彼女は……いや、彼もでしたか。
夫婦揃って心配性とは困ったものですね、全く」
静まり返った会場の中心で。
老紳士はそう呟いてクボタとその魔物達を見送るのだった。
控え室にて魔物達への簡単な治療を終え、俺達は漸く闘技場の入口まで戻って来た。
さあ、コルリスを連れて皆で家に帰るとしよう。
結構遅くなってしまったが、彼女は怒っていないだろうか?
あれ、でもコルリスはどこだ……?
ここにはスタッフ的な人達数人と、ロビーチェアの上で溶けかかっている物体しか見当たらないのだが。
いや、よくよく見れば、その物体こそがコルリスだ!
俺達は彼女の元へと走る。
「ば……ご……」
コルリスは人目があるにも関わらず、口内より蜘蛛の糸のようなものを胸元に垂らしているという有様だった。
恐らく、彼女は『退屈』とそこからくる『眠気』が全身に回り、しかも運悪く重症化した事でこのように変わり果てた姿となってしまったのだろう……藪ならぬたけのこ医者の卵である俺の診断結果はこうだ。
これは非常に危険な状態だ……早く家に彼女を連れ帰り、治療してやらなければ。
だが、残念ながらルーとエリマにはそんなコルリスを背負って移動出来る程は体力が余っておらず、『ある程度デカい組』の中では一番非力で、一番移動が遅いであろう俺が仕方なくその役を務める事となった。
そしてこれは余談だが。
帰宅後、目を覚ましたコルリスに俺はすぐさま上着を剥ぎ取られた。
「クボタさん!早くその服を脱いで下さい!
お洗濯しないといけないので……
あ、ダメです!背中は触らないで下さい!
特に汚れが酷いですから……試合頑張ってきたんですね!
あ、ダメだって言ってるじゃないですか!!
背中の方は触らないでください!早くソレ脱いで下さい!!」
また、その際に彼女の頬が赤くなっていた事と、その上着には水滴が滴り落ちた時に出来るような跡があった事を俺は見逃さなかった。
確か、そこには眠り姫の可愛いお顔が乗せられていたような……
まあ、それが何だと言う事でもないのだが。
多分、汗か何かだったのであろう。
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