七十五話 突然の来客 その2
簡単なあらすじ『おザキ様は客人の元へと、クボタさん、エリマは自称神様を探しに行きました』
側防塔(?)の一番上でぼんやりと光る小さな球体。
それを目印にして歩き、漸く俺達は自称神様のすぐ側までやって来る事が出来た。
しかし、球体は無反応である。
どうやら奴は今、景色を眺めていて俺達の存在に気が付いていないようだ。
とにかく、俺は自称神様に声をかけてみる事にした。
驚いて飛び去ってしまわぬよう、少し声量を小さくして。
「よう。こうして会うのは結構、久し振りだね」
「あ……クボタさん……」
奴からは普段とは違い、テンション低めで俺よりも声量控えめな実に弱々しい返事が寄越された。
大分、参っている様子だ。
まだアルヴァークの一件を忘れられないのだろう……いや、忘れられるワケがないか。
そう思っていると、急にエリマが俺の背後から抜け出て来て、自称神様へと近寄って行った。
「エリマ……」
エリマはまた「どうかしたの?」とでも言いたげな瞳で目の前の球体を見つめている。これは多分、彼なりに自称神様を励まそうとしているのだろう。
「ごめんなさい」
すると、不意に自称神様の口から謝罪の言葉が飛び出て来るのを俺は聞いた。
その声はまたもや弱々しく、そして無意識のうちに口から漏れ出たような……つまり、独り言のようにも聞こえた。
今のはエリマに対して言ったのだろうか?
それとも、俺に対してだろうか?
だが多分、エリマにな気がする。
そう思い、俺はこう言った。
「そんな気にするなって。あの時は仕方なかっただろうし、エリマも怒ったりはしないはずだよ。な?そうだろエリマ?」
そう言うとエリマは俺の方を向いた。
実に屈託ない表情をしている。やはり大丈夫そうだ。
「いえ……勿論エリマにもそう言う気持ちはありますけど、今のはクボタさんに言ったんです」
するとまた、ボソボソと力無い様子で自称神様はそう言う。
「あ、そうなの?でもそんな謝られるような事は……あ、あったか。
いやでも、身体はもう元に戻してもらえたしな」
「そうじゃないんです!!僕が……僕が、もっと……ければ。
それに、クボタさんはまだ早ぐで、それで…………ほんどなら、あんなおぼい、じなく……て……」
鼻も無いのに、自称神様が段々と鼻声になってきた。
後半は何を言っていたのか全然分からない。
「う……グス……ごめ゛んな゛ざい゛」
とうとう涙声になってしまった。
目も無いのに。
恐らく彼は話しながらに感情が昂り、それを抑える事が出来ずにこのような状態となってしまったのだろう。
まあそれは、別に構わないが……
改めて思う。『コイツは若い男』だろうと。
その状態、なるまでの過程、まるで『ミスをした後の後輩』そっくりだ。
俺の下にもこんな子がいた事がある。
コイツもやはり、そうなのだろうか?
……まあ良い。
慰めるどころか泣かせてしまったのだ。
(俺のせいではないが、多分)
とにかく、今は奴の気を鎮めてやらなければならないだろう。
「おいおい、泣かないでよ。
別に怒ってないし、そもそもお前は悪くなんかないよ。
あれがあの時出来る最善手だったんだろ?
じゃあ仕方ないじゃないか、そうだろ?」
「グス……まあ……グス……はい……」
そう言ってもなかなか泣き止まない(?)自称神様にエリマが頬を寄せる。
悲しむ者に寄り添う事が出来る……人間でもそう出来る者は意外と少ない。この子は本当に賢く、優しい魔物だ。
「それに、尾崎さんからも、もう似たような事で謝られたからさ……そんなに何度も謝られるのは性に合わないんだ」
「グス……グス……ざっぎーとばな゛じだんでずね゛……ぞう゛いえ゛ばざっぎーは、今……?」
……うーん。
多分、彼は今『おザキ様と話したんですね、そう言えばそのおザキ様は今、何処に……?』みたいな事を言ったのだろう。
そのおザキ様は今、客人を迎えに行っている最中だ。
だが……
それにしても少し、時間がかかり過ぎているような気もする。
開かれた大きな門戸……それは魔王城の入口。
そこが見える場所にまでやって来た尾崎剛尊は、驚きを隠せずにいた。
〝驚いたな。まさかまた、あのゴリアース・プラントの中を抜けて来る者がいるとは……
これはまた、とんでもない客人がいたものだ〟
ただし、それが例えば『強力な魔物』であったり、『上位の戦闘職の人間』だったとしたら、彼はここまで驚かなかっただろう。
だがしかし、彼はそう言った。
そうとまで言った。
何故ならば、そこには。
そのどちらでもなく。
アトラン族の青年、サチエの姿があったからだ。
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