七十四話 突然の来客
簡単なあらすじ『クボタさん一家に新たな家族が加わりました』
俺とエリマが扉を開け、部屋から出て来てみると。
そこでまだ、おザキ様は待っていてくれた。
「お待たせしました尾崎さん。この子は、これから僕と一緒に歩むという道を選んでくれました」
〝どうやらそのようだな……クボタ、エリマを頼んだぞ〟
「はい」
おザキ様は言った。
どうやら彼もこの子の名前を知っていたようだ。
〝そしてエリマ、元気でな〟
次に彼は俺の後ろにいるエリマを見遣り、微笑みながらそう言う。
そうされたエリマは頭を深く下げた。
多分、おザキ様に敬礼しているのだろう。
そしてそのお辞儀は俺にした時とは少し違い、もっと礼儀正しいというか、堅苦しいというか……とにかく、エリマのしたそれからはそのような雰囲気が感じられた。
どうやらエリマは自分よりも強力な魔物としてか、はたまた住む場所を提供してくれた者としてかは分からないが、彼を『敬うべき存在』として認識し、慇懃な態度で接しているようだ。
まあ、おザキ様は恐ろしいまでの実力を持つ魔物であるにも関わらず、これ程までに心優しいのだ。むしろそうしない理由が無いだろう。
と言うワケでそれを見た俺もエリマに倣い、おザキ様に感謝の意を込めた一礼をしておく事とした。
『エリマに出会わせてくれた』彼へ、その感謝の意を込めて。
〝おや……?〟
俺もエリマに倣い、頭を下げたその時。
おザキ様が不意に違和感を覚えたかのような声を上げ、長い長い廊下の先に目を遣るのが見えた。
「どうか、したんですか?」
〝珍しい。どうやら客人のようだ〟
俺の問いかけに対し、おザキ様はそう言う。
魔王城に客人。
彼クラスに強い魔物とかだろうか。
もしそうだとしたらその人は……いやその魔物は、俺を見つけた途端に取って食おうとしたりはしないだろうか?
嫌でも色々と考えてしまい、背筋が寒くなる。
おザキ様はそんな俺の心境を察したのか、こちらに向き直ってこう言ってくれた。
〝私が見て来るとしよう。だからクボタ、そう心配するな〟
「あ……気付いてましたか」
〝その様子を見ればな……さて、では行って来るが、その間ここで待っているのも退屈だろう?そこで一つ、頼まれてくれないか?〟
「え?ええ、勿論大丈夫ですけど……それは一体どう言うものなんです?」
〝君達を待っている間、『アイツ』が近くをウロウロとしているのを見かけたんだ。恐らく、まだ傷心しているのだろう。
仕方がないとは思うが……アルヴァークはそんな事など望んではいないはず。だからアイツの所まで行って、少し慰めてやってくれないか?
エリマと言葉を交わさずとも分かり合えた君だ。私よりも適任だろう。どうだ、頼めるか?〟
おザキ様はそう言い終えると、先程とは逆側の廊下に視線を向けた。多分、そちらの方に自称神様がいるのだろう。
「分かりました……けどアイツ、『今は一人にしておいて欲しい』みたいな事を言ってたんですよね?
なら、僕が行っても逆効果になるかもしれませんが……」
〝確かに言っていた。が、アイツは放っておくといつまでもウジウジとしているからな……ではすまないが、頼んだぞ〟
そうしておザキ様は少し申し訳なさそうな表情をした後、客人を迎えに行った。
「よし、じゃあ俺はアイツを探しに行かないとな……エリマはどうする?ここで待ってる?」
歩き出しつつエリマに聞いてみた所、彼も俺の背後にきちんと移動していた。どうやら付いて来てくれるようだ。
「お……そっかそっか、じゃあ行こうか」
俺とエリマは長く続く魔王城の廊下を歩いていた。
自称神様を探し、慰めてやるために。
ここから見た山々は低く、たまにある岩や、魔物達などは最早豆粒のように俺の目には映っていた。まだまだ位置で言えば高い所にいるのだろう。
視線を正面に戻すと、丁度また扉の前を通り過ぎた所だった。
今までいくつの扉をこうして通り過ぎて来た事だろう。正確な数字までは覚えていないが、両手の指だけではとうに足らぬ数となっているのはまず間違いない。
この建造物は縦もそうであるが、横も大きく作られていたようだ。中に入ってみて改めてそれがよく分かった。
エリマは不満を何一つ言わずに俺の後ろをついて来ている。何となくは分かっていたが、彼はやはり温順な性格の持ち主であったらしい。
振り向く度に「何?」とでも言いたげな人懐っこい視線を浴びせてくるこの魔物は、やはり犬のようだった。これまた見かけによらず随分と可愛らしい仕草である。
俺は時折そうしてエリマの様子を見ながら廊下をひたすらに歩き続ける。
すると、城の端にあった側防塔(?)のような所の一番上で、ぼんやりと光る小さな球体のようなものを発見した。
間違い無い、アイツだ。
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