閑話・たゆたう
――ゆらりゆらりゆらゆらゆらり。
海上には古くボロボロな木造船による大軍が船団をなしている。ただその船団は自ら進む事などなく、ただただ風に身を任せたまま。
行き先は無いのだろうか。いや、既に目的地すら忘れ去ってしまっているのだろう。彼等は大海原にて静かに浮き沈みを繰り返す。
そして、そんな船団を遠くからじっと見つめる者達がいた。
「目標、完全に停止中。一切動く気配が見えません」
「……時代遅れの船かつ、どう見ても沈没してしまいそうなダメージ具合。だというのに、ああも海上に存在していられるとはな。幽霊船の発見という情報を聞いた時はまさかと思ったが、まさにアレは幽霊船だな」
「さしずめ、あの船は船乗りたちの大きな棺桶といったところでしょうか?」
「かもしれんな。近づいたり乗り込むような真似をすれば……死者共が起き上がるかもしれんぞ」
不気味なまでに静かな船。その船に対して現代の機器を使い内部の調査をしてみたものの、全く熱源反応が見つからずにいた。
ただ、望遠鏡などを使い穴などが空いた壁から中を覗けば、そこには白骨化した骨などの姿がちらほら。
そして、昨今の地球における状況。ダンジョンだのモンスターだの異世界人だのと、実に今までの常識を覆すような内容が現実になってしまった事から、あの船団が〝異世界から来た幽霊船〟ではないか? と彼等が考えるのは実に容易なもの。
であれば、あの船団に対して不用意に近づこうなどと考えるはずもない。
「半魚人とやらの時もそうだったが、我らの任務は基本的に目標の監視及び……」
「接近する者への警戒ですよね」
「その通りだ」
藪をつついて蛇を出すなどといった真似は出来ない。なぜなら藪の中にいるのが蛇ならまだいい。しかし出て来てしまうのが虎や竜なんてのが今ではあり得てしまう。
そしてまた、目の間に存在しているのは幽霊船は幽霊船でも1隻ではなく船団だ。下手に彼等の眠りを妨げてしまった場合、どの様な事が起きるのか全く想像がつかない。
バラバラに行動するようになるのか、艦隊戦を挑まれるのか……はたまた、幽霊船というだけあって一気に消えてしまうのか。そして、消えてしまった場合は一体あの船団達がどこに行ってしまうのか。
全くわからない事だらけである以上、絶対に手は出すべきではない。……専門家が来るまでは。
「援軍は今頃どうしているんですかね?」
「〝まともな帰還者達〟は現状、違う仕事についている。〝異世界人達〟はまだ自分たちの居場所づくりで忙しい……まぁ、こちらにはアドバイザーとしてアレについて聞いてはいるそうだ。残っている者達だが……」
「あー国側で監視状態にある〝問題児〟ですか」
「彼等も力がないわけではないのだがな……如何せん暴走癖がなぁ」
いつぞやの〝ビックマウスとその仲間達〟の事だ。ただ、その内の1名は現在行動を共にしていないのだが、それはさておき。
「彼等で大丈夫なのですか? 力に比べ精神的な面がちょっと」
「心配になるのは分かる。おそらくだが、異世界ではあの様な態度でないと厳しかっただろうなぁ」
「えっと、それはどういう意味で?」
力こそ全て! と言わんばかりの世界。特に冒険者などをやっていると舐められてしまえばおしまいなんて、いつの時代だ? と言いたくなるような環境だったのだろう。と、遠い目をしながら〝問題児〟の事を思ってしまう男。
そして男は、もう1人の男の質問に対して、そっと首を振りながら……。
「戦乱の世と現代では全く価値観が違うものさ。我々の常識では全く通用しない世界がそこにはあったのだろうよ」
「環境による違いというヤツですか。……しかしそうなると、今後は地球でもどのような常識になるのかちょっと考えたく無いですね」
「……力こそパワー! なんて事を言い出すヤツが増えかねないだろうな」
もしくは魔力至上主義だろか。
「ともあれ、そのような未来の事よりもだ……あの船団を如何にするかというのが問題だな。来てくれる援軍はしっかりと選んで貰いたいものだ」
「問題児な彼等が来てしまうと、到着して直ぐに〝戦闘開始だ!〟なんて言い出しかねませんからね」
「向上心というか、野心というべきか。あの姿を1度見てしまうとなぁ……」
出来れば〝まともな帰還者〟の仕事をうまく調整し、こちらに人を回して貰いたいものだ。そう考えてしまうのは、ある意味で当然といえる内容だろう。
それほどまでに、問題児達のこれまでの行動が目も当てられないもの過ぎた。
一応、問題児達も問題児達でかなり改善はしている。失敗に失敗を重ねてしまった上に、国からは監視及び教育者が昼夜問わずそばにいる状態だ。
そして、いつぞやの空からモンスターの大軍が現れた時は自衛隊指揮下の中で力を振るった。……思ったように暴れる事ができずストレスが溜まったそうだが、それでも我慢する事が出来たらしい。
しかし、その様な情報を聞いていたとしても……。
「……はぁ、心配なものは心配だ」
男が不安を覚え深くため息を吐いてしまうのも、目の前に存在している船団の数と援軍の事を思えば当然の事だろう。
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