ご飯を美味しく食べるには~七海視点~
「まるでブラックホールね……」
ぽつりと桔梗が呟いた。そんな桔梗の視線の先を追ってみると、私でも「確かに」と頷いてしまう光景が繰り広げられていた。
視線の先にあった光景。それは、雪が「……うまうま」と言いながら、もの凄い勢いで海産物尽くしなご飯を飲み込んでいっている。……涙を流しながら。
「これは頑張った甲斐があったんじゃないかなぁ」
「主に頑張ったのは錬金人形達なのよね」
何を頑張ったのか。それは、砕け散った貝や蟹の殻が刺さった身を食べられる状態にする事だ。
小さい欠片も見逃さず、丁寧に1つ1つ取り除いていく。そんなのを人の手でやろうと思ったら間違いなく精神が狂ってしまう内容だ。錬金人形だからこそ出来る……いや、錬金人形でなければ出来ない。そう考えると、本当に景はとんでもない存在を作り出したんだなぁと実感する。
「それにしてもさ。こうして浜辺で海鮮尽くしな昼食ってのも乙なものだよね」
ブラスミさんしみじみといった感じでこの状況の感想を言った。
そんな彼の言葉に、モクモクとご飯を食べながら頷いてく彼のPTメンバー。もちろんバーサーカー娘もご満悦といった様子。というか、自分が討伐した獲物の身だぞ! と、どこか誇らしげな表情を浮かべている気がする。……正直、君の戦い方が雑なせいで、結構な身が食べられない物になったんだけどなぁ。と思いつつ、あえてそのことは言わない。だって言ってしまえば、この楽しい空気に水を差すだけだから。
ともあれ、ブラスミさんの感想については私も同感だ。
青い空。波の音。磯の香りに柔らかな風。そして、時折聞こえてくるモンスターの断末魔……うん、これに関してはノイズだけどな! ただ、そんな自然の中で食べるご飯というのは、もうソレだけで美味しい。そう、ソレだけでも美味しいのに、使われている素材は高級食材を遥かに上回る超高級と言ってもいいモンスター食材だ。そうなると、美味しいなんて言葉が陳腐すぎる。もはや言葉では表さえないような美食? いや、超越食! と言っても良い昼食がこの場に誕生した。そう言っても過言ではないのではないだろうか。
「作ったのはただの海鮮汁と手巻き寿司なんだけどなぁ……正直、持ち込んだ食材がここのモンスター食材に負けないかがちょっと心配だったけど」
「大丈夫で良かったわよね。ま、持ち込んだ食材もダンジョン産であるのだから、ちょっとやそっとの事では負けないのだけど」
持ち込んだのは全て島で育てた米や豆、そしてそれらを用いて作った醤油や味噌だ。それも、精霊や神獣達が手伝って作ったモノ。だから、私としてはこのモンスター食材の方が負ける可能性があったのでは? と思うんだけど。
「そこはレベルってのがあるからね。高レベルになればなるほど、その身に含まれている魔力量が多く、また質も高くなるから。その分、味も恐ろしいほど良くなるんだよ……ま、その所為でレベルが低い人とかでは食べる事すら出来なくなるけど」
「……ん。レベリングを頑張ったご褒美の味」
高レベル帯でないと味わえないかぁ。そう聞くと、この海鮮尽くしがとても特別なモノに感じるな。
「此処までレベルが高い食材だと、熟成をする必要もないからね……寧ろ、熟成なんぞしようものなら魔力が抜けて逆に美味しくなくなる。モンスター食の場合だと一番の食べ頃は捌いた時なんだよなぁ」
「時間の進みが遅かったり停止したりするアイテムチェストは大正義だよねぇ」
逸般人でないと絶対にたどり着けない世界がここにある。一般人だとダンジョン産のモンスター食であっても、相当魔力が抜けた状態で販売される事になるから、本当に美味しいモンスター食というのを知ることが出来ない。
やはり直接狩るというのは命を賭ける必要があるとはいえ、ソレだけの価値があるって事になるんだろうなぁ。……ま、それで本当に命を落としたら意味がないからな。そこはしっかりと安全を確保してって話にはなるけどな!
「てか、狩り場で食事をしていると、次から次に新しい食材が飛び込んで来るんだよなぁ。討伐は楽だから別に良いけどさ。普通にコレをやろうと思ったら相当危険じゃん?」
「錬金人形や精霊達が居るから出来るのよねぇ」
ただ、その御蔭で? 雪のブラックホールが止まらない。本当に、あの小さい体の何処に食べたものが収まっているのだろう。
「てか、バーサーカーちゃんもハチャメチャだなぁ。食べ終わったと思ったら速攻狩りにでて、ある程度狩りをしたら戻ってきてまた食べてる」
「アレが出来るのも不思議だよ……運動で消化を加速するなんて出来ないはずなのに」
バーサーカー娘が暴れた分また食材が増えるんだけど、その食材はやはりぐちゃぐちゃになっているから錬金人形が総動員で食べられる部分を選別する。そんな光景がエンドレスで続いていたりする。
「貝柱美味しいわねぇ……」
あ、遂に桔梗が2人を意識から外した。完全に2人について考えるのを止めたみたいだ。
「そうだね。あ、綾音ちゃんと亜美ちゃん! こっちのイシダイもどきの煮付けはどうだったかな?」
「わたくしの好みの味です! 出来ればおかわりを頂きたいほどですが……流石にお腹が膨れていていますわね」
「流石エリちゃん! 今度作り方を教えてほしいかなぁ? なんて」
褒められたからか、とても嬉しそうに微笑むエリカ。そんなエリカは2人がもう食べられないと理解すると、せっせとタッパに料理を詰めて彼女たち渡していく……どこの親戚のおばちゃんだ。いや、それほど美味しいと言われたのが嬉しかったという事か。
「……む! ボクのご飯!」
「雪。まだ他にも沢山あるんだから……」
そして雪による安定の反応である。食道楽というか、食い意地が張っていると言うか……。
「そもそも、ダンジョンから戻った後にフォゥちゃん達が食べる分も作ってるんだよ? どう見ても雪や詩麻ちゃんだけで食べられる量じゃないでしょ」
「……はっ!? お留守番組忘れてた」
忘れていたんかーい! いや、それだけ美味しかったとも言えるか。確かに食べ物は人を変えると言うしな。雪が夢中になるのも分からなくもない。が、私ではあれほど食べる事なんて出来ないなぁ。
「そういえば、タツノオトシゴもどきは?」
「流石にアレを調理する勇気はないよ……鑑定にも〝食材〟とは表記されず〝薬の材料〟って書かれていたみたいだし」
鑑定かぁ……確かに鑑定にそう書かれていたのなら、多分だけど〝美味しい〟とは言えない味なんだろうな。そして、エリカは冒険するつもりも無かったと。そういう事なのだろう。
そういえば、他にも手に入れた貝の中にも入れていないモノもあるみたいだしな。きっと、それらも鑑定の結果から食べるのを避けた……と。これだけ美味しい食べ物の中に、異物になるかもしれない可能性がある物を混ぜるのは確かに避けるか。
「それにしても、これぞ幸せの味って感じじゃん」
ちょっと食べすぎたかな? 間違いなく腹八分目どころか、満タン……いや、十一分目とオーバーしている気がしなくもない。ただ、偶にはこんなふうに食べてしまう日があっても良いよな。
あぁ……それにしても、食後のお茶が美味い!
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