初航行の前に
俺達は今、ホバーシップの初航行を行うための最終チェックをしている。
全長50メートルも有る船だ。隅々まで魔力が行き渡っているかどうかと言うのはかなり重要な内容で、少しでも魔力が切れている部分があると、飛行中に船が傾いてしまうなんて事も起きるだろうし、飛行自体が不可能なんて状況もありえる。……最悪、航行中に墜落なんてパターンも。
そのような事故を避けるためにも、浮遊物質やエンジンに魔力が行き渡っているかのチェックは手を抜く事なんて出来ない。
「……ん。ここ、浮遊物質の魔力が薄い」
「あぁ、他と比べてラインが細いな……理由は、なるほど! ここに送られてくる魔力が武装に送られる魔力と一緒になってる」
急いで修正っと。こういうのがあるから最終チェックは必要だ。もしこれが放置されたままだったら、戦闘中などで武装が使えなくなったり、やはり船が傾いて常に横へとスライドをする様な挙動を行う船になっていたかもしれない。
なのでこういう場合は、武装に送られる魔力のラインとは別のラインを用意するべきだろう。
「これ、反対側も似たような事になってるかも?」
「あー……その可能性は否定出来ない」
両方の魔力が薄くなればバランスが取れるのでは? と思うかもしれないが、この場合だと今度は前後のバランスがおかしくなってしまう。……常にウィリーをする船とかどうよ? いや、ウィリー航行をするだけならまだ良い。自転車でウィリーをやった事がある人は経験をした事が有るのではないだろうか? 前が上がりすぎて後方へグルリと大回転したことが。
飛行中に起きるから、自転車の様に地面へと叩きつけられるなんて事はないだろう。だが、グルングルンとバク宙を連続で行うような船なんて、船内にいる人が一体どうなるのやら……。はっきりって想像なんかしたくない。
「って事で、修正修正。浮遊物質に送られる魔力は全て均等になるようにしないとね。もちろん、故意的変更しない場合はだけど」
「前進しながらの急速潜航……空中だから降下かしら、それを行う場合は前に送る魔力を減らして角度をつけるのが必要になるものね」
船体を並行にしたままよりも、斜めにして前進した方が一気に進む事が出来るからね。前にも下にも。
まぁ、船でドッグファイトを行うような事はないとは思うけど、念の為に3次元戦闘用の操舵は出来るようにしておかないとだ。
「それにしても、この船は武装客船と言ったほうが良いのかしら?」
「プールや浴場も完備してるもんね……いったい何を目指しているのかな」
いやまぁ、武装自体は本当に防衛用みたいな物だし? どちらかというと、前に言ったようにテスト船って意味合いが大きい。ただ、テストする為だけに作るのは勿体ないから、どうせなら皆でまったりと出来るような船にしちゃおうみたいな? そんな感じかなぁ。
何せこの船は、初代ちゅん丸の銘と魂を受け継いでいる船だからね。それなら、隠居……ってワケじゃないけど、皆が楽しんで乗船が出来るような形が良いと思ったんだよね。
おかしな兵装は積みまくっているけど。うん、それは万が一の保険ってやつだ。
「僕が思うに、現状だと世界最強の船だと思うんだけどね」
「ハッハッハ! 其処はアレだ……試作機は予算度外視で作り上げるのが基本だから」
そこからコストに合わせて武装や性能を落としていく。試作機は理論値を叩き出してこそってやつだね。……って、これは前にも言ったと思うんだけどなぁ。
「理論値どころか、化け物スペックになってるじゃん」
「いやいや、まだまだだよ。だって炉はマナホイールエンジンじゃないし、浮遊物質も虹魔鉄とワイバーン素材で妥協しているからね」
なので、ちゅん丸は俺が思い描いている理論値なんて全く叩き出していないんだよ。妥協した状態での理論値という意味では完璧になるかもしれないけど。
「……ん。ちゅん丸はもっと出来る子」
「なんかその内、改とか改2とか甲って文字が付きそうな気がしてきた」
ふむ……新生ちゅん丸・改か有りかも知れない。新生って言っているけど、一応この〝ちゅん丸〟は3代目って事になるのかな。となると、3代目ちゅん丸・改か。もしくは、3代目ちゅん丸・甲型とか? 中々良さそうな響きだなぁ。
「あ、景の目が怪しい光を灯してやがる……これ、完全に開発脳がフルドライブ中じゃん」
「ブラスミさんが余計な事を言うから」
「え! 僕が悪いの?」
いやいや、ブラスミさんは何も悪くなんか無いよ。むしろ、良いアイデアが降ってくる為の素晴らしいアシストをしてくれた。
「とは言えだ。今は〝ちゅん丸〟の改造よりも運用のためのチェックが優先だね」
「うわぁ……もう改造するつもりだよ」
それは当然だよ。多分だけど航行をしたら改良したい点なんて山のように出てくるだろうしね。てか、航行していない現状でも既に幾つか思いついているし。
あぁ、手直ししたい部分や積みたい物が色々と思いついて……今のサイズだとやっぱり物足りないかも? でも、現状の浮遊物質やエンジンだと50メートルが限界っぽいんだよなぁ。
せめて駆逐艦サイズとかに出来たら良いのに。何か良い方法でもないだろうか? ……あぁ、ホバーシップにしなければ駆逐艦どころか巡洋艦とか戦艦クラスのサイズにも出来るんだけどね。でもそれだと意味が無いからなぁ。
やっぱり船は空を飛んでこそでしょ! え、違う?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そういえば、船の名前は決まっているのに錬金ロボの名前は無いの?」
「あー……試作機だから考えてなかったなぁ」
「……ん。ここはボクが考える。ちゅんがいがー」
「そこは〝ちゅんダム〟じゃね?」
……いやいや、ちょっとなんかパチモンみたいな名前を付けないでよ。ってか、そもそも〝ちゅん〟に拘らなくても良いからね? なにせ錬金ロボは雪さんの召喚精霊じゃないんだから。
ただでも、ネーミングかぁ。確かに何か名前はあったほうが良いかも知れない。リューの機体も増えたしね。それに、量産機の計画も有るから……機体銘をしっかりと付けて、それぞれを分けて判断出来るようにしないとだ。
でも、いったいどんな名前がいいのだろう? 俺も雪さんと同じでネーミングセンスは無いからなぁ。
「……ん? なにかとっても不名誉な電波が飛んできた気がした」
わぉ……とっても勘がよろしいようで。
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