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第三章 アハトの冒険2

 そして、時は少し後。

 場所はアルスの外れ――下水道。


「ここをまっすぐ進めば、地下実験施設へとたどり着くことができますね」


 そうすれば、あとはそこに捕まっている住民達を逃がすだけだ。

 しかも、今回は『前回失敗した時』と違って、アハトに有利な条件もある。


(きっとミハエルにとって、今のわたしの行動は想定外に違いありません)


 一つ――ミハエルはアハトの怪我が、動けるほどに治っているとは思っていないはず。

 二つ――そんな状態の今日の今日で、再び侵入するとは思えないはず。


(もちろん、前回と違って不利な面もありますけど)


 と、アハトは脇腹を押さえる。

 表面的にはしっかりと治癒できているが、やはりまだ治り切っていないに違いない。

 動くとズキズキと痛むのだ――動けなくなるほどではないが。


(それにジークが言っていた体力面……ベッドを抜け出してから、気怠い感じが続きますね。とても好調とは言えませんが――)


 そんな事を一々、気にしてなんかいられない。

 ジーク達に頼ることなく、人々を一刻も早く助ける。

 そして、最終的にミハエルを倒す。

それら三つを迅速にこなすには、今行動する以外に考えられないのだから。


 アハトはそんな事を考えた後。下水道の奥目指し、ゆっくりと進んでいく。

すると少し進んだところで。


「やはり居ましたか」


 見張りだ――ミハエルの配下の冒険者に違いない。

 その数は二人。


(大前提として、今回の目的は捕まっている人々を逃がす事)


 故になるべく交戦は避け、目立たない様に行動しなければならない。

 だからこそ、普段あまり使われない『下水道側の入り口』から侵入したのだ。

 だがしかし。


(さすがにこの見張りは、放置しておくわけには行きませんね)


 この位置関係だと、どうしても帰りに再び出くわしてしまう。

 しかも、その時は逃がした人々も一緒なのだ。


「やれやれ……仕方ないですね」


 言って、アハトは腰の剣へと手をかける。

 そして次の瞬間――。


 アハトは地面を蹴りつけ、疾走。

 凄まじい加速で、冒険者の一人へと接敵。

 すれ違いざまに抜剣――その冒険者を斬り捨てる。


「あ、か――っ」


 と、アハトの後ろで静かに倒れる冒険者。

 きっと、斬られた事すら気がついていないに違いない。

 一方、残りの冒険者はというと。


「き、貴様はアハト! どうしてここに――っ!?」


 と、驚き慌てた様子で剣を引き抜こうとしている。

 しかし、その動作はアハトにとって、あまりにも。


「遅い!」


 言って、アハトが繰り出した斬撃。

 それは冒険者が剣に手をかける前に、冒険者の急所へと叩き込まれる。


 後に残ったのは静寂――初戦はアハトの完全勝利だ。

 考えた後、アハトは剣を鞘に納めようと――。


「っ……!?」


 突如、アハトへと地面が迫ってくる。

 けれど、彼女はすぐに何が起きたか理解する。


(ちが、う……わたしが倒れそうになり、膝をついた、のですか?)


 どうやら、アハトが思っていた以上に体力も、傷も具合がよくないに違いない。

 まさか、たったこれだけの動作でここまで反動が来るとは思わなかったのだ。

 しかし、今更泣き言をいう訳にはいかない……それに。


(この程度、捕まっている人々の声を――わたしに伸ばされた、救いを求める手を思い出せばなんという事はありません)


 実際、彼等の事を考えると、力が戻ってくるような気がするのだ。

 まだやれる……まだ立ち上がれる。


 アハトは地面に剣を突きさし、強引に身体を持ち上げる。

 そしてそれから、彼女は下水道の闇の中目指し、更に歩を進めるのだった。

 為すべき事を、為すために。


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