第三章 アハトの冒険
時は少し戻り、ジークとアイリス、遅れてブランが部屋から出て行った頃。
場所はアルス――廃屋の一室、ベッドの上。
現在、アハトは身体の動き具合を確かめていた。
(悪くはない……ですね)
無論、万全とは言えない。
さらに、ジークの言う通り体力はまだまだ回復していない。
(けれど、この程度回復したなら、もう動くことも……戦う事もできます)
ミハエルから一旦身を隠し、身体の回復を図る事はこれで成功したともいえる。
しかし、そもそもの目的は何一つ達成できていない。
(きっと、地下実験施設では今も、人々が助けを待っています。それにミハエルを倒し、この街を救わなければ)
急がなければならない。
こうしている間にも、彼等がミハエルの実験に使われてしまうかもしれない。
そんな事は絶対にさせられない。
「それでね、その時にジークくんってば……アハトさん?」
と、ふいに聞こえてくるのはユウナの声。
アハトはそんな彼女へと言う。
「す、すみません。少し考え事を、ぼーっとしてしまっていました」
「ひょっとして、まだ怪我が痛む?」
「いえ、怪我は本当に大丈夫ですよ。今もこうして、おまえが回復魔法を使ってくれているおかげです」
「それならよかったよ!」
ぱっと嬉しそうな様子の表情をするユウナ。
ユウナは本当にいい少女だ――冒険者とは思えないほどに、まっすぐな瞳を持っている。
(だからこそ……というのも、ありますね)
アハトは先ほどから考えていたのだ。
それはジークが、この部屋を出て行くときに言った言葉について。
すなわち――。
『アハト、なんにせよお前は少し身体を休めろ。そうすれば次――お前が地下実験施設の住民を助けに行くとき、俺達も付き合ってやる』
任せられるわけがない。
当然、ジーク達の力を軽視しているわけではない。
ジーク達の力を借りれば、住民達を助けられる可能性は格段にあがる。
それほどまでに、ジークの力は絶大だった。
(しかし、本当にジーク達を頼ってしまっていいのでしょうか?)
答えは否だ。
ジーク達は本来、この街とは無関係。
そもそも彼等に、今日会ったばかりのアハトを助ける義理など存在しない。
そんな彼等を、危険に巻き込んでいいはずがない。
(そうです、そんな事はわたしの正義が許せない)
それに先ほど思った事がある。
それは――。
「そ、そんなに見つめられると、照れるんだけど……」
と、なにやらもじもじしているユウナ。
アハトはこの少女を特に、巻き込んだりしたくなかった。
どうして、彼女がジークと行動を共にしているのかは不明だ。
けれど、アハトの目に映るユウナは、どう見てもただのか弱い女の子。
(回復魔法は使えるようですが……少なくとも、魔王と行動を共にするような大いなる力も、宿命も持っていないはずです)
そんな純粋で優しいユウナに、ミハエルという醜悪を近付けさせたくない。
方針は決まった――あとは行動あるのみだ。
「ユウナ。頼みがあるのですが、聞いてくれますか?」
「うん、もちろん! あたしに出来ることなら、なんでも言って!」
と、相変わらず可愛らしい笑顔を見せてくれるユウナ。
アハトはそんな彼女へと言う。
「実は少し喉が渇いてしまいまして。外の井戸水でいいので、持ってきてもらえると助かるのですが」
「そんな悪そうに言わなくていいよ! 今のアハトさんは、あたしの患者さんなんだから! 大丈夫、あたしに任せて――それじゃあ、行ってくるね!」
「はい、本当にごめんなさい」
その好意を利用するような真似をしてしまって。
アハトが心の中で、そんな事を呟いている間にも、ユウナは部屋の外へと出て行く。
「…………」
ジーク達が戻ってくる気配はない。
ユウナもこれで、少しの間は戻ってこないに違いない。
要するに現在、アハトはこの部屋に一人。
「本当に……ごめんなさい」
アハトは再度呟くと、ベッドから静かに起き上がるのだった。
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