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第二章 アハトの事情6

「そういえばミハエルは、街の人に治療をしているとか、自分で言っていたが」


「そうやって誤魔化したり、騙して誘拐するのはミハエルの常套手段です。連れて来られた者は、先ほど言った実験素材となります――解剖されたり、良くて未完成の秘薬を飲まされ即死、といったところです」


 と、よりいっそう険しい表情のアハト。

 最初からわかっていたが、やはりミハエルの言動は嘘だった。

 これでミハエルに対する憂いは、完全に断ち切れた。


 というかミアの事を考えていたら、この時代の勇者にイライラしてきた。

 ちょうどいいし、ミハエルは早めに潰した方がいいに違いない。


「ところでアハト。どうしてお前は俺と出会った時、ミハエルに追いかけられていたんだ」


「うっ……それは、その」


 と、うつむいてしまうアハト。

 彼女は言いづらそうな様子で、ジークへと言ってくる。


「先ほど話したミハエルの地下実験施設ですが、とても大きなものでこの街全体に広がっていると言っても過言ではありません」


「街に入った瞬間から感じていた、地下の気配はそれか」


「その通りかと思います。それでその施設には二つの出入り口があるのです――一つはミハエルの城から続く、いわゆる『正式な出入り口』。もう一つは地下下水道から続く『不正な出入り口』」


「後者に関しては、出入り口というより『実験素材を捨てる場所』って感じか」


「そう、なりますね」


 と、悔しそうな様子のアハト。

 きっと、ミハエルの所業を思い出し、怒っているに違いない。

 そんな彼女は、そのままジークへと言葉を続けてくる。


「わたしは『人々を助けなければ』と気がついたのちも、ミハエルに従って働いていたのです」


「話の流れからするに、地下実験施設に捕まっている人達を、確実に逃がすための順路とタイミングを、ミハエルの下で探っていた……って感じか?」


「その通りです。当然、脱出口は『下水側の出入り口』になります……ですが」


「いざ決行しようとしたところ、逃がそうとしているのが、ミハエル達にバレた?」


「はい……その場で戦闘になってしまったわたしは一人、体勢を立て直して再度突入をするため、なんとか街の外まで逃げようとして――」


「俺達に出会った……そして」


「冒険者の服装をしていたので、ミハエルの手先に先回りされたかと思い」


 斬りかかってきたと。

 ようやく全ての点が繋がった。

 あと、わからない事があるとすれば。


「どうしてこのタイミングだったんだ? 俺達がこの街についたのと前後して、お前が脱出を決意……俺達の前にやってくるなんて偶然があるか?」


「それは本当に偶然としか。ですが、しいていうのなら」


 と、何か思い至った様子のアハト。

 彼女はジークへと言ってくる。


「ミハエルは『ルコッテの街の勇者』が蘇った魔王に倒された事に、とても怯えていました――次は自分かもしれない。と」


「ミハエルのやつ、なかなかいい勘をしているな」


「それで、ミハエルは魔王に対する備えとして、研究している秘薬の完成を急ぐ様になったのです――ミハエルは研究室に籠る様になって、普段見回りをしている冒険者達も、ミハエルの傍に集められました」


「なるほど。だから最近になって、ミハエル達からお前への警戒が緩んだと……つじつまがあったよ。それで、その錬金の秘薬って言うのは?」


「二つ目の質問にも繋がるのですが、結論から言って詳細はわかりません。勇者ミア関連の秘薬という事は知っていますが、ミハエルは勇者ミア関連の資料を、人に見せようとしませんから」


 なるほど、これは当たりかもしれない。

 ミハエルがそれを見せないのは、『真の勇者』という存在を知っているからに違いない。

 それがバレてしまえば、ミハエルが勇者でなくなってしまう。

 だからこそ、彼はそれらの研究資料を見せないのだ。


(となると、勇者の試練についての情報も、本当に見つかるかもしれないな)


 これは俄然、やる気が出てきた。

 などなど、ジークがそんな事を考えていると。


「こちらからも質問をいいですか?」


 と、聞こえてくるアハトの声。

 彼女はジーク達を順に見た後、再びジークに視線を戻して言ってくる。


「おまえ達が蘇った魔王と、その配下達で間違いないですか?」


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