表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

94/207

第二章 アハトの事情5

「ジーク、お礼と言ってはアレですが……わたしに何かできることはありますか?」


 ひょこりと、首をかしげてくるアハト。

 ジーク的には、別に恩着せがましい事を言うつもりはない。

 けれど、しいて言うならば。


「聞きたい事がる」


「わたしに応えられる事ならば、どんな事でも」


 と、言ってくるアハト。

 ジークはそんな彼女へと、言葉を続ける。


「俺が聞きたいことは、大きく分けて二つだ。一つは『この街で何が起きているか』。もう一つは『ミハエルが研究している勇者の資料』について」


「前者にかんしては、聞いていて気持ちいの良い話ではありませんが……」


「気にしない。存分に話してくれ……できるなら、お前を取り巻いている事と絡めて、詳細に話して欲しい」


「えぇ、構いませんよ。わたしを助けてくれた、おまえの頼みですから」


 と、この街の事を語り始めるアハト。

 彼女の言葉をまとめると、だいたいこんな感じだ。


 ミハエルは街や、周囲の村から人を誘拐。

 彼等を地下実験施設の地下牢に入れ、錬金の秘薬を作るモルモットにしている。


当然、生きて帰ってきた者はいない。

街から逃げようとした者は、捕えられこれまた実験材料にされる。

 そして、アハトは六ヶ月前に作られたホムンクルスであり、彼の護衛として作られた。


「当然、当初のわたしは善悪の判断がついていませんでした。だから、ミハエルがやっている事を悪とは、まったく思いませんでした」


 と、言ってくるアハト。

 彼女は俯きながら、なおもジークへと言葉を続けてくる。


「ですがある時――わたしは見て、聞いてしまったのです。人々が助けを求め、泣いている姿を」


「その時、ミハエルが悪だと気がついたと?」


「少し、違います。わたしは何よりも先に『捕まっている彼等を助けなければ』と思ったのです」


「…………」


「わたしがホムンクルスだからでしょうか。わたしには命ある者が――日々を清く正しく生きる者達が、とても尊い存在だと思えるのです。そんな尊い者達が、苦しめられていいはずがない」


「…………」


「わたしは彼等を守るためなら、この身が滅びたとしても構わない。例えどんな敵が立ちふさがろうとも、絶対にそれを打ち破り彼等を守る――その結果、尊い者達が美しく、とても優しい未来を歩めるのなら……犠牲になったかいがあるじゃないですか」


「そう、か」


 アハトはミアから作られているが、あくまで外見と身体能力が似ているだけ。

 その性格も思考回路も全くの別物だ――なんせ、魂が異なっているのだから。

 だがしかし、ジークは思ってしまう。


(今のアハトの表情はミアと――俺と戦っている時のあいつと、同じに見える)


 きっと五百年前、ミアはアハトの様な気持ちで戦っていたに違いない。

 もしも本当にミアが『人間達が美しい未来を生きられるため』などと、考えて戦っていたとしたら。


(この時代の勇者は、俺が思っている以上に許されない奴等ばかりだな。俺に勝った好敵手の願いを、ゴミクズの様に捨て去るとは)


 それこそ万死に値する。

 特にミハエルだ。


 奴は『ミアは将来の糧になれたと、喜ぶべき』などと述べた。

 許せない、許せるわけがない。


(ミハエル、ミハエルか……)


 と、ここでジークはふと思い出す事があった。

 それは――。


「そういえばミハエルは、街の人に治療をしているとか、自分で言っていたが」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ