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第二章 アハトの事情3

「おっほんっ!」


 と、ジークの思考を断ち切る様に、聞こえてくるのはユウナの声だ。

 瞬間、ジークは物凄く嫌な予感がした。


 ジークはゆっくりと、視線をユウナの方へやる。

 すると、彼女はジークに背を向けながら――アハトを回復しながら彼へと言ってくる。


「アイリスさんとブランさんが言うんだから、きっとジークくんの新魔法はすごいんだと思うよ。実際、あたしも『魔法を作る』なんて、聞いたことないし……でも」


「……で、でも?」


「ジークくんの本当にすごいところは、そこじゃないと思うな!」


「……そ、その心は?」


「ジークくんが本当にすごいのは、どんな時でも優しさを忘れない事! どんな状況でも、他人を気遣えるところだよ!」


 やはり来た。

 ユウナさん、完全にアイリスとブランに対し、焼きもち対抗モードになっている。

 ジークには見える――ユウナの背中は今、『ジーク褒め』のやる気で燃えている!

 などなど、ジークが考えている間にも、ユウナは彼へと言ってくる。


「まずジークくん。ミハエルさんが爆発する試験管を、たくさん投げた時さ。剣で全部叩き落とさなかったよね?」


「あ、あぁ。爆風が俺のところまで届くと思ったからな」


「ふっふ~ん! ジークくん、今嘘ついたでしょ!」


「うぐっ……」


「本当はあたし達が爆風に巻き込まれないか、それを心配してくれたんだよね?」


「そ、それは当然だろ? 仲間を守るのは初歩の初歩――」


「あとあと、本当は周囲の住民を守りたかったんだよね?」


「…………」


 ジークは思わず声が出なくなってしまう。

 ユウナさんの怒涛の連撃、凄まじい威力だ。

 しかし、彼女の言葉は止まってくれない――ユウナは更にジークへと言ってくる。


「あのまま試験管が全部爆発したら、きっと周囲の家も爆発に巻き込まれてた。でも、家の中には避難した人達が居た……だから、ジークくんは下位闇魔法 《ヴォイド》?で、わざわざ試験管を消滅させたんだよね?」


「残念だけど、そこまで考えてないよ。俺が思ったのは、お前達が巻き込まれたら困るってところまでだ」


「そっか、さすがジークくんだね!」


 意味が分からない。

 ユウナは背後からでもわかる程に、嬉しそうな様子だ。

 いったいどうして、そうなるのか。


「ジークくんはさ、きっと無意識に行動したんだよ」


 と、言ってくるユウナ。

 彼女は優し気な口調で、ジークへと言葉を続けてくる。


「特に何も考えてない時でも、身体を勝手に動かせる人なんだよ――人を助ける為に、常に人に優しい選択肢を取るために」


「俺が、か? いくらなんでも、俺の事を買いかぶりすぎだよ。俺は――」


「あたしにはわかるよ。ジークくんはとっても優しい人だから。それに、あたしには証拠だってあるんだよ!」


 エッヘンと言った様子のユウナさん。

 彼女はよりいっそうアハト回復に気合いを入れた様子で、ジークへと言葉を続けてくる。


「ミハエルさんが最後に、五つ首の竜――人造竜タイラントだっけ? あれをけしかけてきた時にさ、あたし達を守ってくれたでしょ?」


「だから、仲間を守るのは当然の事で――」


「うん。でもさ、あの時も周りの被害を考えてたよね?」


「うっ……」


「周りの被害を考えないなら、どこかに弾き飛ばせばいいだけだもん! アイリスさんから聞いたよ? エミールさんから同じような威力の魔法を使われた時は、剣で誰も居ないところに弾き飛ばしたって!」


「そ、そんな事もしたような……」


「今回は街中だったから、弾き飛ばしようがなかった。だからジークくんは、周囲の被害を抑えるために、竜のブレスの威力がなくなるまで、その手で受け続けたんだよね?」


 不思議だ。

 ユウナにこうまで言われると、本当にジークが優しい気がしてくる。

 などなど、ジークがそんな事を考えていると。


「ブランさんもそう思うでしょ? ジークくんが優しいって!」


 と、ブランへと声をかけるユウナ。

 すると――。


「まおう様……すごいっ」


 またも瞳をきらきらさせているブランさん。

 ぴゅあすぎる彼女は、そのままの様子でジークへと言ってくる。


「ブラン……いい人間を守ろうとしてるから、今ならわかる!」


「今回も一応聞くけど……何がだ?」


「常に多くの人を助けようと行動するのは……ん、簡単そうに見えて難しい」


「いや、ブランも充分――」


「そんなことない。今回のブラン……終始ユウナ達を守ることしか、考えてなかった……ブレスを受けた時も、ユウナ達の心配ばかりしてた」


「それが当然だよ。ユウナ達は、ブランにとっても大切な仲間なんだから」


「ん……でも、それだけじゃだめ」


 と、頭をふるふるさせるブラン。

 彼女は反省といった様子で、ジークへと言ってくる。


「ブランはいい竜……まおう様みたいに、無意識にいい人間達を守れるう様な選択を取りたい……そんな立派な守護竜になりたい」


「その言い方だと、遠回しに俺が褒められているみたいで、恥ずかしいんだけど」


「ん……ブランはまおう様を褒めてる。まおう様はすごい……とても難しい事を、いとも簡単にやってのける」


「っ……」


「五百年前も含めて、何年も生きてるブランが保証する……ん、まおう様は偉い」


 言って、なにやらジークに近づいてくるブラン。

 彼女は背伸びして、ジークの頭に手をやり言葉を続けてくる。


「いい子いい子……まおう様は偉い」


「えっと、なんだこれ?」


「なでなで……人間の男の子は、これをされると喜ぶって、アイリスが言ってた」


 なでなで。

 なでなでなで。


(うん……なんだかとっても恥ずかしいのはわかった。というか、アイリスにはそろそろ本格的に言っておく必要があるな)


 ブランに変な知識を与えちゃいけません!と。 

 ジークがそんな事を考えながら、ブランになでなでされていた。

 まさにその時。


「ジークくん! アハトさんが!」


 などと。

 そんなユウナの声が聞こえてくるのだった。


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