第二章 アハトの事情
時はミハエルとの一件から数十分後。
場所は変わらずアルスの街。
「いやぁ、よかったですね! 休むのにいい感じの廃屋が見つかって!」
「ん……家具が丸々一式、全部そろってる。それにこの廃屋……宿屋みたいに綺麗」
聞こえてくるのは、アイリスとブランの声だ。
そんな彼女達は、順に言葉を続ける。
「でも、どうしてこの廃屋って、こんなに綺麗なんですかね? 今いる子供部屋もベッドあって綺麗ですし、隣の部屋なんてもう――夫婦の営みが出来る大きなベッドがありましたよ!」
「ブランもそれは思った……まるで、つい最近まで人が住んでたみたい」
「というか、案外今も住んでたりして!」
「ん……それはない。この家の鍵、壊れてた」
ブランの言葉に付け足すならば。
ジークが軽く聞き込みした限り、この家の主は数日間留守にしている。
しかも、その理由が最悪極まりなかった。
(通りを歩くミハエルの前を横切ったから、公開処刑――大通りで、回復魔法をかけられながら三日間焼かれて死んだ、か)
しかも、聞いた話によると、焼かれた者の子供に火を付けさせたようだ。
おまけに、最終的にその子供も殺したとの事だが……悪辣極まりない。
(アルと混じっていなかった頃――五百年前の俺ですら、そんな事はしなかった)
本当にこの世界はどうなっているのか。
仮にも今を生きる者として、ミアに対して申し訳なくなる。
「…………」
なんにせよ、今はアハトだ。
と、ジークは視線を部屋の中にあるベッドへと向ける。
するとそこでは――。
「うーん。やっぱり効き目が……」
と、ベッドの隣の椅子に座るユウナ。
彼女はベッドで眠るアハトに、回復魔法をかけ続けている。
ジークはそんな彼女へと言う。
「もうずっと、アハトに回復魔法をかけてるけど、そろそろ俺が代わろうか? ユウナには《隷属の証》を刻んでいるから、俺も回復魔法は使えるからな」
「あ、そっか。《隷属の剣》で《隷属の証》を刻まれると――刻まれた人の魔法とかって、刻んだ人も使えるようになるんだっけ?」
「あぁ、だから少し休まないか?」
「ありがとう、ジークくん。でもまだ大丈夫! それにジークくんだって、たまには休まないと!」
「いや、俺はまったく疲れてなんて――」
「また強がって! さっきだって竜のすっごい攻撃から、あたし達を守ってくれたばかりでしょ?」
「まぁ、そうだな。たしかにあの竜の攻撃は、威力だけなら『すっごい攻撃』だったかもな。とはいえ、あの攻撃はまだまだ甘い。もし俺があの竜だったら――」
「とにかく、あたしに任せて! それともやっぱり、あたしの回復魔法じゃ心細い、かな?」
と、途端に不安そうな表情をしてくるユウナ。
きっと、アハトが中々回復しない事を気にしているに違いない。
故に、ジークはユウナの頭を撫でながら、彼女へと言う。
「少し前の話にもでたが、そもそもホムンクルスに回復魔法は効きづらい傾向にある。蘇生レベルになってくれば話は違うが――『傷の回復』程度の魔法なら、俺がやってもユウナがやってもたいして変わらないよ」
「え、えっと……つまり?」
「ユウナは回復魔法の使い手として、十分以上の領域にある。もっと自信を持って大丈夫ってことだ」
「ジークくん……うん、ありがとう!」
パッっと元気な笑顔を見せてくれるユウナ。
無論、ジークの言葉はお世辞でもなんでもない。
などなど、そんな事を一人考えたり。
アハトが起きるまで、みんなで雑談すること十数分。
「あ~もう、飽きましたよ!」
などと。
そんなアイリスの声が聞こえてくるのだった。
さて……これは毎作、言ってることなのですが
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