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第一章 五つ首の竜4

「ようやく見つけた! いや、悪かったねキミたち!」


 と、ジークの思考を断ち切るように聞こえてくるのは、気持ちのいい男の声。

 ジークが振り返ると、そこに居たのは――。


「やぁ! アハトに勝ったようですね――その強さ、キミが噂の魔王様かな?」


 知性的な片眼鏡と、錬金術師ぜんとした服装が目立つザ・好青年といった茶髪の男。

 けれど、ジークにはそれがどうしようもなく、うさん臭く見えた。


(周囲に冒険者が居るところを見ると、こいつがこの街の冒険者ギルドのトップ――ミアの血族である勇者か?)


 なんにせよ。

とりあえず。


「ユウナ、ブラン。アハトを頼む」


「う、うん! 出来るだけ、回復させておくね!」


「ん……任された!」


 と、順に言ってくれる二人に、ジークはアハトを預ける。

 そして――。


「わかりますよ! あの好青年仮面うさんくさキッドをぶっ殺すんですよね!? だってあれ、絶対に敵ですもんね! 顔がなんかムカつきますし、余裕って感じで!」


 しゅっしゅっ!

 と、ファイティングポーズを取っているアイリス。

 ジークはそんな彼女へと言う。


「アイリス。俺は少し、あいつと話してみたい」


「ま、まさかそれはつまり……」


「悪いけど、下がっていてくれ。というか、ブランとユウナを護衛してくれ」


「え~~~! せっかく活躍できると思いましたのに。うぅ……わかりましたよ! ちゃんと夜、構ってくださいね! 約束通りベッドでですからね!」


「あぁ、わかってる」


 ん、あれ。

 今アイリス、『約束』に変な事を付け足していなかったか。

 しまった、うっかり同意してしまった。


 まぁいい、落ち着け……今は目の前の事に集中だ。

 ジークはそんな事を考えた後、勇者と思わしき好青年の前へと歩いて行く。

 すると、彼はジークへと言ってくる。


「挨拶が遅れましたね。僕の名前はミハエル――ミハエル・ジ・アルケミー十二世です。この街の冒険者ギルドの長、そして当然ながら勇者でもある」


「さっきの口ぶりからして、知っているだろうが。俺はジーク――五百年の眠りから覚めた魔王だ」


「光栄だよ、ジークくん! キミの活躍は、この街にまで届いている!」


「俺を知っているってことは、俺達にも用があって来たのか? まぁいい……俺もお前に用がある」


「僕としてはもう少し、キミと世間話をしたいんですけどね」


「俺はごめんだ――本題以外話すつもりはない。これからアハトをしっかり治療するところだからな」


「それですよ、それ!」


 パンッと手を叩き、ジークを指さしてくるミハエル。

 動作の一つ一つは好青年だが、なんだかイラッとする男だ。

 ジークがそんな事を考えている間にも、ミハエルは彼へと言葉を続けてくる。


「本題の前に、勇者である僕の傑作――アハトは強かったかな?」


「そうだな……真の勇者であるミアに、匹敵するレベルの剣技だった。もっとも、力と気迫は共にまだまだだが」


「そうだろう! 欠陥はあるとはいえ、彼女は僕の最高傑作なんだ! 残っていたミアの細胞から作り出したホムンクルス――何度も何度も失敗を重ね、ようやく形になった八番目の個体!」


「やはりミアの細胞を素材に使った、か。道理でミアに似ているわけだ」


 まったく不愉快な話だ。

 うっかり、この世界事滅ぼしそうな怒りを感じてしまう。

 なんせ……。


「お前、ミアの死体に何をした?」


「何が気になっているのか、知りませんけど」


 と、言ってくるミハエル。

 彼はからからと笑いながら、ジークへと言葉を続けてくる。


「僕は特に何もしていませんよ。ミアは死んだあと――過去の人間達によって、サンプル

として切り分けられた。僕は僕の一族が持っていた、そのサンプルを使ったまでです」


「……ミアに対して、申し訳ない気持ちはなかったのか?」


「申し訳ない? あははっ! むしろ感謝してほしいくらいですよ! 将来の糧になれるんですよ? 魔王と戦って、無駄死にしたロートルが!」


「…………」


 もはや、何も言うまい。

 何か言ってしまえば、同時に怒りも我慢できそうにない。


 ジークは確信した、ミハエルとまともな会話を交わすのは不可能だ。

 ミアに対する思いが……価値観が違い過ぎる。


「それにしても、興味深い事を聞きましたね! 勇者ミアの顔や体つきは、アハトの様な感じなのか……なるほど」


 とー、ジークの思考を断ち切る様に聞こえてくるのは、ミハエルの声。

 彼はジークの背後に目を凝らしている様子。

 きっと、アハトを見ているに違いない。

 別に所有欲というわけではないが、ジークには何故かそれが不快だった。


(意図せずして、俺が聞きたいことの一つはミハエルから聞けた)


 あとは勇者の試練についてだ。

 しかし、ミハエルはどう見ても、ここで素直に話すような男には見えない。


 それに、ジークにはアハトを休ませたい思いもある。

 となれば――。

 と、ジークはミハエルへと言う。


「それでどうしてここに来た? 用がないなら俺の前から失せろ。俺は優先すべき用事が出来た」


「アハトを僕に返してくれな――」


「断る」


「あははははっ! ずいぶんと即断ですねぇ……理由を聞いてもいいですか?」


「自分で気がついてないのか、お前――そうとう臭いぞ?」


「どういう事です?」


 と、口だけで笑っているミハエル。

 きっと、本人も気がついているに違いない。


(やれやれ、やっぱりこいつはユウナの気持ちを裏切ったか)


 考えた後。

 ジークはミハエルへと言葉を続ける。


「今まで何人殺した? お前からは凄まじい血の匂いが漂っている。それと俺達に向けてるその殺意……気がつかないと思ったか?」


「嫌だなぁ! 勘違いですよ! 僕は勇者であり錬金術師でもありますからね! 医者の様な事をしているんですよ! まぁ、お礼に身体を実験体として、提供してもらう事もありますけど……勇者である僕の糧になるなら幸せ――」


「うだうだうるさい」


「…………」


「アハトを返して欲しいんだろ? だったらかかってこい。俺が負けたらアハトを返そう――その代わり、俺が勝ったらミアに関する研究資料を全てよこせ」


「やれやれ、手持ちが揃ってない状態で、戦いたくないんですけどね」


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