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第一章 五つ首の竜2

「あの顔について、いろいろ言いたいことがありますけど、今は言う通りにしますよ!」


「ん……まおう様、存分に楽しんで」


「なんだかよくわからないけど、あとで話しを聞かせてね!」


 言って、それぞれ下がっていく三人。

 ジークはそれを確認した後、改めてアハトへと言う。


「待たせたな、始めようか」


「言われなくとも!」


 言って、ジークへと突っ込んで来るアハト。

 その速度は凄まじい。

 きっと、ブランやアイリスでさえ反応しきれないに違いない。


「何を笑っているのですか!」


 そんな言葉と同時、ジークへと繰り出されるのはアハトの斬撃。

 斜め下から斜め上へ――やはりジーク以外では目視不能に違いないその一撃。

 ジークがそれを剣で弾いた、まさにその時。


 アハトの斬撃は断ち切った。

 遥か天空――そこに浮かぶ雲を。

 真っ二つに。

 

(バカな!? アハトの剣には魔力が込められていなかった……!)


 にもかかわらず、アハトは斬撃を飛ばしたのだ。

 アハトはどうやったのか……簡単だ。


 腕力ではなく、魔力でもなく。

 単純な剣技のみで、アハトはそれを為したのだ。


(剣技だけでなんて、そんなの俺にも出来ない)


 こんな芸当が出来たのは、後にも先にも一人。

ミアのみだ。


「はぁあああああああああああああっ!」


 と、ジークの思考を断ち切るように聞こえてくるのは、アハトの声。

 同時、ジークへと襲いかかってくるのは、アハトの怒涛の連撃。

 ジークがそれを防ぐ度、周囲の地面や壁に斬撃痕が刻まれていく。


(はっ! こんなに楽しいのは転生してから初めてだっ)


 アハトの絶技、存分に味わってやろう。

 ジークはそんな事を考えた後、ひたすらにアハトと剣戟を交わしていく。


 時に火花を撒き散らし。

 時に斬撃に身を躍らせながら。


 そして、時にして数分にも満たないほど後。

 体感にして、何時間もが経った頃。

 ジークはなおも連撃を受け流しながら、アハトへと言う。


「アハト! お前は力も気迫も、ミアには遠く及ばない!」


「っ……それで失敗作と、嘲笑っているというわけですか。やはりおまえは――」


「何を言っているかわからないが、勘違いするな」


「勘違いする余地など!」


 言って、ジークの剣を巻き取る様に、剣を操ってくるアハト。

 ジークがそれを認識した時には、すでに手遅れで――。


「お前の剣技は、俺を完全に凌駕している。その技量のみは、ミアに迫るものがある」


 アハトの剣に巻き取られた《隷属の剣》。

 それはジークの手を離れ、空中へと舞い踊る。

 すなわち、現在ジークは徒手空拳――無防備と言ってもいい。


「さようならジーク、わたしの勝ちです」


 言って、ジークの首めがけて振るわれるアハトの剣。

 その速度はやはり凄まじく、このタイミングで避けるのは不可能に近い。


(ただし……俺じゃなければな)


 ジークは意識を集中させ、アハトの剣の軌道を見極める。

 続けて、彼は剣を持っていたのとは反対の手で、握り拳をつくる。

 タイミングを見計らい……狙うのは。


(ここだっ)


 そして、ジークは拳を振り上げる。

 それが当たった場所は、アハトの剣の腹――今まさに振るわれていた、神速の斬撃だ。


「なっ!?」


 と、驚いた様子の声をあげるアハト。

 理由は簡単だ。


 ジークの拳を受けたアハトの斬撃。

その軌道は完全に、変えられてしまったのだから。


 結果、ジークの頭上数センチ上を、アハトの剣がかすめていく。

 目の前に居るのは、隙だらけのアハト。


「アハト。剣技のみならお前は、間違いなくミアの次に強かったよ――無論、俺よりもな」


 この時代に転生してから、初めて戦いらしい戦いが出来た。

 楽しく、濃密な戦いの時間……けれどそれも。


「これで終わりだ、アハト」


 無論、殺しはしない。

 ジークとしては、アハトにミアとの関係性を詳しく聞きたいのだ。

 それになによりより。


(俺を楽しませることが出来る奴なんて、五百年前含めて数名しかいないからな……しかも魔法の類をいっさい使わず、剣技だけでなんてな)


 そんなアハトを、殺すなんてありえない。

 などなど、ジークはそんな事を考えた後、アハトの腹へと魔力を放とうとした直前。


「痛ぅ……っ」


 と、ジークがまだ何もしていないのにもかかわらず。

アハトは腹を抑えてへたり込んでしまうのだった。


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