第一章 五つ首の竜
「ミハエルがいくら冒険者を差し向けようと、わたしはここで捕まるわけにはいかないのです……この手で人々を助けるため、絶対に!」
言って、ジークへと剣を向けてくる金髪碧眼の女剣士。
瞬間、ジークの身体は思う様に動かなくなった
(なんだ……これは? まさか、この俺が……動揺している、のか?)
けれど、それも仕方ない事だ。
と、ジークは目の前の少女を見る度に思ってしまう。
なぜならば、ジークはこの少女を見たことがあるからだ。
しかしそれはあり得ない。
なんせ、彼女を最後に見たのは五百年――ジークが死ぬ間際の事だ。
故にジークは、確認の意味を込めて金髪の少女へと言う。
「お前は……誰だ?」
「白々しいですね。おまえがミハエルの仲間なのは、しっかりわかっています。そうやって、無関係を装って、わたしを油断させようとしても無駄です。わたしはこの街の人々を救うまで、決して――」
「ミア」
「……はい?」
と、険しい顔で首をかしげてくる少女。
ジークはそんな彼女へと、言葉を続ける。
「お前の名は……勇者、ミア・シルヴァリアか?」
少女の顔も、少女の声も。
ジークは少女のなにもかもを、鮮烈に覚っている。
なんせ、彼女はジークが認める真の勇者――ミア・シルヴァリアと瓜二つなのだから。
などなど、ジークがそんな事を考えていると。
「わたしがミアか……と、そう問いましたね」
と、言ってくる少女。
彼女はキッとジークを睨み付けてくると、そのまま言葉を続けてくる。
「わたしを作り出したのは、おまえ達ではないですか! それならば、聞かずともそんな事はわかるはずです!」
「作り出した? 待て、何を言っている?」
というか、どうしてこの少女はいきなり怒っているのか。
と、ここでジークはふと思う。
「あぁ、そういえば俺の名前をまだ教えてなかったな」
人間はマナーを大切にする。
何かを聞くときは、自らが名乗るべきだった。
ジークはそんな事を考えた後、目の前の少女へと言う。
「俺の名前はジークだ。これで質問に答えてくれるだろ?」
「そうですか、ジーク。おまえは最悪ですね――ミハエルの部下であるならば、わたしの産まれを……ミアとの関係を知らない訳がない」
「待て、そもそもミハエルっていったい――」
「挑発、しているのですか? 失敗作であるわたしの出自を、わたし自身から語らせることによって」
「あ~……っと」
まずい。
なんだか、どんどん怒っていっている気がする。
ジークとしては、本気で穏便に話したいだけなのだが。
「けれど、そうまで聞きたいのなら、名前くらいは教えてあげます」
と、聞こえてくる少女の声。
彼女は剣を構えているのとは反対の手を胸に当て、ジークへと言ってくる。
「わたしの名はアハト……そして、ミハエルの部下であるおまえを倒す者の名です」
「アハト、そうか。お前はアハトというのか、いい名前だ」
「いい名前? これはおまえ達がつけた記号――単なる製造番号でしょう? 先ほどから何度も何度も、どこまでわたしを挑発する気ですか、おまえは?」
「すまないな。さっきから、話しがまるで噛みあってない。よければ、話しを聞かせてもらいたいんだが」
「わたしを油断させようとしても無駄だと、最初にそう言ったはず――どうしても聞きたいのなら、わたしを負かしてみることです」
「なるほど、だったら仕方ないな」
ジークとしても、正直我慢が出来そうになかったのだ。
なんせ。
(アハトは強い……立ち上る剣気だけで、はっきりとわかる)
勇者ミアに匹敵しかねないほど、アハトは研ぎ澄まされている。
少なくともこの時代で産まれ、育ったとは思えないレベルの強さだ。
故にジークは、アハトとぜひ戦ってみたいのだ。
「アイリス、ブラン、それにユウナ。少し下がってろ――こいつは俺がやる」
「あの顔について、いろいろ言いたいことがありますけど、今は言う通りにしますよ!」
「ん……まおう様、存分に楽しんで」
「なんだかよくわからないけど、あとで話しを聞かせてね!」
言って、それぞれ下がっていく三人。
ジークはそれを確認した後、改めてアハトへと言うのだった。
「待たせたな、始めようか」




