プロローグ 錬金術の街
勇者の血筋を振りかざし、暴虐非道の限りを尽くしていたエミール。
そして、彼が率いていた冒険者ギルドのクズども。
そんな彼等の本拠地であるルコッテの街を、解放してから時は少し後。
現在、ジーク達はルコッテから離れた街。
錬金術が盛んなアルスへとやってきていた。
周囲を見回せば、露店や専門店が立ち並ぶ商店街。
それら店の全ては、錬金術関連で埋め尽くされている。
(さすが、錬金術の街と称されるアルスだな。戦闘に転用できないレベルとはいえ、住民の全てが錬金術師というだけある)
用件を済ませたら、店を見てみるのもいいに違いない。
それなりに楽しめそうだ。
などなど、ジークがそんな事を考えていると。
「で、魔王様! 私達って、どうしてここに来たんでしたっけ?」
と、聞こえてくるのはジークの配下であり、五百前の魔物の少女。
悪魔な先端ハート尻尾と悪魔な羽がトレードマーク、サキュバスのアイリスだ。
ジークはそんな彼女へと言う。
「何回も言った気がするが……まぁいい。結論から言うと、ここに『勇者の試練についての情報』があるかもしれないからだ」
「勇者の試練……な、なるほど」
なるほど。
どうやらアイリス、勇者の試練が何なのか忘れたに違いない。
故にジークはそんな彼女へと、言葉を続ける。
「勇者の試練っていうのは、真の勇者――血筋ではなく、正統な勇者の後継者を覚醒させる試練の事だ」
「あぁ、思い出しましたよ! ユウナを強くするやつですよね!」
「まぁ、だいたいそんなところだ」
真の勇者が『勇者の試練』で課される課題をクリアすれば、飛躍的に身体能力があがる。
と、ジークがそんな事を考えていると。
「でもでも、それでどうしてこの街に来たんです? 勇者の試練の情報がここにあるって、どうして察しがついたんですか?」
「結論から言うと、アルと混じった俺の記憶に残っているからだ――この街の勇者もまた錬金術師で、しかも『勇者についての研究』をしているとな」
この街の勇者――アルスの勇者が、どれほどのレベルの錬金術師かは正直不明だ。
けれど、アルスの勇者が、『勇者について研究している』というならば。
アルスの勇者が『真の勇者』や『勇者の試練』について知っている可能性はある。
奴等は仮にも勇者の子孫。
その権力と、語り継がれている情報などを本気で研究すれば――。
(まぁ辿り着くだろうな、それくらい。とはいえ、奴等がその情報や研究成果を公開することは、絶対にないだろうが)
特に前者を公表してしまえば、今の勇者の地位は失墜するのだから。
まったく、現代の勇者は腹立たしい。
五百前、魔王ジークを倒し世界を救った真の勇者――ミア・シルヴァリア。
(ただでさえ、今の勇者の暴挙はあいつを貶している。なのにまさか『ミアの末裔がミアの情報を隠蔽する可能性がある』なんて、そんな事を考える羽目になるとはな)
本来ならば、現代勇者はミアを称え、その情報の全てを人々に開示するべきだ。
隠して良いレベルのものではない。
なんせ、そのせいで現代は『勇者』という、特権階級が生まれてしまっている。
(ミアはそんな差別的な世界を、絶対に望んだりしていない)
この世界をミアも望んだ形にする。
それは敗者であるジークの……彼女を好敵手と認めていた、ジークの義務でもある。
などなど、ジークがそんな事を考えていると。
くいくい。
くいくいくい。
と、引っ張られるのはジークの服だ。
見れば、そこに居たのは真っ白な魔法使いの少女。
ジークと同じく魔物からの転生者――宿魔人のブランだ。
彼女はジトっとした様子で、ジークへと言ってくる。
「まおう様……この街の勇者から研究成果を奪う? ん……だったらブラン、頑張って手伝う!」
「いや、目的は確かに研究成果――勇者の試練の情報だ。でも、もしこの街の勇者が善人だったら、無理矢理奪う様な真似はしないよ」
「ん……大丈夫。仮にもブランは一時的に、勇者エミールの仲間だった。だからブラン、この街の勇者の情報が少しある……全然いい人じゃない。街の人で人体実験してる噂がある」
「はぁ……」
頭が痛くなってきた。
ジークの淡い希望は、早々に木端微塵にされた。
現代の勇者の大半は、地位と権力に溺れクソ化している……それでも。
ひょっとしたら、この街の勇者はミアの様に高潔で強いかもしれない。
なんて、心のどこかでワンチャンに賭けていたジークがバカだった。
(しかも、勇者が本来守るべき住民で生体実験だと? ミアなら当然、そんな事は絶対にしなかった。むしろあいつなら、自分の身を差し出す側だ)
やはり許せない。現代の勇者はミアを冒涜している
これ以上、『勇者』のイメージを悪くするわけにはいかない。
そんな事をされれば、ミア自体のイメージ失墜を招いてしまう。
それだけは、絶対に許されない
「だ、大丈夫だよジークくん!」
と、ジークの思考を断ち切るように聞こえてくるのは、気遣ってくれるかの様な声。
見れば、そこに居たのはポニーテールがトレードマークの冒険者の少女。
彼女こそは正当なる勇者ミアの後継――『真の勇者』見習いのユウナだ。
そんな彼女はジークへと言葉を続けてくる。
「ひょっとしたら、まだ『この街の勇者が、良い人』って可能性あるよ!」
「励ましてくれるのは嬉しいが、そんな可能性あるか?」
「人は少しの時間でも、本気で願えば改心してくれるものだよ! ブランさんが知っている頃から、時間は経ってるし……うん、改心してくれているかも!」
「本気でそう、思うか?」
「うん! だって仮にも、この街を守るべき勇者だもん! 実際に見るまでは……その、信じてあげないと可哀想だよ!」
相変わらずユウナはまっすぐだ。
彼女はルコッテの勇者エミールに、酷い目に遭わされかけたことがある。
それでも、こんな事を言えるのだ。
(これで、この街の勇者がクソだったら、二重にイラつくな)
ミアを冒涜している事しかり。
ユウナの気持ちを裏切った事しかり。
(よし、今のうちに心の中で素振りしておくか)
いざという時に、全力で勇者をぶっ飛ばせるように。
と、ジークがそんな事を考えた。
まさにその時。
聞こえてくるのは爆音。
見えるは立ち上る爆炎。
(なんだ? 位置は結構離れているが……)
などと、ジークが考えている間にも、往来の人々は慌てた様子で避難していく。
住民達は何かを恐れている様だが、同時に『諦観』といった様な表情をしている。
要するに、慣れているのだ――この街では時折、こういう事が起こると。
この街は平和な街ではないと。
(嫌な予感もするし、面倒な予感もある。だけど、ある意味ちょうどいいな)
この街の勇者はまともか。
この街でいったい何が起きているのか。
それらを知れるチャンスが、ここで巡って来るかもしれないのだから。
「なぁ、お前もそう思うだろ?」
言って、ジークは愛剣――他者を合意の元、奴隷にする力を持つ《隷属の剣》を鞘から引き抜く。
そして、それを頭上へと翳した瞬間。
キィンッ。
と、響き渡る金属と金属がぶつかる音。
見上げれば、そこに居たのは金髪碧眼、白の軽鎧を纏った女剣士。
彼女は空中で、見事に身体を操り、ジークからやや離れた位置へと着地する。
ジークはそんな彼女へと――。
「いきなり斬りつけてくるとは、物騒な――っ」
言おうとしたところで、言葉は止まってしまう。
その理由は簡単。
「ミハエルがいくら冒険者を差し向けようと、わたしはここで捕まるわけにはいかないのです……この手で人々を助けるため、絶対に!」
そんな彼女の声が。
そんな彼女の表情が。
「お前は……誰だ?」
五百前のジークの好敵手。
真の勇者であるミア・シルヴァリアと、瓜二つだったのだから。
さて……これは毎作、言ってることなのですが
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冗談抜きで、執筆するモチベーションに関わって来るレベルです。
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