勇者見習いは淫魔に惑わされる4
ユウナは寝る時に、エッチな寝言を言っている。
それはユウナにとっては、かなり重大な事だ。
なぜならば。
(あ、あたし、ブランさんとよく一緒に寝てるし……き、聞かれてないよね!?)
いや、正直ブランならばまだいい。
なんせ彼女、かなりピュアなのだ。
故にその手の寝言を聞いても、なんの事か理解できない可能性が高い。
問題はジークだ。
ユウナはたまにジークと一緒に寝る。
というか、朝気がつくとユウナ――知らない間にジークの布団に潜ってる癖がある。
(ジークくんは性格から考えて、あたしがそういう寝言を言っても、きっと聞いてなかった事にしてくれてる)
ジークは優しいのだ。
常にユウナが傷つかない様に動いてくれている。
だがしかし。
(気を使ってくれるのは嬉しいけど、もしそうなら恥ずかしすぎるよ!)
はたしてユウナ、ジークにどんな寝言を言ってしまっているのか。
その答えを知っているのは――。
「あは♪ 見てくださいよユウナ! 狐ですよ、狐!」
悪魔羽をパタパタ。悪魔尻尾をふりふり。
ご機嫌な様子のアイリスさんだ。
そんなアイリスは、ひょいっと狐を抱き上げる。
そして彼女は、ユウナの方へと振り返りながら、言葉を続けてくる。
「ほら、どうですか?」
「アイリスさん、さっきの話なんだけど……」
「え、ユウナってばどうして、そんなに深刻そうな顔をしてるんですか!? この狐、かわいくないですか!?」
「狐は可愛いよ。尻尾がもふもふしてて、見てるだけで癒されるし」
「マジですか! じゃあ今がチャンスじゃないですか!」
ずずいっと、狐を差し出してくるアイリス。
彼女はぺかーっとした笑顔で、ユウナへと言ってくる。
「この狐、私に懐いてるせいか無抵抗で、触り放題ですよ! 断言しましょう――今なら尻尾を触っても、きっと大丈夫です!」
「え、えっと――っ」
「な~にを遠慮してるんですか! 真の勇者たるもの、やるときは今なんですよ!」
「え、ぁ……そ、そうかな」
もふもふ。
もふもふもふ。
「ふぁ……」
狐の尻尾、ものすごく気持ちいい。
ぬいぐるみでは、決して味わえない何かを感じる。
それになにより。
(尻尾を優しくきゅってするとこの狐、小さく喉を鳴らしてくれる)
それがものすごく可愛い。
思わず、狐の身体を抱きしめたくなる魔力。
と、ここでユウナ、大変な事に気がついてしまう。
「って、狐でごまかされたりはしないよ!」
「あっ! 狐がユウナの声にビックリして、逃げていっちゃったじゃないですか!」
と、ぷくっと頬を膨らませるアイリス。
ユウナは咄嗟に、そんな彼女へと言う。
「ご、ごめんなさいっ」
「おや、あやまりましたね!?」
「あやまった、けど」
「悪いと認めたなら、ちゃんとした誠意を見せてもらおうじゃないですか!」
「あたしに出来ることなら、なんでもするけど」
「なんでも!? 言質を取りましたからね!」
ずびしっ!
と、指をさしてくるアイリス。
そんな彼女の表情は、なにやらニタニタ邪悪な様子。
正直、猛烈に嫌な予感がする。
などなど、ユウナがそんな事を考えていると。
「では、ユウナには身体を差し出してもらいましょうか!」
と、言ってくるアイリス。
彼女はとっても悪い領主の様な表情で、ユウナへと言葉を続けてくる。
「これからユウナは、真の勇者としてではなく……そう、私のエッ!な奴隷として生きていくのです!」
「…………」
「あは♪ 怯えて声も出ませんか?」
「はぁ……」
「え、ちょっと! どうしてため息を吐くんですか!?」
そんなの決まっている。
心配して損したからだ。
(アイリスさんは優しいから、そういう事は絶対にしてこない。そこは信頼してるもん)
「ほうほう。私の精神操作魔法によると、ユウナはそういう事を考えてるわけですね」
と、聞こえてくるアイリスの声。
同時。
むぎゅっ。
と、感じる圧迫感。
気がつくとユウナ、アイリスに抱きしめられていた。
「ちょっ――急にどうしたの!? というか、勝手に心を読まないでよ!」
「もうっ! ユウナは本当に可愛いですね!」
きゅーっとさらに抱き着いて来るアイリス。
悔しい。
(アイリスさんにきゅってされるの……嫌だって思えないあたしが居る……)
だってアイリス。
柔らかくて、温かくて、優しい匂いがするのだから。
などなど。
ユウナはそんな事を考えた後、色々な意味で。
「はぁ……」
と、盛大なため息を吐くのだった。




