勇者見習いは淫魔に惑わされる3
時はあれから少し後。
場所はルコッテの街――近くの森の中。
「ジークくんとブランさんに、何も言わないで出てきてよかったの?」
「魔王様とブランはまだ寝てますからね~」
と、言ってくるのは、ユウナの前を歩くアイリスだ。
彼女は悪魔尻尾をふりふり、ユウナへと言葉を続けてくる。
「それに伝説のキノコは、サプライズにしたいじゃないですか! 二人に黙って見つけて、朝食に出して驚かせるんですよ!」
「ところでアイリスさん。あたし、今更だけど聞きたいことがあるんだけど」
「なんですかなんですか? ユウナにだったら、どんな事でもお話しますよ!」
「えっと、それじゃあ――」
「好きな女性のタイプはユウナみたいな子! 好きなおっぱいの大きさはユウナくらい……あとあと、好きなシチュエーションは触手ですね!」
ふりふり。
と、悪魔尻尾を揺らすアイリス。
アイリスは振り返って来ると、ニコリとスマイル。
彼女はそのまま両手を広げ、ユウナへと――。
「あは♪ 大好きですよ、ユ~ウナ♪」
と、ハグしようとしてくるアイリス。
だがしかし、ユウナはそれを華麗に回避する。
「な……っ。か、躱された……だと!?」
と、驚愕といった様子のアイリス。
だがしかし、ユウナにとっては当然だ。
なぜならば。
(なんだか、アイリスさんの行動に慣れてきた……というか、アイリスさんがどんな行動をするか、わかるようになってきたな)
とまぁ、それはともかく。
ユウナは気がつく――未だアイリスから、聞きたい事を聞けていない事を。
その内容とは。
「それでアイリスさん。さっきの話の続きなんだけど、伝説のキノコってなんなの?」
「おぉ! その質問を待っていたんですよ!」
ピコンッと、悪魔尻尾を立てるアイリス。
彼女は同時、親指を立てながらユウナへと言ってくる。
「実はですね、ルコッテの街でとある噂を聞いてしまったんですよ!」
「噂……伝説のキノコの?」
「その通りです! なんでも一年に一回、この時期のみに出現する魔物――キノコタートルというのが存在するみたいんなんですよ! 伝説のキノコは、その魔物の甲羅に生えるらしいです!」
「『みたいなんですよ』って。五百年前には、その魔物は居なかったの?」
「ん~、どうでしょうね」
と、いまいち煮え切らない様子のアイリス。
ユウナはその態度が気になったので、彼女へとさらに問う。
「やっぱり五百年前の魔物と、今の魔物の生態って違ってるのかな?」
「そうですね、もちろんそれもあります。ですけど、私が判断しかねているのは別の理由です」
「よかったら、聞いてみたいな」
「もちろんですよ! ユウナになら、どんな事でも教えますよ! 例えば……私のスリーサイズとか、ユウナの好きな所と――」
「キノコの事だよ! あたしが知りたいのはキノコの事!」
「え、キノコって……も~う♪ ユウナってば、キノコの事が知りたいんですか? ひょっとしてそのキノコって、魔王様の――」
「早く話を進めて!」
「あは♪ 可愛いですね、ユウナは!」
と、ハグッと抱き着いて来るアイリス。
けれど、彼女はすぐにユウナから離れていく。
そして、彼女は悪魔尻尾をふりふり、ユウナへと言ってくる。
「で、何の話でしたっけ?」
「キノコタートルの話だよ……もう、変な事ばっかり言うから、もとの話を忘れるんだよ」
「あ、そうでしたそうでした!」
「それで『別の理由』って何なのかな?」
「ではでは、このアイリス――説明させて頂きます!」
と、ビシッと敬礼してくるアイリス。
そんな彼女の言葉をまとめると、こんな感じだ。
・その1
昔はキノコタートルという名前ではなかった説。
・その2
そもそも魔物ではない説。
「魔物ではないって、どういう事?」
「簡単ですよ。でっかい亀です」
と、言ってくるアイリス。
彼女はピコンと人差し指を立てた後、ユウナへと言ってくる。
「長年生きて、大きくなった亀が居るとするじゃないですか?」
「あ、ひょっとして――その亀が魔物と勘違いされてるってこと?」
「おぉ! さすがユウナ! てっきり、亀甲縛りの事を言ってくると思ってましたよ!」
「そ、そんなこと言わないよ!」
「またまた~! ユウナってば、よくエッチな寝言を言ってるじゃないですか!」
「え――ほ、本当に!?」
正直、自信がない。
だってユウナ、時々ジークの夢を見ることがある。
故にそういう寝言が出る可能性は、かなりあるのだ。
「さぁ~て、じゃあキノコ捜索に戻りますか」
と、さっさと歩いて行ってしまうアイリス。
ユウナはそんな彼女へと言うのだった。
「ちょ、ちょっと待って! さっきの寝言の話、本当なの!?」




