勇者見習いは淫魔に惑わされる2
時は早朝――アイリス襲撃から数分後。
場所は変わらず、宿屋――ユウナの部屋。
現在、ユウナはすっかりパジャマから着替え終り。
「それで、アイリスさんはどうして、朝からあたしの部屋に来たの?」
「そんなの決まってるじゃないですか!」
と、ベッドにうつ伏せになって足をぱたぱたアイリス。
彼女はにこにこ楽しそうな様子で笑いながら、ユウナへと言ってくる。
「ユウナの寝顔を独り占めしに来たんですよ!」
「えっと……本当は何しに来たの?」
「あは♪ バレたら仕方ないですねぇ~!」
と、小狡そうな様子の表情をしてくるアイリス。
彼女はそのままニヤニヤしながら、ユウナへと言ってくる。
「勇者であるユウナを、酷い目に合わせに来たんですよ!」
「あたしを、酷い目?」
「そうですとも! 精神操作魔法で貞操観念をおかしくして、魔物達の穴倉に――」
「もう一回だけ聞くけど、本当は何しに来たの?」
「もう♪ ユウナってばノリが悪いですね! でもでも、私が本当に襲いに来てたら、どうするんですか? ユウナ……終わってましたよ♪」
「アイリスさんはそんな事しないでしょ?」
「まぁ、ユウナは大切なともだ――…仲間ですしね! でも……ユウナ以外にはしますよ! ユウナ以外の人間は、ゴミ程の価値もないと思っていますので♪」
と、足をぱたぱたアイリス。
その表情から、悪意といったものは感じられない。
きっと、ただ本心を言っているに違いない。
けれど、ユウナ思う。
できることならば、アイリスには他の人間にも優しくしてほしい。
(アイリスさん、根っこのところだと優しさを感じるし、きっと出来ると思うんだけど)
そもそもどうして、アイリスは人間が嫌いなのか。
やはり五百年前、魔王ジークと人間達が対立していた事が原因なのか。
などなど。
ユウナがそんな事を考えていた。
まさにその時。
ハグッ。
と、いつの間にやら近づいてきていたアイリス。
彼女はユウナに抱き着いてきながら、ユウナへと言ってくる。
「な~に難しい顔してるんですか?」
「き、急に抱き着かないでよ!?」
「あは♪ ひょっとして、照れちゃいました?」
「お、驚いただけだよ!」
「も~う! ユウナってば、本当に可愛いですね! ユウナが他人で、野生のユウナだったら――洗脳しまくってペットにしてるくらいですよ!」
「それ、褒められてるの!?」
「最上級の褒め言葉ですよ!」
なんだか複雑だ。
というか、野生のユウナってなんだ。
アイリスの言葉は、時々意味不明だ。
けれど、不思議と悪い気分はしない。
(むしろ最近、なんだか安心感を覚えてるあたしが居るんだよね)
ひょっとしたら、アイリスに毒されてきているのかもしれない。
もっとも、それすらも悪い気分はしないのだが。
それからしばらく。
ユウナがアイリスのなすがままになっていると。
「ふぅ……たっぷりユウナ成分を補充しましたよ!」
と、言ってくるアイリス。
彼女はユウナから離れると、ほくほくした様子でユウナへと言葉を続けてくる。
「それじゃあ、そろそろ本題に入りましょうか! 結構重大な話題ですので、あんまりユウナに構ってばかりは居られないんですよ――残念ながら!」
「あたし、最初から『本題は?』って聞いてた気がするんだけど」
「あは♪ またまた~、ユウナは恥ずかしがっちゃって!」
「…………」
「そうやって、頬をぷくってさせるところも、私は大好きですよ!」
と、再び抱き着いて来るアイリス。
彼女はそのままユウナへと、楽しそうに言ってくるのだった。
「さてさて――今日は伝説のキノコ探しに行きましょう!」




