勇者見習いは淫魔に惑わされる
時は朝。
場所はルコッテ――宿屋の一室。
現在、ユウナはベッドの中でぬくぬくしている最中。
(あたし、朝はこうしてるのがやっぱり好きかな)
うとうと。
うとうとうと。
意識を睡魔に手放しそうになる感覚。
これがたまらないのだ。
などなど。
ユウナがそんな事を考え、瞳を閉じた。
まさにその時。
「ジ~~」
と、割と至近距離で感じる視線。
けれど、ユウナにとっては慣れた物だ。
(昨日もそうだったけど――朝になると、ブランさんがベッドに潜りこんで来るんだよね)
無論、はじめは驚いた。
さらに、ブランは体温が低いのか――少し冷っとするのだ
だがしかし。
ユウナが布団の中で、しばらくブランを抱っこしていると。
とある変化が起きるのだ。
ブランが温かくなる。
きっと、ユウナの体温が移るせいに違いない。
そうなったブランは――。
(湯たんぽみたいであったくて、柔らかくてとっても気持ちよくて……それに、優しいいい匂いもするし)
控えめに言って癖になる。
と、ユウナはそんな事を考えた後。
パサッ。
と、布団に少し隙間を作ってあげる。
ブランが入りやすくするためだ。
そして、彼女もユウナの意図がわかったに違いない。
もぞもぞ。
もぞもぞもぞ。
ユウナの布団に入ってくるブラン。
途端、温かくなる布団。
(……あれ?)
ユウナはここで気がついてしまう。
何かがおかしい。
(ブランさん、最初は冷たいはずなんだけど……それに、なんだかブランさんより背丈も大きい気が……っ)
まさか、布団に入ってきたのはジークなのではないか。
可能性は、ある。
(ど、どうしよう! う、嬉しいけど……嬉しいけど、朝からいきなりはその……は、恥ずかしいよっ)
けれど、このチャンスを逃すわけにはいかない。
ここ最近、ユウナは思うのだ。
(ジークくんの周り、どんどんかわいい女の子が増えてる。無邪気な無意識攻めを得意とするブランさん。ひたすらに露骨なアプローチをかけまくるアイリスさん)
二人とも、ユウナにはない魅力を持っている。
そして、二人のアプローチはユウナには真似できない。
どうしてもユウナは待ってしまうのだ。
いわゆる『自然の流れ』という奴を。
(そういうムードを大切にしたいというか、色々考えてたけど……でもっ)
やる時は。
やらなければならない。
そして、それは今だ。
さぁいけユウナ。
勇者として、勇気を見せる時は今。
目を開け。
ジークを抱きしめるのだ。
「っ!」
と、ユウナは全力で目を開く。
それこそ、カッ!と、効果音でもなりそうなほ――。
「あ、起きました?」
と、聞こえてくるアイリスの声。
何故かユウナと同じ布団の中で、至近距離にいるアイリス。
彼女はニコニコ笑顔でユウナへと言ってくる。
「いやぁ、今日のユウナは積極的ですね! なんだか私、少し興奮しちゃいましたよ――だってユウナ、なんだか乙女みたいな顔して眠っているんですもん!」
「…………」
「え~と……えっと、これは……むむっ! 私の魔法によると、ユウナはエッ!な事を考えていましたね!?」
「…………」
「あは♪ もう、勇者のくせにユウナはスケベで――」
「もうっ! アイリスさんは少し静かにしてて!」
ボフッ!
と、ユウナはアイリスの顔に枕を押し付ける。
その後。
ユウナは一人考えるのだった。
(なんだか、今日は忙しくなりそうな気がするよ)




