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魔王は誘われてみる8

 ジークとブランは、あれからもステーキ串を食べ続けた。

 そうして時は数十分。


「ようやくステーキ串を、全部食べ終えたな」


 最後の最後まで、しっかりと美味しく食べられた。

 そしてそれは――。


「くるるっ」


 と、喉を鳴らしている竜化状態のブラン。

彼女も同じに違いない。

 

 などなど。

 ジークがそんな事を考えていると。


「くぁ……」


 と、あくびをするブラン。

 きっとお腹がある程度いっぱいになり、眠くなったに違ない。


 そういえば、ジークも少し眠くなってきた。

 と、彼が考えていると。


「くるるるるっ」


 と、ジークの方へと頭を近づけてくるブラン。

 ジークはそんな彼女へと言う。


「ん、どうしたんだ?」


「…………」


「ブラン?」


 と、ジークが首をかしげている間にも。

 ブランは――。


 すりすり。

 すりすりすり。


 と、ジークへと顔をこすこすしてくる。

 きっとブラン、甘えているに違いない。


(人間状態のブランも可愛いが、白竜となったブランもかわいいな――こういう動作をされると)


 などなど。

 ジークがそんな事を考えている間にも。


「くるるっ」


 と、喉を鳴らしてくるブラン。

 彼女はゴロンっと、その場に寝転がる。

 そして、ジークにお腹を見せてくる――いわゆる服従のポーズだ。


「…………」


 突然だが。

 ジークはペットを可愛がるのが好きだ。

 そして、得意でもある。


(魔王たるもの、ペットもしっかりと満足させなければならない――そう考えていたら、ペットを可愛がって満足させるのが得意になってたんだよな)


 無論、ブランはペットではなく仲間。

 しかし今この時。


 ブランがして欲しい行為。

 それはきっと、かつてジークが飼っていたペットと同じに違いない。

 すなわち『ジークに可愛がってほしい』。


(であるなら、俺は魔王として配下であり仲間であるブランを、満足させる必要がある)


 魔王のプライドにかけて。

 ジークはそんな事を考えた後。


「よーしよし!」


 言って、ジークは全力でブランの顎をなでなでする。

 すると、彼女は彼へと言ってくる。


「くるる……っ♪」


「ブラン、今日は楽しかったか?」


「ぐるっ」


「そうか。俺も今日は楽しかったよ」


「くるるるる……」


 と、瞳を閉じるブラン。

 彼女は身体の力を抜き、ぐてーとしている。

 要するに現在のブラン、ジークの成すがまま状態だ。


 ジークはそんなブランを、なおも可愛がり続ける。

 そして、そのまま彼は考える。


(俺としては全力でやったつもりだが、ブランに希望通りの『思い出』を作れてやれたかな?)


 もっとも。

 と、ジークはブランを見る。


「くるるる♪」


 と、幸せそうな声を出してくれるブラン。

 この様子を見ている限り、きっと彼女も満足してくれたに違いない。

 ここでジーク、ふと思う。


(そういえば、今日の事――俺にとってはどうだ?)


 先ほども言った通り。

ジークにとっても、今日は楽しい一日だった。


(特に考えていなかったが――ブランに思い出を作っていたら、俺にとっての思い出にもなっていたな)


 ブランとこうして、二人きりで遊び歩いて。

 お腹いっぱい美味しいものを食べて。


 思い出にならないわけがない。

 ジークはそんな事を考えた後、ブランへと言う。


「ブラン、今日はありがとな」


「……?」


「気にするな、独り言みたいなもんだ」


「くるるる♪」


 もだもだ。

 もだもだもだ。


 と、身体をくねらせてくるブラン。

 ジークはそんな彼女をなでなでしながら、彼女へと言うのだった。


「これからもよろしくな、ブラン」


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