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魔王は誘われてみる3

 酒場を出てから数分後。

 現在、ジークとブランはルコッテの街――その商店街を歩いている。


 なお、ユウナとアイリスが一緒に来たいと、何度も言ってきたが。

 ジークがなんとか説得した。


(ユウナは『ブランの理由』を話したら、比較的すぐに引き下がってくれたが)


 問題はアイリスだ。

 最後の最後まで『そんなの知りませんよ!』と食い下がってきた。

 最終的に、ユウナがアイリスを抑えている間に出てきたレベルだ。


(アイリスは俺に忠実なのはいいが、忠誠心がやや溢れておかしな方に向かっているのが、やや傷なんだよな)


 さてさて。

 それはそうと問題は今だ。


 ジークはそんな事を考えた後、周囲を見回す。

 すると見えてくるのは、滅茶苦茶賑わっている商店街。

 もはやお祭りレベルだ。


(エミールが倒された喜びもあるだろうけど、懐が潤って余裕が出来たんだろうな)


 あれはエミールを倒してすぐのこと。

 エミール派から、ユウナ派に鞍替えした冒険者達。

 彼等はユウナの頼みで、エミールが貯め込んだ食料や金品。

 それら全てを、ルコッテの住民に還元――というより、返却したのだ。


 などなど。

 ジークがそんな事を考えていると。


「まおう様……楽しい?」


 ひょこりと、首をかしげてくるブラン。

 ジークはそんな彼女へと言う。


「楽しいも何も、まだ何もしていないよな?」


「ブランと歩いてるの……思い出にならない?」


「それは――」


 何とも返答に困る。

 ブランは大切な仲間だ。

 そして彼女はそもそも、ジークと二人の思い出が欲しいと言ってきたのだ。


(ただ二人で歩いて居るだけ。そんなのを思い出にされると、俺的にかなり困るんだよな)


 どうせならば、周囲に自慢できるレベルの思い出を作って欲しい。

 ブランのためではなく、ジークのプライドの為にだ。


 魔王ともあろうものが、部下に『一緒に歩いた』程度の思い出しか作れないとか。

 正直、笑いものにされること間違いない。


 よし。


 と、ジークは即座にプランを練り上げる。

 そして、ブランへと言う。


「ブラン。今日は俺が、お前に美味しいものを沢山食べさせてやる」


「っ……美味しいもの」


「何が食べたい? この街にある物なら、なんでも食べさせてやるぞ?」


「ん……お肉」


「もっと特別な奴じゃなくていいのか? ほら、あそこにある『エミールないなったパフェ』とか?」


「お肉……まおう様と分けっこしたり、食べさせっこしたい」


 きらきら、と。

 瞳を輝かせてくるブラン。


(遠慮している……ってわけじゃなさそうだな)


 ジークの想定より、大分スケールが小さい。

 けれど、これがブランの望みならば叶えてやるしかない。

 ジークは魔王なのだから。


「よし、わかった。俺に任せろ――そしてついて来い!」


「ブラン、まおう様についていく……っ!」


 と、聞こえてくるブランの声。

 ジークはそれを背中で聞きながら、ステーキ串の屋台へと向かう。

 そして、彼はそこの店主へと言う。


「『エミールおわた記念串』を二本売ってくれ」


「っ……あ、あんたまさか――ま、魔王!?」


「ん、あぁ。もう顔が知れているのか。でも安心していい、危害を加える気は――」


「我らが英雄……っ! 二本なんてケチな事言わねぇでください! 代金もいらねぇから、ステーキ串を二十本プレゼントするよ! この街を解放してくれた礼だ!」


「いや、そんなには食えな――」


「遠慮するな、英雄!」


 と、言ってくる店員。

 彼はステーキ串を、どんどん保存袋に突っ込んでいく。

 そして数十秒後。


「はいよ、お待ち!」


 と、パンパンに膨れた袋を渡してくる店主。

 どうみても、二十本以上入っている。


 さすがに悪すぎる。

 どうやって辞退すべき――。


「まおう様……お肉、たくさん!」


 と、ジークの思考を断ち切るように聞こえてくるのは、ブランの声だ。

 見れば彼女がいつもの無表情で、ぴょこぴょこ跳ねている。

 きっと嬉しいに違いない。


(やれやれ、仕方ないな)


 ジークはそんな事を考えた後、店主の心臓付近に手を翳す。

 そして――。


「っ……な、なんだ!? 身体が、熱い?」


 と、慌てた様子の店主。

 ジークはそんな彼へと言う。


「代金代わりだ。お前の魂に、俺の魔力の残滓を刻み込んだ――お前の家系は今後数百代に渡って、魔物に狙われることはなくなる」


「っ!」


「やけに驚いているみたいだけど、迷惑だったか?」


「と、とんでもない! 感謝してもしたりねぇよ! 肉、もっと持っていくかい!?」


「いや、肉は――」


「ブラン、お肉もっと欲しい……っ!」


 と、ジークの言葉を断ち切るように、聞こえてくるブランの声。

 この後、ステーキ串がさらに増えたのは言うまでもない。


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