魔王は誘われてみる2
「まおう様。ブラン、まおう様と二人でお出かけしたい」
と、言ってくるブラン。
ジークはそんな彼女へと言う。
「どうしたんだ? どこか行きたいところでもあるのか?」
「行きたいところはない。ただ、お出かけしたいだけ」
「それなら、後でみんなで行けば――」
「ん……ブラン、まおう様と二人じゃなきゃや」
きゅ~っと、ジークの服を握ってくるブラン。
しかも彼女、心なしか唇を駄々っ子みたいにとがらしている。
ブランにしてはとても珍しい。
いったい彼女はどうしてしまったのか。
などなど。
ジークがそんな事を考えていると。
「あ、ちょっと! 魔王様と二人で抜けがけしようとしていますね!?」
と、聞こえてくるアイリスの声。
彼女はユウナとのやり取りが終ったに違いない。
アイリスはそのまま、ブランへと言う。
「いくら昔馴染みのブランでも、魔王様と二人きりデート権を、渡したりなんかしないんですからね!」
「ん……デート?」
「そんな首をかしげても無駄なんですよ! 私に隠れて、魔王様を孕ませる気なのは、もう完全無欠にわかっていますとも!」
「アイリス……うるさい。昔と変わらない……声、少し小さくして」
「ブランの声が小さすぎるんですよ!」
「そんなことない……竜のブランは、声が大きい」
「屁理屈ですよ、それは!」
わーわー。
きゃーきゃー。
と、騒ぎ出すブランとアイリス。
いったいどうして、アイリスと絡むとみんな騒がしくなるのか。
いずれにしろ、今回ばかりはこのまま続けさせるわけにはいかない。
ブランからはまだ、出かけたい理由を聞いていないのだから。
ジークはそんな事を考えた後、アイリスとブランの会話に割って入る。
「ストップ、ストップだ! アイリスはとりあえず、何か食べ物を追加で注文しておいてくれ。ブランはさっきの話の続きを頼む」
「魔王様の命令――このアイリスが、しっかりと果たしますとも!」
「ん……ブラン、続きを話す」
と、なんだかんだで聞き分けのいい二人。
肝心な時にこうだから、ジークは二人を昔から信用しているのだ。
などなど。
ジークがそんな事を考えている間にも。
ブランはジークへと言ってくる。
「さっきも言ったけど……ブラン、まおう様と二人きりじゃないと、おでかけしたくない」
「それはどうしてだ?」
「ブラン。ユウナとアイリスと比べると、まおう様と居る時間が短い」
「そうか? 五百年前も含めたら、かなりの時間を一緒に居ると思うが――」
「ん……それは含めない」
ふりふり。
と、首を横に振ってくるブラン。
その条件ならば、確かにそうだ。
なんせ、ブランが仲間になったのは、白竜傭兵盗賊団の一件以降。
一方のユウナはアイリスといえば――。
(かたや殆ど幼馴染みたいな存在。かたや覚醒直後からの付き合いだからな)
くいくい。
くいくいくい。
と、再び引っ張られるジークの服。
見れば、ブランはジトっといつもの視線をジークに向けて来ながら、言ってくる。
「だから、まおう様……ブランもまおう様と思い出作りたい。二人だけブランより思い出あって……不公平」
「不公平、か?」
「ん……絶対に不公平。まおう様を連れ去って、城に閉じ込める――ブランはそんな悪い竜になりそう……それくらい不公平」
「はは……それは大変だ」
そうなったら、助けに来てくれる勇者役はユウナとアイリスになるに違いない。
なんだか、心配な組み合わせだ。
ジークはそんな事を考えながら、ブランの頭を撫でる。
そして、彼はそのまま彼女へと言うのだった。
「ブランが悪い竜にならない様に、付き合ってやらないとな」




