魔王は誘われてみる
時はジークがリッチを倒した後。
場所はルコッテの街の酒場――その一角。
現在、ジーク達は仲良くテーブルを囲んでいた。
「って言う事があったんですよ! 最悪じゃないですか!?」
と、言ってくるのはアイリスだ。
彼女はぷんぷんした様子で、ジークへと言葉を続けてくる。
「しかも私、結局ナメクジ冒険者を見れなかったんですよ!? 塩をかけられ続けたら、どんな反応するか見たかったというのに……ぐすんっ」
「そんなにみたいか、ナメクジ冒険者」
「見たいですとも! 無様でいいじゃないですか! 最高にそそりますよ! それなのに……せっかく頑張ったのに、私のご褒美が、ナメクジが……っ」
アイリス、ガチ泣きだ。
さすがのジークも、なんだか可哀想になってきた。
故に彼は、彼女へと言う。
「まぁ、ナメクジ冒険者の件は残念だったけど。今回の件は、本当に助かったよ」
「魔王、様?」
「お前は俺の頼みをしっかりと果たしてくれた――おかげさまで、この街にエミール派冒険者はもういないんだからな」
「ま、まさか私……魔王様に、褒められて、いる!?」
「あぁ。俺のために頑張ってくれて、ありがとう――これでこの街にミアを穢す輩も、その残党も居なくなった」
「あは♪ いやですねぇ~! 魔王様のためなら、頑張るに決まってるじゃないですか! ミアはどうでもいいですけど……ミアはどうでもいいですけど♪」
と、一転ニコニコし始めるアイリス。
彼女はそのままジークへと言葉を続けてくる。
「思ってみれば、ナメクジ冒険者見れなかったくらいで、くよくよするなんて馬鹿らしいですよね!?」
「あ、あぁ……?」
「だって、私にとっての本当のご褒美は――そう、魔王様に褒められる事なのですから!」
「…………」
「すなわち! 私にそれ以外のご褒美などいらない! 私には嫁がいればいい! 嫁こそすべて――嫁が居れば頑張れる!」
言って、ジークの手を両手で覆ってくるアイリス。
彼女は瞳をキラキラ、彼へと言葉を続けてくる。
「だから魔王様! 結婚しましょうよ!」
「…………」
「そうですねぇ! 子供は八人くらい欲しいですね!」
「…………」
「あ、安心してください! しっかり、魔王様の事を孕ませ――」
「もう、アイリスさん!」
と、アイリスの言葉を断ち切る様に響くのは、ユウナの声だ。
彼女はバンッとテーブルを叩くと、アイリスへと言葉を続ける。
「食べ物を食べてる時に――というかこういう場所で、そういう事を話さないでよ!」
「おやおやぁ~? 食べ物を食べていない時なら、そういう事を話してもいいんですかね?」
「そ、それは――っ」
「あは♪ ユウナってば、なかなかムッツリですね!」
「そんなことないよ! あ、あたしはただ――っ」
「顔が真っ赤じゃないですか! でもでも、私はそんなユウナも好きですよ! ユウナなら、人間ですけど特別に私の妾にしてあげても――」
「だから、そういう事を言わないで!」
わーわー。
きゃーきゃー。
と、騒ぎ始めるアイリスとユウナ。
今日も今日とて、二人は本当に仲がいい。
皮肉とかではなく本当に。
(アイリスが人間と話していて、あんなに楽しそうな笑顔をしているのなんて、ユウナ以外で見たこともないからな――もちろん、五百年前も含めて)
きっと、性格的に二人はあっているに違いない。
要するに、凸と凹がうまい具合にハマっている感じだ。
などなど、ジークがそんな事を考えていると。
くいくい。
くいくいくい。
と、引っ張られるジークの服。
見れば、ジークの傍にはブランが立っていた。
彼女はジトっとした瞳で、ジークへと言ってくるのだった。
「まおう様。ブラン、まおう様と二人でお出かけしたい」




