淫魔の?助け7
「いやぁ、それにしても……とってもかわいかったですね!」
と、アイリスは数十分前の事を思い出す。
それは元冒険者の猫との戯れだ。
彼は冒険者としての全てを、文字通り失ったに違いない。
完全なる猫っぷりを見せてくれた。
(私から逃げるという目的もなくなったので、可愛がったら普通に懐いてくれましたしね!)
残念なのは、元冒険者猫との別れだ。
簡潔に言うと。
寝取られた。
あれは元冒険者猫を、一通り可愛がっていた時。
突如、野良猫が現れたのだ。
(野良猫に付いて行っちゃったんですよね、元冒険者猫。やっぱり、魔物より同じ猫と遊んでいた方が、楽しい感じなんですかね?)
もう少し可愛がっていたかった。
だが、いつまでも傷心を引きずっているアイリスではない。
なぜならば。
「猫を可愛がりたくなったら、またやればいいですしね!」
クズ冒険者は大量に居るのだから。
それにどうせやるならば、男の冒険者より女の方がいい。
(やっぱり猫にしたとはいえ、『元がクズな男冒険者』というのを意識してしまうと……なんというかこう)
時々、どうしようもない嫌悪感が湧き出すときがあった。
と、アイリスはここで、とある事を思い出す。
「あ、冒険者ナメクジを見にいくの忘れていました!」
きっと今頃、塩をかけられ続けているに違いない。
これは早急に見に行かなければ!
などなど。
アイリスはそんな事を考えた後、件の家へと向かうのだった。
とまぁ、時は数分後。
場所は件の家――その前。
「なーんですか、これ」
アイリスの前に広がる光景。
それは十数人の人々……そして。
「爺さん、本当にここにあの人が来るのか?」
「あたし、まだお礼をしてないんです!」
「戻って来たら、みんなでお礼をしましょう!」
「えぇ、そうね! あの人は私達を助けてくれた、恩人ですもの!」
と、聞こえてくるそんな声。
どうしようもなく嫌な予感がする。
というか。
なんだかアイリス、そこに居る人々の顔に見覚えがあるのだ。
そうだ、間違いない。
(やだ……あれ、私が助けた人達じゃないですか)
魔王ジークのために作られたハイパーアイリス脳。
それはここに来て、超高速回転を始める。
冒険者ナメクジを見るのを取るか。
ここから逃亡するのを取るのか。
それぞれのリスクとリターン。
メリットとデメリット。
(私が導き出した答え、唯一絶対の真実は……これ!)
と、アイリスはその場で、三百六十度ともう半回転。
即座に逃走しようとした――その瞬間。
「お、おい! あの後ろ姿!」
「間違いないわ! あたしを助けてくれた人と、同じ後姿よ!」
「あの人だ! 私達の恩人!」
と、背後から聞こえてくる人々の声。
やばい。
そう思った瞬間。
アイリスはダッシュしていた。
「また逃げてしまうぞ!」
「絶対にお礼をするんだ!」
と、追ってくる人々の声。
アイリスはそれを背中で聞きながら、あらためて思うのだった。
(あ~もう! 人間は私の邪魔ばっかりして! だから嫌いなんですよ!)




