淫魔の?助け5
時はあれから数十分後。
場所はルコッテの街――その外れ。
「ついに追い詰めましたよ!」
と、アイリスは目の前の倉庫を見る。
ここには件の猫が逃げ込んでいったのだ。
(見た限り、私の目の前――猫が入っていった場所以外に、出入り口はありません!)
けれど、油断はできない。
まだ、窓などから逃げる可能性は否定できない。
(でも、きっと大丈夫ですよね! こういう倉庫の窓って、高い所についているイメージがありますし……いくら猫とはいえ、そうそう届かないはずです!)
と、アイリスはそんな事を考える。
そしてその後、胸の前でぐっと拳を握る。
その理由は簡単。
(長かった……ここまで来るのにものすごい労力でしたっ)
猫が逃げる先々、何故かエミール派冒険者残党が居たのだ。
しかも、決まってなんらかの犯罪をしている。
そして、アイリスはそれに巻き込まれる。
そんな工程を、ここに至るまでに何度繰り返した事か。
アイリスが覚えている限り、十は軽く超えている。
(まぁ、そもそもの『魔王様の頼み』も果たせましたし、ある意味では一石二鳥でしたけどね!)
それに、冒険者をいたぶるのは楽しかった。
だがしかし。
(冒険者に襲われてた人間が、私に感謝してくるのは少し面倒でしたね)
お祈りされたり。
手を両手で掴まれ、感謝されたり。
正直、何回か本気で精神操作魔法使おうか迷った。
(いやぁ、私って偉いですね♪ 魔王様のために我慢したんですから!)
魔王様ことジーク。
彼が帰って来たら、いっぱい褒めてもらおう。
などなど。
アイリスはそんな事を考えた後。
ゆっくりと倉庫の中へと入っていくのだった。
「で、またこの展開ですか」
場所は倉庫内。
現在、アイリスの視線の先にあるのは。
「なっ!? てめぇは魔王野郎の仲間のっ」
「ど、どうしてここが――俺達の秘密の集合場所が分かりやがった!?」
「ちくしょう! ブランの野郎から、ようやく逃げ切ったってのに!」
わたわた、わたわた。
と、そんな様子で慌てまくっているエミール派冒険者達だ。
その数はおよそ十五人。
(ブランってば、結構取り逃がしてるじゃないですか! もうっ、いい加減ですね!)
ブランは昔からこうだ。
仕事がどうにも大雑把なのだ。
(特定の人物の討伐を命じた時なんて、敵の要塞ごと消滅させましたからね)
などなど。
アイリスがそんな事を考えていると。
「や、やるしかねぇ!」
「そうた、敵は魔法の使い手とはいえ、所詮は女――それも一人だ!」
「倒せる! 俺達ならやれる! そんで、こいつを玩具にしてやろうぜ!」
「ひゃっは~~~~~っ!」
と、そんな冒険者たち。
彼等は直後――。
仲間同士で戦闘を始めた。
その理由は簡単。
アイリスがすでに、精神操作魔法を使っていたからだ。
(敵が味方に、味方が敵に――いやぁ、認識を誤認させるのって楽しいですね♪)
この魔法は一見すると強烈だ。
しかし、強い者にはまるで効果がない。
故に五百年前は、殆ど使用する機会がなかった。
使ったとしても、城下町の住人に使い――混乱を起こさせるくらいだ。
今回の様に『戦える人間』に使ったのは、本当に初めてのレベル。
(この時代の冒険者が弱くて感謝ですね。でもこれってつまり、『今の冒険者の強さ』って、『昔の戦えない住民』以下ってことですよね?)
ジークががっかりするのも、わかるというものだ。
アイリスは思わず、手を口で覆い隠す。
そして。
「うっ……魔王様、かわいそう」
ジークが帰って来たら、存分に甘やかしてあげよう。
アイリスはそんな事を考えながら、一人呟くのだった。
「嫁の精神安定は、夫である私が守りますとも!」




