淫魔の?助け4
「もう、いい加減諦めてくださいよ!」
「にゃあ、にゃあ! にゃぁん!」
と、必死といった様子でアイリスから逃げる猫。
いったいどうして、ここまで必死に逃げるのか。
アイリスは別に嫌われる様な事は、していない。
というか、そんな事するほど長い時を、この猫と過ごしていない。
(動物に嫌われる体質ってわけでも、ないんですけどね)
ぶっちゃけ。
精神操作魔法を使えば、すぐに猫の動きを止めることは出来る。
けれど、アイリス的にそれだと、とても味気ないのだ。
(やっぱり、捕まえるのなら自分のこの手で! そして、思う存分にモフりますとも!)
などなど。
アイリスがそんな事を考えていると。
「にゃおん!」
ぴょんっとジャンプする猫さん。
なんと、開いていた家の窓から、その家の中へと入っていってしまった。
きっと、家の中ならアイリスから逃げられる。
そう考えたに違いない。
だがしかし。
「その考えが甘いんですよ!」
言って、アイリスはその家の扉へとダッシュ。
そのまま――。
ドガァ!
家の扉を蹴り飛ばし、破壊。
アイリスはそこから、家の中へと侵入した。
その瞬間。
「な、なんだてめぇは!?」
聞こえてくる男の声。
見れば短剣を持った冒険者が、アイリスの方を睨んできていた。
しかも。
(やれやれ、またこのパターンですか……本当に、この時代の冒険者はカスですね)
冒険者のすぐそば。
そこに居たのは老人だ。
ただし、身体を椅子に縛り付けられ、口に猿轡を噛まされている。
(エミールがやられたから、住民の家で強盗――金目の物を奪って、とんずらってところですかね?)
正直、アホとしか思えない。
なんせこの街の住民は、そもそもが貧乏に違いないのだから。
(エミールを倒して改めて確認しましたけど、住民からの搾取やばかったですからね)
まぁ、アイリスには関係ないことだ。
今はとりあえず猫を――。
「お、おい! 動くんじゃねぇ!」
と、聞こえてくる冒険者の声。
見れば彼、老人に短剣を突きつけながら、アイリスへと言ってくる。
「なんで強盗がバレたのか知らねぇが、邪魔はさせねぇ!」
「あは♪ なにか勘違いしているみたいですね!」
「なんだと!?」
「別に私は邪魔しに来たわけじゃありません。ただの通りすがりです! そんな脅しをしなくても、出て行きますよ――今すぐにでも!」
「ふ、ふざけんな! そんな事を信じられるか!」
と、さらに老人へ短剣を突きつける冒険者。
そんな彼は、アイリスへと言葉を続けてくる。
「そもそも、出て行かせると思ってんのか?」
「はい?」
「ここでお前の事を殺してや――」
…………。
………………。
……………………。
「ふっ……勝った!」
「…………」
と、地面にうつ伏せになっているのは、先の冒険者だ。
彼はナメクジの様に、超低速で床を這っている。
彼がこうなっている理由は簡単。
「いやぁ、精神操作魔法で冒険者に『自分はナメクジだ』と思いこませましたけど……楽しいですね、これ♪」
ここでアイリス、とある事が気になる。
もしこのナメクジ冒険者に、塩をかけたらどんな反応するのか。
ものすごく気になる……と、考えたその時。
「んぅ、ん~~~~~っ!」
と、聞こえてくる老人のうめき声。
見れば、老人が何か言いたそうにバタバタしている。
非常にうるさい。
やれやれ仕方ない。
と、アイリスは老人を拘束から解放すると。
「あ、ありがとうございます――なんとお礼を言えば」
と、そんな事を言ってくる老人。
彼はアイリスへと言葉を続けてくる。
「儂にできることならば、どんな事でもしますのじゃ」
「え、マジですか!?」
「はい。あなた様は、命の恩人なのですじゃ」
「じゃあじゃあ! このナメクジ人間に、絶えず塩を少量かけ続けてくださいよ!」
「そ、そんなことで――」
「あ、私は今忙しいんで! また後で見に来ますね!」
言って、アイリスは老人を無視。
再び逃走を始めた猫を追い、走り始めるのだった。




