淫魔の?助け
時は日中。
場所はルコッテの街、大通り。
現在、アイリスは絶賛ダッシュしていた。
その理由は簡単。
「ほーら! もっと逃げないと捕まっちゃいますよ! 捕まったら、私の魔法で苗床にしてあげますよ――オーガとかの!」
「ひ、ひぃ!」
と、聞こえてくるのはエミール派冒険者の声。
彼は必死といった様子で、アイリスの前を走っている。
要するに、アイリスはジークに言われた通り、エミール派の残党狩りをしているのだ。
そして、この冒険者はアイリスから逃げているというわけだ。
(最初は残党狩りとか、クソつまらないと思ってましたけど、案外楽しいじゃないですか!)
そんな事を考えながら、アイリスは目の前の冒険者を見る。
ぶっちゃけ、追いつこうと思えばすぐにでも追いつくことが出来る。
アイリスがそれをしない理由は一つ。
「あ、ちょっとこれ貰いますね!」
と、アイリスは屋台から果物を一つかみ。
それを冒険者の背中めがけ――。
「くらえ、当たったら死ぬ魔法――えい♪」
投げつける。
するとそれは、まっすぐに飛んでいき、冒険者の背中へと直撃。
直後。
「は、はひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」
と、すっ転ぶ冒険者。
アイリスはゆっくりと彼へと近づいていく。
そして、彼を見下ろしながら言う。
「あは♪ 嫌ですねぇ、ただの冗談に決まってるじゃないですか!」
「…………」
「そんなお漏らしするほど、びっくりしちゃったんですか?」
「こ、このクソアマ――」
「逃げるのは終わりですか? それじゃあ、そろそろ苗床に~」
「っ!」
と、即座に立ち上がり、再びダッシュする冒険者。
彼が通った場所には、水が垂れた跡があるのが滑稽だ。
(さて、魔王様に頼まれてる手前、あんまり一人に時間かけられませんしね……次に追いついたら、苗床にしちゃいましょうか)
現在。
アイリスはここまでに、四人のエミール派冒険者を捕まえている。
今頃、全員がゴブリンと仲良くしているに違いない。
などなど。
アイリスが考えたその時。
「ぜ、絶対に逃げ切ってやる! 俺は死なねぇ!」
と、聞こえてくる冒険者の声。
見れば彼、大通りから裏路地へ続く道へ曲がっていた。
(もぉ~~っ! 面倒くさいですね!)
ルコッテの裏路地は、ものすごく複雑で迷路のようなのだ。
しかも狭い――アイリスが悪魔羽を広げると、引っかかるレベルだ。
「はぁ……捕まえたら、もっと酷い目にあわせるしかないですね」
などなど、そんな事を考えた後。
アイリスは裏路地へと続く道へ曲がる。
するとそこには――。
「あ、めちゃくちゃ可愛いじゃないですか!」
積まれた木箱の上。
そこにふてぶてしい顔をした、ニャンコが座っていたのだ。
「う~む」
と、アイリスは周囲を見回す。
彼女が追い回していた、冒険者の姿はもうない。
これはもう仕方ない。
「あは♪ ほら、こっちですよ~、私が可愛がってあげますよ?」
言って、アイリスは猫へと両手を伸ばす。
だがしかし。
「にゃぁああああああっ!」
と、ダッシュで逃げていってしまう猫。
アイリスは全力で猫を追いかけながら、その猫へと言うのだった。
「もう、照れ屋さんですね~! このアイリス、ニャンコを絶対に捕まえてモフってあげますとも♪」




