魔王のゾンビ退治9
「こいつを操って、こいつの全魔力と引き換えにゾンビを召喚する」
「え、さっき倒したのにどうして!?」
と、驚いた様子のユウナ。
ジークはそんな彼女へと言う。
「召喚するのはただのゾンビじゃない。さっき言った通り、リッチの全魔力と引き換えに召喚する特殊なゾンビだ――肉も殆ど腐ってない、死体になったばかりの個体。いうなれば、フレッシュゾンビってところか」
「殆ど腐ってない……っ、まさかその状態なら、回復魔法で治せる!?」
「察しがいいな、さすがユウナだ」
地上でゾンビを倒すしかなかった理由。
それは身体が腐り果て、どうしようもない程、部位欠損していたからだ。
だが、ジークが今召喚しているゾンビにはその両方がない。
厳密に言うならばゾンビである以上、多少は腐ったりしている。
けれど。
(その程度なら、問題ない。俺が魔力にものを言わせ蘇生や状態異常回復、そして身体活性化などの回復魔法を使いまくれば、確実に元の人間にもどせる)
無論、普通に生きていた頃と、なんの変わりもなく。
などなど、そんな事を考えている間にも。
「ぅぅぁあ~~~~~~」
と、聞こえてくるゾンビ達の声。
見れば、ジーク達の周囲には大量のゾンビが立っている。
そんな奴等の顔には見覚えがある――地上で戦った村人ゾンビだ。
「さて、地獄のような苦しみを、また味わっているだろうけど」
と、ジークはリッチを即殺。
続けて、大規模回復魔法を使用しながら、ゾンビ達へと言うのだった。
「生き返って、人間に戻るためだ。もう少しだけ我慢しろ」
時はあれから十数分後。
場所はルコッテの街へと続く街道。
現在、ジーク達はアイリスの元へ戻るため、そこを歩いている。
(失敗するわけないが、村人全員を無事に人間に戻せてよかったな)
そう考えると、ダンジョンの奥にリッチが居てよかった。
なんせ、今のジークにはまだ死霊魔法は使えない。
今回ばかりは、リッチが居なければ詰んでいった。
そうでなければ、村人を蘇生できなかったのだから。
などなど。
ジークがそんな事を考えていると。
「でもさ、ジークくんってやっぱり優しいね」
と、嬉しそうな様子で言ってくるユウナ。
彼女はひょこひょこと、ジークの方へと寄ってくる。
そして、彼女はそのまま彼へと言葉を続けてくる。
「あの子からの依頼は『ゾンビの駆除』だった。だから、最後に村の人たちを蘇生させる必要はなかったのに……誰に頼まれるでもなく、やってくれるんだもん」
「悪いが、今回ばかりは完全に誤解だよ。あの子供に『ゾンビは駆除したけど、村人死にました』とか言ったら、文句を言われる可能性がある――魔王のプライドがそれを許さなかっただけだ」
「ダンジョンを潰して、安全を確保していたのは?」
「魔王のプライドだ。ゾンビが出てきた場所を放置するとか、そんな中途半端な仕事は俺には出来ない」
「もぉ~~~~~っ! ジークくんって本当にそういうところあるよね! 全然、あたしが言っている事を認めないんだもん!」
ぷいっと、そっぽを向いてしまうユウナ。
理不尽だ――ジークは本当の事を言っているだけなのに。
くいくい。
くいくいくい。
と引かれるジークの服の裾。
見れば、ブランがジトっとジークの方を見つめてきている。
そんな彼女はそのまま、彼へと言ってくる。
「ユウナが村人たちに追い回復魔法している間……まおう様、ブランと一緒に村人達に『悪いところはないか?』って聞いてた……あの時のまおう様――とても心配そうで、優しい顔してた」
「うぐっ」
「あれも魔王のプライド?」
「ぷ、プライドだ」
と、ジークはここでふと思う。
どうして今、「うぐっ」ってなったのか。
まさか図星だったのか。
(俺が無意識に村人達の身を案じていた? ということは、やっぱりユウナの言う通り――単純に優しいから村人達を蘇生させた?)
いや、絶対にありえない。
ジークは魔王なのだ。
いちいち、人間の心配などしない。
「…………」
まぁ、意味なく人間を殺したり。
目の前で困っている人間を、放置したりはしないが。
とはいえ。
(それも全部俺のためだ。そんな事をすれば、後味が悪くなるからな……ん、待てよ。どうして、そんな事で後味が悪くなるんだ俺は)
ダメだ。
混乱してきた。
「うぅ……っ」
「ジークくん!? 急に頭を押さえてどうしたの!?」
「まおう様、大丈夫? もしも頭が痛いなら……ブラン、頑張ってなでなでする」
と、聞こえてくるユウナとブランの声。
ジークはそんな二人の声を聞きながら、さらに混乱し続けるのだった。




