魔王のゾンビ退治8
「残念……まおう様に良い所、見せたかった」
と、ジーク達の方へとやってくるブラン。
彼女はユウナの傍に立つと、そのままジークへと言ってくる。
「でも、まおう様のかっこいいところ見れる……それはそれで嬉しい」
「じゃあ、ブランを最後まで戦わせてあげれなかったお詫びもかねて、俺が頑張って面白い戦いをしてくるよ」
「ん……楽しみにしてる」
まぁ問題は、あのリッチが相応の強さを持っているかだ。
少なくとも、《ヒヒイロカネ》を持っていないエミール。彼よりは強いに違いない。
などなど。
ジークはそんな事を考えた後、リッチの前へと歩いて行く。
すると。
「カ、カカ……オマエ、ツヨイ、マリョク……ホシイ」
と、ジークの方を指さし言ってくるリッチ。
ジークはそんな奴へと言う。
「ある程度、強い個体だとは思っていたけど、まさか喋ることまで出来るとはな」
「マ、リョク……ヨコセ、マリョク、ヲ、ヨコセ」
「あぁ、欲しいならくれてやる。もしも、俺を倒す事ができたならな」
「カカ……カカカッ! オマエ、ゴウマン……ユダン、シテイル」
言って、リッチはジークの方へと杖を向けてくる。
直後、ジークの真横に高速で展開される魔法陣。
そこからは、ブランの時と同じく――骸骨が召喚される。
だがしかし、その大きさは桁違いだ。
「カカッ……シネ!」
と、言ってくるリッチ。
同時、ジークの真横から、横凪に振るわれたものは。
巨大なオーガ。
その骸骨が持った、超質量のこん棒だ。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオッ。
と、ドーム状の部屋に響き渡る破砕音。
骸骨オーガの一撃により、巻き起こる暴風。
きっと、その一撃はあらゆるものを、跡形もなく消し去るに違いない。
ただし。
相手がジークでなければ。
「なるほど。この大きさの骸骨を召喚するのに、その速度。やっぱり俺の見立て通り、お前はこの時代にしてはかなり強い……素のエミールなら瞬殺できるだろう」
言って、ジークは骸骨オーガのこん棒を見る。
するとそこにあったのは。
持ち手以外が、綺麗に消滅したこん棒だ。
そうなった理由は簡単。
こん棒がジークの障壁にぶつかったからだ。
「ただ、それでもやっぱりお前は俺には勝てない」
言って、ジークは骸骨オーガを軽く小突く。
それと同時。
今度は骸骨オーガが消滅した。
その理由もまた簡単。
ジークの小突きの衝撃が強すぎた結果、奴は粉々になってしまったのだ。
そして、きっとそれを見ていたに違いないリッチ。
奴はジークへと言ってくる。
「カ、カカ……ナンダ、オマエ……ナン、ナンダ?」
「聞かなくてもわかるだろ? お前の本能が訴えているはずだ」
「……マ、オウ。ワレラ、ノ、アルジ……フレエ、ナラザル、モノ」
「正解だ。それでどうする?」
「……ッ」
と、ガクガク震えはじめるリッチ。
奴はジークが何者なのか、正確に理解してしまった。
結果、奴の本能だけでなく、理性も同時に訴えてきてしまったに違いない。
魔王には絶対に勝てない。
今すぐに首を垂れるべきと。
(俺としても、こいつをとある理由で殺すわけにはいかない。出来るなら、このまま降参してくれると嬉しいんだけど)
などなど。
ジークがそんな事を考えていると。
「カカッ……ツヨイ、マオウ……ツヨ、イ、ホシイ」
と、震えながらも、ジークへ杖を向けてくるリッチ。
ジークはそんな奴へと言う。
「その状態でも、俺に向かってくるか。なるほど――村人を犠牲にしたことは認められないが、その精神の強さは認めてやろう」
「マ、オウ……マオ、ウ……マオウマオウマオウッ」
と、リッチは杖を床へと打ち付けてくる。
同時、部屋中に描かれたのは、超巨大な魔法陣。
そこから放たれる赤い輝き。
(これは……室内に居るあらゆる存在の生命力を、急速に吸い取る魔法か)
きっと、長年かけて魔力を溜め、描いてきたものに違いない。
とても強力かつ凶悪なものだ。
(ブランとユウナも即死しかねないな……まぁ、俺には効かないが)
ジークはそんな事を考えた後。
すぐさま、ブランとユウナへと回復魔法を使用。
彼女達の奪われた生命力を補うため、生命力を注ぎ続ける。
そして、ジークはそのままリッチの方へと近づいていく。
リッチは後ずさり、ジークから徐々に離れていこうとしている。
当然、逃がしはしない。
「カカ、カッ」
と、露骨に恐怖交じりの声を発してくるリッチ。
ジークはそんな奴の顔面を掴むと。
「アイリス、使わせてもらうぞ」
言って、ジークは精神操作魔法を発動させる。
すると。
「じ、ジークくん!? なんだか、どんどん魔法陣が出てきているけど、なにこれ!?」
「ん……リッチから、これまで一番の魔力を感じる」
と、聞こえてくるユウナとブランの声。
ジークはそんな彼女達に言うのだった。
「こいつを操って、こいつの全魔力と引き換えにゾンビを召喚する」




