魔王のゾンビ退治6
「もうゴールは近いみたいだけどな」
ジークの視線の先に見えてきたもの。
それは鋼鉄製の扉に、魔力障壁を重ね掛けしたもの。
当初の想像通り、これを張ったものはかなりの強者に違いない。
「まぁ、俺には遠く及ばないがな」
言って、ジークは扉へと手を触れる。
瞬間、障壁がジークの手を押し返そうとしてくる。
だがしかし、ジークがそれでも力を込め、扉を押すと――。
バギギギギギギギギギギギッ。
バリンッ。
聞こえてきたのは、障壁が一斉に消し飛ぶ音。
ジークはそれを確認した後、扉を開く。
すると真っ先に見えてきたのは。
ドーム状の巨大な空間。
そして、中央にあるのは玉座。
そこには、古ぼけたローブと杖を持った骸骨が腰かけている。
「ジークくん、あれ」
と、緊張した様子のユウナ。
そんな彼女はジークへと言葉を続けてくる。
「リッチだよね……たしか、数百年前に絶滅した伝説の魔物」
「あぁ、その通りだ。ずっと生き残ってきたんだろうな、このダンジョンのなかで」
「あれが元凶、なんだよね?」
「まずあいつで間違いない。外のゾンビにも、あいつに似た魔力がこびりついてたからな」
感染経路としては。
リッチが召喚したゾンビから、村人へ。
そして、村人から村人へ連鎖といったところに違いない。
(にしても、こいつは相当強いな。ゾンビは死者だから、俺に本能で服従しなくてもおかしくはない。リッチも死者という点は同じだが……リッチには思考能力がある)
ならば、ジークに本能から服従してしまうはずなのだ。
そうならない理由は一つ――要するに、先ほどジークの感想通り。
強いからだ。
下手をすれば、ブランやアイリスよりも強い可能性すらある。
まぁものは試しだ、楽しませてもらおう。
考えた後、ジークは剣を――。
「まって、まおう様」
と、聞こえてくるブランの声。
彼女はリッチの方へ、一歩前に出る。
そして、そのままジークへと言葉を続けてくる。
「さっきブランは戦えなかった……だから、こいつはブランがやる」
「ブラン、わかってると思うが」
「大丈夫、ブランは五百年前よりも強い……あんなのに負けない」
「わかった。じゃあ、あいつの相手は任せる。ただし、危なくなったら止めるからな」
「ん……わかってる」
言って、ブランは一人、リッチの方へと進んで行く。
そして、ジークとブランのやり取りを見ていたに違いないユウナ。
彼女はジークへと言ってくる。
「ジークくん、どんな時でも優しいね」
「またそれか? 今度は何かしたか、俺」
「本当はジークくん、リッチと戦いたくてうずうずしてたでしょ?」
「まぁ、それなりには」
「でも、ブランさんのために譲ってあげたんだよね?」
「ま、まぁ」
「しかも、最後にブランさんを安心させる言葉もかけてあげて――ジークくんは、どこからどう見てもいい人だよ!」
にこぉっと、太陽の様な笑顔なユウナさん。
ジークが優しいかはさておき、彼女が楽しそうで何よりだ。
と、そんな事を考えている間にも。
「魔王ジークの忠臣が一人、竜姫ブラン――あなたを凍らせる」
ブランのそんな声が聞こえてくるのだった。




