魔王のゾンビ退治4
「っ!」
と、動き出すユウナ。
彼女はゾンビの方へと駆け寄っていくと。
「はぁっ!」
掛け声と共に、剣を一閃。
見事にゾンビを切り倒す。
けれど、当然ゾンビは一体ではない。
まるでユウナを取り囲むように、集まってくるゾンビ。
そして、その内の一体がユウナに掴みかかろうとした。
その瞬間。
「!」
ユウナはあえて態勢を崩すようにして、ゾンビの手を躱す。
そこから勢いを利用しての切り上げ。
見事にそのゾンビを打倒す……続いて。
「上位回復魔法 《エクス・ヒール》!」
言って、手を翳すユウナ。
その手が向けられているのは、彼女を取り囲むゾンビ達の一角。
直後、そこに居たゾンビ達は。
「ぅ……ぁう」
と、うめき声を漏らし始める。
さらに、奴等は次々と身体の端から消えていく――まるで煙になっていく様に。
上位回復魔法 《エクス・ヒール》。
それは純粋なる回復用途の魔法。
当然、相手を消すような凶悪な効果はない。
(例外として、死者相手に使う場合。全ての回復魔法の効果は反転する)
回復なら毒に。
蘇生なら即死に。
(ユウナが今使ったのは、超回復の魔法――反転すれば、凄まじい速度で身体を蝕む毒になる)
ゾンビがそんなものを受ければ、煙になって消えるのも当然だ。
などなど、ジークがそんな事を考えている間にも。
「ぁ、ぁ……あ」
と、一体のゾンビがユウナの背後から、彼女へと近づいている。
さすがに助けるべきか。と、ジークは構えようとするが――。
「上位回復魔法 《リバース》!」
と、即座に振り返るユウナ。
彼女はそれと同時、迫っていたゾンビへと触れる。
直後、そのゾンビはバシュっと音を立てて一気に消え去る。
ユウナが使ったのが蘇生魔法だからだ。
先ほど言った通り、効果が反転――ゾンビは即死したのだ。
(にしてもユウナ。身のこなしといい、回復魔法のキレといい中々だな)
無論、まだまだエミール達現代勇者には及ばない。
それでも、ユウナからは天性の何かを感じる。
(それにユウナは冒険者として、ひたむきに努力してきていた)
よくよく考えれば、ゾンビ程度に負けるはずがない。
例え、村人の事で彼女の剣が鈍っていたとしてもだ。
(要するに、心配しすぎだったってわけか)
これではユウナの事を言えない。
と、ジークがそんな事を考えている間にも。
「はっ!」
ユウナは時にそんな掛け声を交じえ剣を振り。
時には回復魔法を使いこなし。
まるで踊るように、次々にゾンビを屠っていく。
そうしてしばらく――彼女の周囲にゾンビが居なくなった頃。
「ごめんなさい……どうか、安らかに眠って。そして出来るのなら、次に産まれてくるときは満ち足りた人生を送れるように」
と、祈りを捧げるユウナ。
きっと、彼女が倒したゾンビ達のために、祈っているに違いない。
そんなユウナの姿は、どうしようもなく伝説の勇者ミアと被る。
やはり、真の勇者となるのは、ユウナ以外に考えられない。
少なくとも、エミールならこうはいかない。
きっと奴ならば。
『くはははははっ! 雑魚が! クソ共が! この俺様にたてつくから死ぬんだよ!』
『そこで一生くたばって居るがいい!』
『俺様はエミール・ザ・ブレイブ七世様だぞ!? 早く死ね!』
とでも言うに違いない。
あれで勇者を名乗るのだから、本当に嫌になる。
まぁ、奴が勇者を名乗ることは、もう二度とないが。
などなど。
ジークがそんな事を考えていると。
くいくい。
くいくいくい。
と、引かれるジークの裾。
見れば、いつの間にやらブランが居た。
彼女はジトっとした瞳で、ジークを見つめてくると。
「ブラン……何にもしてない」
と、そんな事を言ってくる。
彼女は未だ戦闘中のユウナを指さしながら、ジークへと続けてくる。
「もうゾンビ、二体しかいない……それも今ユウナが倒しそう」
「…………」
「まおう様、どうして顔を逸らすの?」
くいくい。
くいくいくい。
と、何度も裾を引っ張って来るブラン。
彼女はむすっとした様子で、ジークへと言ってくる。
「ブランも、まおう様に良い所見せたかった……残念」
「まぁあれだ。今回は相手が悪かった。ゾンビ相手に回復魔法の使い手――それも上位回復魔法の使い手をぶつければ、結果は火を見るより明らかだ」
「ん……ユウナ、すごく強くてびっくりした」
「でも、相手がゾンビや他の死者以外だと、こうはならない。見て分かったと思うけど、身体も魔法の使い方も、まだまだ荒い所が沢山ある――だから、その時は」
「ブランが守る……ブランはユウナの守護竜」
「そういうことだ」
と、ジークはブランの頬を撫でてやると。
すると。
「ん……好き」
と、手に頬を擦り付けてくるブラン。
安定の小動物的可愛らしさだ。
まぁそれはそうとして。
先ほどジークは、回復魔法の使い手は死者相手なら無双。そう言った。
けれど、それには一つだけ例外あるのだ。
(実力がかけ離れ過ぎた死者相手には、回復魔法を使ってもまるで効果がない……そして)
と、ジークは村の奥にある炭鉱らしき洞窟。
そちらへと視線をやる。
そこからは、この時代にしては珍しい。
凄まじい魔力と、死臭が漂ってきているのだった。
『常勝魔王のやりなおし』の書籍版、早い所だともう発売しているみたいです!
エ○大量追加(一万文字以上)してありますので、興味ある読者様は是非とも読んでみてください!




