魔王のゾンビ退治2
時はあれからしばらく後。
現在、ジークとユウナ、そしてブランは街道を歩いて居る。
その理由はもちろん。
「でも、どうして急に村にゾンビが出たのかな?」
と、言ってくるのはユウナだ。
彼女はジークへと言葉を続けてくる。
「だって、あの子の言う通りなら、村はずっと平和だったんだよね? 魔物の襲撃も滅多になかったらしいし。ゾンビが出るような戦いもなかったし」
「考えられる原因としてはいくつかあるな。一つは誰かの悪意に襲われた」
「それってつまり、ゾンビを魔法使いが操っているってこと?」
「あぁ、死霊使いってやつだな。ただ、本当にそうかまだわからないけど。そして、あと一つの方は――」
「ダンジョンの発掘」
と、ジークの言葉を継いで言ってくるブラン。
彼女は相変わらずの無表情で、ユウナへと言う。
「炭鉱とか掘っている時に、ダンジョンに繋がる時がある」
「そうすると、中の魔物が出て来ちゃうってこと?」
「そう……そういう事故は昔からよくある」
と、そこまで言うとブラン。
何故かジークの腕をきゅっと抱きしめてくる。
そのまま彼女はジークへと言ってくる。
「思い出す……ブランもまおう様に発掘されたことある」
「あぁ、五百年前か。たしか俺が人間との戦闘中、近くの山を破壊したら――」
「ん……山の地下洞窟に居たブラン、昼寝から目覚めさせられた」
「懐かしいな」
「あの出会いは運命……絶対に忘れない」
「あ、あはは……なんだか、今回の件とはスケール違う気がするんだけど」
と、なにやら微妙そうな表情をしているユウナ。
まぁ、彼女がそんな表情になるのも、わからなくはない。
(この時代の魔法はだいたい退化しているからな)
山が吹き飛ぶレベルの攻撃。
戦闘が起きても、そのレベルのものは起きないに違いない。
と、ここでふと思う。
そういえばジーク。
つい最近、エミールとの戦闘中に山消し飛ばしたばかりだ。
(あれは転生者である俺と、《ヒヒイロカネ》を持った現代勇者だからな)
きっと、ノーカンに違いない。
そもそも、あのレベルの戦いがしょっちゅう起こる様ならば。
この時代の人々は自衛のため、確実にもっと強くなっているに違いない。
などなど。
ジークがそんな事を考えていると。
「まおう様……村、見えてきた」
「でも、想像していたより静かだね」
と、言ってくるブランとユウナ。
ユウナはジークへと言葉を続けてくる。
「ゾンビに襲われたって言うから、もっと酷いのを想像してたんだけど。思ったより、被害が少なかったのかな?」
「ユウナが言いたい事はわかる、けどこれは」
人間にとってのゾンビ。
それは他の敵――例えば盗賊やゴブリンなどとは違うところがある。
静かなのだ。
ゾンビは死体。
故に小さなうめき声程度しか出さない。
けれど、『静か』の本質はそれではない。
ゾンビは同じ種族間でのみ、噛まれた場合に感染する。
人間なら人間。
ゴブリンならゴブリンと言った具合で。
(魔力が強い人間や、生命力が特別強い個体には感染しない。だが、あの村の住民がそうだとは到底思えない)
要するに。
村が静かなる理由は、村人が全員ゾンビになっている可能性が高い。
「ジークくん? けれどこれはって、どうしたの?」
ひょこりと首をかしげてくるユウナ。
さて、本当の事を言うべきかどうか。
ユウナは優しい。
きっと、真実を知れば悲しむに違いない。
しかし、ゾンビとの戦闘中にそれを知って、戦えなくなるよりましだ。
(ユウナは噛まれても確実にゾンビ化しないが、戦闘中の硬直が危険なことに変わりはないからな)
ジークがそんな事を考えた後。
ユウナへと声を――。
「村人は全員ゾンビになってる……だから静か」
かける前に、聞こえてくるブランの声。
彼女はユウナの方を見ながら、言葉を続ける。
「ユウナは人間だった魔物を……殺すことが出来る?」
「……それはっ」
「殺せないなら、ここで待ってて……ブランとまおう様だけで――」
「殺せるよ」
と、ブランの言葉を断ち切る様に言うユウナ。
彼女は胸元で手をきゅっとしながら、ブランへと言う。
「ゾンビになったら、もう治せないんだよね?」
「ん……無理。身体が腐ってるから、手遅れ」
「だったら、早く解放してあげなきゃかわいそうだよ」
ユウナの言葉は正しい。
ゾンビは死体だが、その魂は身体に捕らわれている。
そして、ゾンビで居る間、魂には永遠に痛みが襲い続ける。
陳腐な言葉だが。
本当の死こそが、ゾンビにとっての救済なのだ。
「ブラン、ちょっといいか」
「ん……なに?」
と、ひょこひょこ歩いて来るブラン
ジークはそんな彼女へと言う。
「俺の代わりに、ユウナに言ってくれてありがとう」
「ユウナはブランが守る……だから当然のこと」
「じゃあ安心だな」
「ん……安心」
と、何かを催促するかの様に、顎をくいっとあげてくるブラン。
ジークはそんな彼女の顎を、軽く撫でてあげる。
すると。
「まおう様……好き」
と、とろんとした様子の表情を浮かべてくるブラン。
まるで子猫のよ――。
「むぅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」
と、聞こえてくるのはユウナの声だ。
彼女はジークの方へ近づいて来る。
そして、彼女は顎をくいっとあげてくると。
「じ~~っ」
と、ジークの方を物欲しそうな様子で見てくる。
これはユウナさん、いつもの奴に違いない。
やれやれ。
ジークは考えた後。
ユウナの顎をブラン同様、軽く撫でてやると。
「~~~~~~~♪」
と、満足そうな様子のユウナ。
これくらいで、ユウナのゾンビに対する傷心。
それを少しでも取り払えるならば、安いものだ。
こしょこしょ。
こしょこしょこしょ。
右手でブランの顎を、左手でユウナの顎を。
それぞれ撫でるこの状況、よく考えるとシュールなのでは。
と、ジークが恥ずかしくなってきたその時。
「まおう様、あれ」
と、ふいに正気に戻った様子のブラン。
ジークが彼女の視線の先を追ってみると、そこに居たのは。
「ゾンビ――いつの間にか、だいぶ村に近づいていたか」




