第十章 世界に災いをもたらす者6
「うそだ……うそだ、全部嘘だ!」
と、首を振り始めるエミール。
まるで駄々っ子のようで、本当に情けない。
ジークはため息一つ、そんな彼へと言う。
「もう次の策はないんだろ? それじゃあ最後に、本物の上位魔法を見せてやるよ」
「な、なんだと!?」
「この時代の上位魔法にはうんざりしていたんだ……もちろん、お前の魔法にもな。周りへの影響を気にせず、全力で魔法をぶっぱなす――まったくもって芸がない。それとも、魔法の力が強すぎて、コントロールが出来なかっただけか?」
「ぐっ――」
「おいおい、図星かよ」
言って、ジークは剣を引き抜き、それをエミールへ向けて翳す。
エミールとはなんだかんだ、長い付き合いだった。
「ま、待て! 俺様を殺したら大変なことになるぞ! 俺様は勇者だ! 勇者を殺せば、全冒険者ギルドが、全世界が貴様の敵になる!」
などと、最後の最後までうっとうしい事を言ってくるエミール。
けれど、ジークはそんな彼を完全無視。
感慨深いが、これで終わりだ。
「さようなら、エミール。そして、これが本物――完全にコントロールされた上位闇魔 《ディアボロス》」
すると、エミールの背後に現れたのは巨大な門だ。
その門は徐々に開いていき――直後。
扉の内側へ向け、凄まじい勢いで吹き荒れる漆黒の風。
それは周囲にある全てを、次々に吸い込んでいく。
無論、光や音とて例外ではない。
そうして訪れたのは虚無。
光も音も存在しない闇の時間だ。
しかし、そんな時間も長くは続かない。
「閉じろ」
ジークが言うと、大きな音を立てて締まる門。
やがて、その門はゆっくりと消えていき、世界に光と音が戻ってくる。
けれど、その門が消えた周囲に残っているものは何もなかった。
空からは雲が……高台からは木々が消え失せている。
また、エミールが立っていた地面は、大きく抉り取られたかの様になっている。
「あらゆる物を飲みこむ闇魔法の神髄――本気でやるとこの大陸くらい、簡単に飲みむから、全力で加減したが……それでもやりすぎたか」
なんにせよ、これでもうエミールと会うことは二度とない。
死後の世界があるかはわからないが、きっとロイも満足してくれたに違いない。
「父さん……か。俺の目的のついでみたいな形になったけど、仇は取った――そう言ってもいいのかな」
ジークはそんなことを誰にともなく言った後、一人歩き出すのだった。
高台として原型をとどめないほど荒れ果てた地を後にし、仲間達が待つ場所を目指して。




