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第十章 世界に災いをもたらす者2

「これがこの俺様――エミール・ザ・ブレイブ七世の真の力だ! そして、こいつがこの俺様をサポートする道具」


 と、エミールが見せてくるのは、先ほどから持っている杖だ。

 その杖は黄金を基調とし、幾枚もの羽が生え――一見して、槍のようにも見える。

 彼はそんな杖を手に、さらにジークへと続けてくる。


「貴様ならこいつが何かわかるだろう? 貴様はこいつが怖いはずだからなぁ……くくっ」


(この気配……まさか《ヒヒイロカネ》で作られた武器の一つか)


 五百年前、勇者ミアがジークを倒した際に使用した伝説の武器。

 それを使って放つ攻撃のみが、魔王の絶対防御壁を崩すことが出来る。


(なるほど。これでさっきから、エミールの上位魔法の速度と威力が上がっているのも納得がいった)


 この《ヒヒイロカネ》で作られた伝説の武器には、対魔王以外にも効果があるのだ。

 それは持ち主の魔力や身体能力を、極限まで強化するというもの。


 中でも、元から才能ある者が用いた時の上がり幅は特に凄まじい。

 具体的に言うならば――単純なパワーだけで言うならば、ジークにも匹敵しかねない。

 ミアが使った時に至っては、完全にジークを上回るほどだった。


「ジークぅ! ビビッて声も出ないか!? だがなぁ、貴様がビビって小便ちびるのは、これからなんだよぉ!」


 と、ジークの考えを断ち切る様に聞こえてくるエミールの声。

 同時、次々と飛んでくるエミールの魔法。


 放たれたそれらはすべて、当然のように上位魔法。

 エミールはこの時代の人間にしては珍しく、元から一人で上位魔法を撃てていた。

 そこに《ヒヒイロカネ》の力が加わった結果がこれだ。


 ここまでの威力の上位魔法を連射されれば、ブランやアイリスでさえも確実にやられる。

 と、ジークは鞘から《隷属の剣》を抜く。


 そして、向かってくるエミールの上位魔法目がけ、剣を全力で振り下ろす。

 すると――。


 ジークの剣から不可視の刃が放たれる。

 凄まじい速度で剣を振った結果、真空の刃が生じたのだ。


 その刃は剣と同じく、凄まじい速度でエミールの上位魔法にぶつかる。

 結果、見事にそれを相殺――けれど、まだまだ終わりではない。


 ジークはさらに連続して、剣を振るい真空の刃を生み出す。

 そんな攻防を続けること十数秒。

 焦れたに違いないエミールは、ジークへと言ってくる。


「クソが! 弱いくせにいつまでも持ちこたえやがって……ウザイんだよ、そういうところが! 面倒だ! 俺様の全力で終らせてやる!」


「お前の全力? 面白いな見せてみろ」


「強がりを言いやがって! そう言っていられるのも、今のうちだ!」


 と、エミールは散々撃っていた魔法を止め、杖を翳してくる。

 そのまま彼は不敵な笑みを浮かべ、ジークへと続けてくる。


「あえて今この場で言おう……俺様は世界最強の魔法使いと称されている」


「あぁ、そうだろうな。それは認めてやるよ」


 先ほども言った通り、エミールはこの時代では珍しい一人で上位魔法を撃てる人物。

 さらに、彼が得意としているのは光魔法。


 光魔法は極めて強力だが、反対に扱いが極めて難しいのが特徴だ。

 それを《ヒヒイロカネ》の力を使っているとはいえ、ここまでの力で行使する。

 最強と呼ばれても不自然ではない。


「くく、さぁそこでだ」


 と、ジークの考えを断ち切るように聞こえてくるエミールの声。

 彼はなおも不敵な笑みを浮かべ、ジークへと言ってくる。


「これから俺様が放つのは伝説の魔法――そう、五百年前に勇者ミアが魔王を倒したのと、同じ魔法だ!」


「…………」


「くはっ! 声も出ないほど恐ろしいか! いいだろう! ならばそのまま黙って死ね! 詠唱までをも完全に再現した伝説の魔法を見せてやる!」


 と、エミールは凄まじい魔力を杖に込め始める。

 そして――。


「『私は世界を守る盾になろう。私は魔を斬り捨てる剣になろう。この身は私のものであって私のものではない。この身は人々のための物なのだから。故に捧げよう、私の全てを……今この瞬間、私達の敵を撃ち滅ぼすために! この一撃で、平和を手にするために!』」


 エミールが言うその言葉。

 それを聞いた瞬間、ジークは頭がどうにかなりそうだった。


 たしかにエミールの詠唱は、ジークが死ぬ直前に聞いた詠唱そのままだ。

 けれど。


(あの詠唱はあいつの覚悟そのものだ)


 今でも覚えている。

 五百年前のあの時、ミアはボロボロになりながらも、ジークへ魔法を放ってきた。

 それこそ、死んでも構わないというかのように。


(平和をないがしろにする奴が……他人の感情を理解しない奴が……こんなクズがしていい詠唱じゃないんだよ)


 ジークが怒りで震えている間にも、エミールは魔力を溜めている。

 そしてついに。


「くくっ! ビビッて震えてくれていて、ありがとうジークぅ……貴様のおかげで無事完成、これこそ俺様が放てる最強の魔法……いや、ミア・シルヴァリアが放った魔法をも超えた最強の魔法! 受けてみるがいい――」


 と、言ってくるエミール。

 彼は杖にもう片方の手を添え、続けてくる。


「上位光魔法 《ゾディアック・レイ》!」


 直後。

 伝説の魔法が放たれるのだった。


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