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第九章 魔王は正々堂々戦いを挑む7

 結論から言おう。

 エミールにはすぐに追いついた。

 そして、所詮はエミールというべきか、下が下なら上も上というべきか。


「それ以上、この俺様に近寄るな! この卑怯者共め! もしもそれ以上近づけば、このガキを殺すぞ!」


 と、子供の頭に手を翳し、魔法を放つ準備をしているエミール。

 奴はやっぱりクズだった。

 そんなクズは、ジークへと言葉を続けてくる。


「いいか!? ガキの頭を吹っ飛ばされたくなければ、俺様のいう事に従え!」


「お前の言うこと? まさか逃がせとでも? 残念ながらそれは――」


「バカが! 俺様が貴様から逃げる!? 所詮は低能だなぁ! 俺様の要求は一つだ……ジーク、この俺様と一対一で戦え」


「……は?」


 予想外の提案すぎる。

 追い詰められすぎて、きっとエミールは頭がおかしくなったに違いない。

 と、ジークがそんな事を考えていると。


「いいか、貴様! この卑怯者め! 貴様には仲間がいる……なのに俺様にはいない! これは数の暴力だ! 恥を知れ!」


 と、イライラした様子のエミール。

 どう考えても、彼の言葉はブーメランだ。

 なんせ、最初に数の暴力を仕掛けて来たのは、確実にエミールなのだから。


(まぁ、だいたい一撃で倒したけど)


 とにかく、それはおいておくとして。

 実際、ここでエミールの提案に乗るのはジークにとっても都合がいい。

 なぜならば。


(エミールとは、二人きりで話したいこともある。それにどうせ倒すなら、絶望的な力の差をわからせてやりたいからな)


 特に後者にかんしては、こちらに仲間が居ては言い訳される要素を残してしまう。

 それになにより、相手はこの卑怯者。

 こんな奴相手に、仲間全員で出張ってはさすがにアホらしい。


「はぁ……」


「ぷぎゅ――っ!?」


 と、妙な声を出すエミール。

 その理由は簡単。


 ジークが瞬時にエミールとの距離を詰め、彼の顔面を手で掴んだのだ。

 同時、ジークはもう片方の手で、人質を解放する。

 すると。


「いい人間は……ブランが守る」


 言って、たたっと走り、誰より早く子供を保護するブラン。

 彼女は子供をユウナ達の方へ連れて行くと、頭をなでなでし始める。


(ブランも昔と比べて、ずいぶんと丸くなったな。いずれにしろ、今のブランなら何の心配もいらないか)


 と、ジークが考えている間にも、ジタバタしまくっているエミール。

 ジークは再びため息ついたのち、ユウナ達へと言うのだった。


「俺はエミールとケリを付けてくる。その子の事と、街の住民の事は任せた」


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