第九章 魔王は正々堂々戦いを挑む5
「なんだこの騒ぎは! まだあいつらを倒せていないのか!?」
言って、ギルドの中から登場するエミール。
そして、百に近い人数の冒険者達。
けれど、そんなエミールの言葉はピタリと止まる。
その理由は――。
「なっ!? き、貴様は! ぼ、冒険者はどうした!? 俺様のとっておきの駒たちは!?」
と、言ってくるエミール。
ジークはため息一つ、そんな彼へと言う。
「エミール……一つ聞きたいんだが、あの時――俺がお前を生かしてやった時、俺がお前に何て言ったか覚えていないのか?」
「だ、黙れ! かつて勇者にやられた、負け犬の分際で俺様にそんな口をきくな! そ、それに俺様は、そんなことなど一々覚えていない!」
「俺は『俺達にかかわるな』って言ったんだ。にもかかわらず、お前は俺達に盗賊を放ったな?」
「おい、貴様! ブラン! 何をしている!? 早くこいつを殺せ!」
「悪行もやめずに、人々を苦しめてばかり。それは今も変わってないみたいだな。街の人の反応を見ればわかる――みんなお前を怖がってるみたいだからな」
「おい、ブラン! 返事をしろ、そいつを殺せと言っている! この俺様の命令が聞けないのか! 俺様はエミール・ザ・ブレイブ七世様だぞ!」
「…………」
ダメだ、こいつ。
まったく会話が成立しない。
さらに当のブランが無視を決め込んでいるため、完全に話が停滞している。
もうこれ以上、エミールと話すのは時間の無駄に違いない。
「エミール。率直に言うと、俺はもうお前はいらないと思っている。お前が居ると、ミアの名がどんどん汚れて――」
「さっきからべちゃくちゃと、黙れこの下郎が!」
と、ようやく反応を示すエミール。
彼はイライラとした様子で、ジークへと言ってくる。
「何様だ貴様は!? イチイチ俺様に文句言ってきやがって! 貴様の親父――ロイもムカつくやつだったよ! まぁ、あいつはこの俺様が黙らせてやったんだがな!」
「……なに?」
「く、くははははっ! やはり知らなかったか! そうだよな、知っていたら俺様の下で働くわけがないだろうしな!」
「…………」
「教えてやるよ! 貴様の親父は、この俺様が殺してやったんだよ! 人々のためとか、ギルドを通さずに無償で仕事しやがって! 邪魔だったんだよあいつは! だから、罠に嵌めて殺した! 間抜けな最後だったよ、まったく!」
「…………」
「貴様にももううんざりだ! 殺してやるよ、今日ここで殺してやるよ!」
エミールは未だ何か吠えているが、ジークの耳には入ってこない。
ジークの父――アルの父であるロイがエミールに殺された。
その事実はどうにもジークの心を揺さぶる。
まるで鈍器で頭を叩かれかのように、ぐわんぐわんと景色が歪む。
(こんな奴に……こんな奴なんかに、父さんが?)
ありえない。
ロイは多くの人を救える人間だった。
そんな人がこんなクズに殺されていいわけ――。
「卑怯者!」
と、ジークの思考を断ち切る様に。
ユウナの声が響くのだった。




